『俺が俺になった訳11』〜未来へ〜
リールが目を覚まさないまま
十日目
俺は夢を見た。
『ガイル……』
「…………」
『ガイル!』
ポンッ
誰かに肩を叩かれた
「…………?」
振り向くと
そこに―――
デリーが立っていた
あの日のままの姿で。
だが、血に染まってもいない
傷ひとつない
ただ、いつものように
ニカッと笑っている
「……デリー……?」
『やっと、見つけた』
「…おま…そりゃこっちのセリフだ!」
一歩、デリーへ近づく。
「……俺……」
言葉が詰まる…
もう一度だけ会えたなら
言いたいことは、山ほどあったはずなのに
何を言えばいいのか分からなかった。
そんな俺を見て、デリーが笑う
『ガイル……』
「…………」
『大事な人が、出来たんだね』
「…………ああ」
『俺との約束……
守り続けてくれて、ありがとね』
「…………ああ」
それ以上、言葉が出なかった
デリーは、少しだけ目を細める
『大丈夫』
「…………?」
『彼女は、起きるよ』
「……え?」
思わず顔を上げる。
「お前……今、なんて……」
デリーは答えない
ただ、俺を見ている。
『ガイル……』
「…………」
『俺のことは、もういいんだ』
「…………」
胸の奥が、ズキッと痛んだ。
「……何言ってやがる」
『もう、大丈夫だから』
「…………」
デリーが、ゆっくりと口を開く
『彼女との時間を―――』
「…デ……」
その言葉の先を聞こうと
俺は一歩、踏み出した
その瞬間………
「……っ」
目が覚めた。
「…………」
薄暗い部屋
静まり返った空気。
「…………」
荒い息を吐きながら
俺はぼんやりと天井を見つめる。
「…………デリー」
返事はない
当たり前だ
もう、デリーはいねぇ。
「…………」
しばらく黙ったあと………
「……アイツ……」
掠れた声が漏れる。
「……なんて言ったんだ」
俺は
しばらく天井を見つめたまま動けなかった
部屋を出ると、俺はいつものように
リールの好きなミルクを温める
「…………」
今日こそ起きる
そんな保証はどこにもねぇ
それでも……
起きた時、すぐ飲めるように
毎朝、温めていた。
「……初めて茶ぁ飲んだ時の
アイツの顔……面白かったな」
思い出して、少しだけ口元が緩む
本人は隠してたつもりなんだろうが
苦虫を噛み潰したみてぇな顔を
必死に隠しやがって…
「…………ふっ」
あの顔ですら………
いや
そういうところも全部
俺は惚れてんだ
「…………」
……もう一度、見てぇ
笑った顔も
怒った顔も
泣いた顔も
俺を睨んでくる顔も
『大丈夫、彼女は起きるよ』
デリーの言葉が頭の中で浮かぶ
「……だといいがな」
そう、小さく息を吐いた
その時だった。
ドタドタドタ……!!
「…………?」
二階から、激しい足音が聞こえた。
「……ガイル!!」
「…………っ」
手が止まる。
「…………」
……幻か?
十日も待ち続けたせいで
とうとう都合のいい声まで
聞こえるようになったか
けど―――
ドタドタドタッ!!
足音が、どんどん近づいてくる
「ガイル!!」
「…………!」
…違う
幻じゃねぇ
この声は………
「…………リール」
キッチンへ駆け込んできたアイツを見た瞬間
考えるより先に、身体が動いた。
これ以上、強く抱き締めたら…
壊しちまう
そんなことくらい、分かってる。
分かってるのに……
俺はリールを抱き締めたまま
離すことができなかった。
「…………」
腕の中から伝わってくる温もり
……あったけぇ
ちゃんと、あったけぇ
胸元に感じる、小さな息遣い
俺の腕の中で動く身体
ちゃんと……生きてる。
「…………っ」
十日間………
何度この温もりを確かめたか分からねぇ。
手を握って
息を確かめて
胸に耳を当てて
大丈夫だ…
そう何度言い聞かせても―――
アイツが目を開けねぇだけで
あの日のことを思い出した。
呼んでも
揺すっても
二度と、目を開けなかった…デリーを。
「…………」
もう、嫌なんだ
俺の目の前から
大事な奴がいなくなるのは
「……リール」
抱き締める腕が震える
俺の目の前から
コイツまでいなくなったら
俺は……
今度こそ、耐えらんねぇ
「……ガイル
泣いてるの……?」
リールが、不意にそう聞いた。
「…………」
泣いてる……?
言われて初めて気が付いた
頬を伝う、生温かいものに
いつの間に………
俺は、こんなに弱くなったんだ
「…………」
大事なもんが出来れば出来るほど
失いたくねぇもんが増えれば増えるほど
……人ってやつは、弱くなるのか
「…………」
なあ、デリー
お前に聞きてぇことが、たくさんある
今なら…… お前と話してぇことが
たくさんあるんだ
『大事な人が出来たんだね』
ああ、デリー
お前がそうだったように…
俺にも…大事なもんが出来た。
「…………」
デリー……
お前を忘れるわけじゃねぇ
お前が死んだのは俺のせいだ
謝っても謝りきれねぇ
でも―――
俺は……コイツと………
「……泣いてねぇ」
そう答えて
俺は誤魔化すように
…リールをさらに強く抱き締めた。




