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楽になりたかっただけなのに、熊みたいな男に拾われました!~物と話せる不思議な店で人生やり直します~  作者: かゆると


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『俺が俺になった訳』〜最終章〜

「……こういう意味だ、バカ」


俺はそれだけ言い残して

ボクから飛び降りた


「…………」


少しして―――


「…………えええええええええっ!?」


木の上から

リールの叫び声が響き渡る


「…………ふん」


思わず、口元が緩んだ


……やっと気付いたか


〘ガイル~〙


「……ボクか」


ジロリとボクを睨む


〘お前、嬉しそうだな~〙


「……うるせぇ」


〘でもよ~お前、分かってんのか~?〙


「……あ?」


〘……ふぅ♡〙


今度はバンが

呆れたように肩をすくめる


〘ガイちゃん♡

 明日からしばらく…

 リールちゃん、ガイちゃん♡のこと

 避けるわよぉ?〙


「………ふん…

 ……そんなことか」


〘あら♡〙


そんなこたぁ…

言われなくても分かってる


鈍いアイツのことだ


今まで本気で俺を

兄貴みてぇに思ってたんだろう


そんな奴にいきなり

『男として見ろ』なんて

すぐに切り替えられるわけがねぇ


戸惑うだろう


逃げるかもしれねぇ


俺と目すら合わせなくなるかもしれねぇ


「…………」


だが……

今は、それでいい


今日までアイツの中で

俺は『兄貴』だった


それが今日


初めて『男』になった


今は、それだけで充分だ


「………今は、な」


……さて


明日からどうすっか…


少し考えて

ふと、思い出す


『責任……取って

 クッキー、作って、たくさん』


「……ふんっ……

 ……クッキー作っか」


〘ガイル~……

 お前、さては追い詰める気だな~?〙


〘ふふふ♡

 ガイちゃん…吹っ切れたのね♡〙


〘……リールなら

 やってくれると思ったぜ~〙


「……あ?」


〘…………〙


ボクが、月明かりの下の

リールへ視線を向ける


〘俺が見つけたからな~〙


「…………」


「……何の話だ?」


〘いや……なんでもねぇよ~〙


「……………」


厨房へ向かいながら

もう一度、木の上を見上げる


リール

戸惑ってもいい


俺を避けたっていい


今すぐ答えを出せなんて言わねぇ


ただ……

もう、兄貴に戻るつもりはねぇ


お前が俺を男として見るまで


お前自身が

自分の気持ちに気付くまで


俺は待つ


離してやる気もねぇ


俺はもう――


お前がいねぇ毎日なんて

考えられねぇんだ


「…………」


ふと、夜空を見上げる


月の向こうに

あの日のアイツの顔が浮かんだ


「……デリー」


責め続けていた俺を


何年経っても

あの日から動けなかった俺を


お前は心配してくれてたんだよな


夢の中でまで

俺を探してくれていた


一度、目を閉じる


今さら謝ったところで

届かねぇことくらい分かってる


お前を守れなかったこと


お前をあの場所へ送ったこと


……胸の奥が、少しだけ痛む


まだ消えちゃいねぇ


たぶん、これからも

完全に消えることなんてねぇんだろう


でもよ……

それで、いいんだよな


お前がいたことも


お前と過ごした時間も


あの日の痛みも


全部、俺ん中に残していく


「…………」


けどよ――


もう、立ち止まらねぇ


だって……

俺は、見つけたから


俺の目の前には

今も、リールがいる 


俺を……引っ張り上げて

そう、思わせてくれた大事なやつがいる


「…………」


なあ、デリー

お前が最後に言おうとしたこと


『彼女との時間を――』


あの言葉の先が

今なら、分かる


「ああ……生きていく」


小さく呟く


それが、お前が俺に残してくれた

最後の言葉だったんだろう


月明かりの向こう


その先にある

まだ見えねぇ未来へ


「……俺は、行く」


拳を夜空に突き出す


「ありがと、な」


そして……

もう一度、木の上を見る


月明かりの下


リールはまだ

自分の唇に触れたまま、呆然と座っていた


「…………」


思わず、口元が緩む


「……お前が、好きだ」


さっきよりもずっと静かに


今度は―――

アイツには届かない声で


「……待ってるからな」


ふっと息を吐く


そして俺は、厨房へ向かった


「さて……クッキー、作っか」

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