『俺が俺になった訳10』〜願い〜
ジレンから絵本の話を聞いて……
これでリールを戻せるかもしれねぇ
そう思った
……思ったが
「…………」
リールの顔を見つめる
本当なら
アイツの唇に初めて触れる時は
優しく頬に触れて
俺だけを真っ直ぐ見つめるアイツに
俺の意思で
アイツの意思で
触れたかった。
「…………チッ」
けど………
他に選択肢はねぇ
「……リール」
そっと額を合わせる
(……悪ぃ)
お前が、お前のまま戻ってきてくれるなら
怒りだろうとなんだろうと
俺はいくらでも受け入れる。
「…………」
……いや、違ぇな
全部、受け止める
怒鳴られても
泣かれても
謝れってんなら、何度だって謝る。
だから………
頼む
俺の目の前で
俺の手の届くところから
……いなくならないでくれ
そう願いながら
俺はリールの唇へ
そっと自分の唇を重ねた。
「…………」
どれくらい、そうしていたのか
ゆっくりと唇を離す。
「……リール」
「…………」
「リール……?」
その時――
「……っ……ガイ……ル?」
「…………!リール!?」
焦点の合わなかった瞳が、微かに俺を捉える。
「……ガイ……ル」
震える手が持ち上がる。
そして……
そっと、俺の頬に触れた。
「…………リール」
…戻った
俺を見てる
俺の声が………届いた。
そう思った、次の瞬間
ダラ……
頬に触れていた手から、力が抜けた。
「…………っ!」
腕が、床へ落ちる
「おい!!リール!!」
慌てて身体を抱き留める。
「リール!おい!!」
返事がない
「…………っ」
震える手で、胸元へ耳を当てる。
ドクン……
ドクン……
「…………」
心臓は……
動いている
(……生き……てる……)
「はぁぁ…………」
全身から力が抜ける
俺はそのままリールを抱き上げ
二階へ運んで、ベッドへ寝かせる。
すぐに目を覚ます
そう思っていた。
…………けど
一晩経っても―――
目を覚まさなかった。
次の日も
その次の日も
そして―――
一週間が経っても
リールは、眠り続けた。
俺はほとんどベッドの側を離れなかった。
何をしてやればいいのかも分からねぇ
医者を呼んでも
薬草を試しても
何をしても……
アイツは目を覚まさない。
「…………リール」
小さな手を握る
温かい
ちゃんと…生きてる
それなのに
………起きねぇ
「……頼む」
握った手を、自分の額へ押し当てる。
「頼むから……起きてくれ……」
返事はない
「…………」
眠り続けるアイツの手を握ったまま
気付けば、俺は
もうここにはいない奴の名前を呼んでいた。
「……デリー」
声が震えた。
「デリー……」
情けねぇ
死んだ奴に縋ったって
どうにもならねぇことくらい分かってる。
それでも……
「……頼む……」
リールの手を強く握る。
「俺じゃ……
どうしたらいいか……分かんねぇんだ……」
「…………」
「デリー……頼む……」
俯いたまま、目を閉じる
「リールを……」
掠れた声を、絞り出した
「……守ってくれ……」
「…………」
しばらく、リールの寝顔を見つめる
「……頼むから」
そっと、握っていた手を離す
そして………
眠り続けるリールの額へ
そっと唇を寄せた。
「……戻ってこい」
額に触れたまま、目を閉じる。
「俺の元へ……」
そう小さく呟いて
もう一度、リールの額をそっと撫でる。
「……戻ってきてくれ」
それから俺は、またリールの手を握った。




