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楽になりたかっただけなのに、熊みたいな男に拾われました!~物と話せる不思議な店で人生やり直します~  作者: かゆると


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『俺が俺になった訳9』〜気付いた気持ち〜

『デリー……!

 デリー……!!』


暗闇の中を、俺は必死に走っていた。


どれだけ走っても

どれだけ叫んでも


アイツの姿が見つからねぇ


「デリー!!

 どこにいやがる!!」


声が枯れるほど叫ぶ

それでも、返事はない。


ただ、暗闇だけが続いている。


『……ミリー……を頼むよ』


「…………!!」


聞こえた

確かに、デリーの声だ。


「……デリー!!」


声のした方へ走る


「どこにいやがる!!

 デリー……!!」


姿が見つからねぇ


「デリィーー!!」


もう一度、叫んだ瞬間………


ガバッ!!


「…………っ!!」


飛び起きる


全身、汗でびっしょりだった。


「……はぁ……はぁ……」


荒い息を吐きながら、辺りを見回す


薄暗い部屋


誰もいねぇ


「…………」


胸元を掴む

まだ、心臓が嫌なほど速く鳴っている。


「…………っ」


夢だった


分かってる

分かってんのに―――


「……姿を見せろってんだよ……」


掠れた声が漏れる。


「……デリー……」


返事はない


「…………チッ」


ボフッ!!


布団を拳で殴る


「……クソッ……」


拳を握り締める


何年経っても……


俺は―――。


そんな時だった

ミリーと再会したのは。


「……久しぶりね、ガイル」


「……ああ」


何年ぶりに聞く声だった


顔を見た瞬間

あの日のデリーが、頭に浮かんだ。


『……ミリーを頼むよ……』


「…………」


忘れちゃいねぇ

…忘れられるわけがねぇ


その日から

ミリーは店にちょくちょく来るようになった。


正直に言えば……

来てほしくねぇと思うこともあった


顔を見れば、デリーを思い出す


あの日のことも

最後に聞いた、アイツの声も


それでも俺は、ミリーを追い返せなかった。


あいつが最後に残した言葉

あいつとの約束…だからだ


「…………」


そんな俺の気持ちを

リールも

なんとなく分かっていたのかもしれねぇ


だから何も言わなかった。


ミリーが店に来ても

俺と話していても


ミリーが俺に触れても

ただ、ほんの少しだけ視線を逸らす


そして何でもねぇみたいに笑う。


「…………」


けど………

俺には分かった


アイツの視線を見りゃ、分かった


嫌なんだろうって

俺とミリーが一緒にいるのが

ミリーが俺に触れるのが


なのに………

アイツは、何も言わねぇ


平気なふりして笑って

自分の気持ちを、胸の奥へ押し込めている。


「…………」


俺が

ミリーを拒めねぇことを分かってるから


そんなアイツを見ていると

胸の奥が、妙に痛んだ


我慢してほしいわけじゃねぇんだ

俺だって

そんなことを望んでるわけじゃねぇ


俺にだって、怒ればいい

腹が立ったなら、ぶつければいい


俺が困るとか、傷つくとか

そんなこと、考えなくていい


「…………」


なのに、アイツは何も言わねぇ


その姿が

まるで、いつかの俺を見てるみてぇだった


何も言わずに抱え込んで………

俺は、大事なもんを失った。


「…………」


だから………

リールには、同じ道を歩いてほしくなかった。


俺じゃ………

アイツに素直な気持ちを

吐き出させてやることすら出来ねぇのか


兄貴以上にはなれねぇのか…


「…………」


……違う

そんな綺麗なもんじゃねぇ


俺が………

聞きてぇんだ


俺だけには………

何も隠さないでほしい


誰にも見せられねぇような顔も

言えねぇような気持ちも


全部………

俺にだけは、見せてほしい


そう思ったら

身体が、勝手に動いていた


気付けば俺は

アイツを抱き締めていた―――


「全部……全部嫌なの!!」


涙を零しながら、そう叫んだアイツを見て

俺は、どうしようもなく愛しいと思った


「…………」


こんな感情を………

俺が誰かに抱く日が来るなんてな


やっと、触れたリールの本音

嘘偽りのねぇ本音


それがこんなにも――

愛しいと思うなんてな


「…………」


……ああ


今なら、分かる。


デリー

お前がミリーを見ていた時の気持ちが


アイツのために強くなりたいって

アイツに認められたいって


嬉しそうに笑ってた、お前の気持ちが。


今なら――

少しだけ、分かる気がする。


「…………」


なあ、デリー………


お前が今の俺を見たら

なんて言うんだろうな。


――――――――――


「ガイル……! 助けて!」


「…………!」


ミリーの声だった。


女同士で話があるとか言って

リールと二人で店へ入ってから

しばらく経った頃


突然、店の中から悲鳴が聞こえた


俺たちは慌てて扉を開ける


「ガイル!!」


店へ入った途端

ミリーが泣きながら俺へしがみついてきた


「この子、おかしいわよ!

 もう二回も殴られたのよ!」


「…………」


その向こうに………

リールがいた。


「…………」


何も言わず

ただ、ゆっくりと


ミリーだけを見つめながら

こっちへ歩いてくる。


「……リール?」


返事はない


いつもの怒り方とは違った


普段のアイツは

触れば火傷しそうなほどだ


全身で感情をぶつけてくる


だが…

今は違う


ただ、静かに

怒っている


「…………」


その姿を見て


こんな時だってのに――


俺は、一瞬

綺麗だと思った。


けれど


「……リール」


もう一度、名前を呼ぶ。


「…………」


反応がない


「おい……リール?」


少し腰を落とし、顔を覗き込む。


「…………っ」


そこで、気付いた。


目が…合わねぇ


俺を見ていない


誰も見てねぇ


ただ、ミリーだけを見ているようで


本当はもう、何も見えてねぇ。


「…………リール?」


ゾクッ―――


背筋を、冷たいものが走った。


(……なんだ)


嫌な感覚だった。


知っている


俺は――

この感覚を、知っている


大事な奴が

目の前にいるのに


どれだけ手を伸ばしても

届かなくなっていく。


「……リール!」


肩へ手を置く。


「おい!聞こえるか!?」


返事はない。


「リール!!」


呼んでも

呼んでも


俺の声が、届かない。


(…………やめろ)


胸がざわつく


(やめてくれ……)


嫌な考えが、頭をよぎった。


このまま………

戻ってこねぇんじゃねぇか


「…………っ!リール!

 おい、俺を見ろ!!」


必死に呼びかける


その時だった。


コツン……


「…………?」


何かが、俺の足元へ転がってきた。


コップだった。


「……なんだ?」


拾い上げる。


その瞬間………


〘ガイル!〙


「…………!」


〘僕を見て!〙


「……お前……」


手の中のコップが

必死に俺へ訴えかけていた。


〘早く!

 僕の絵を見て!!〙


「……絵?」


コップを返す


そこには………


一人の姫と

その姫へ口づける、王子の姿が描かれていた。

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