『俺が俺になった訳7』〜自責の念〜
ピイイイイイ――!!
遠くから、笛の音が響いた。
「おーい!!
生存者はいるか!!」
「…………!!」
救護班だ
「デリー!!」
俺はデリーの肩を叩く。
「来たぞ!救護班だ!!」
「…………」
「おい!聞こえるか!?
もう大丈夫だ!!」
デリーの肩を支えながら
空いた手を大きく振る。
「おいっ!!ここだ!!」
「生存者だ!急げ!!」
数人の救護班が、こっちへ駆けてくる。
「怪我人がいる!!
かなり深い傷だ!」
駆け寄ってきた救護班の一人へ
俺は掴みかかるように詰め寄った。
「頼む!!
クラスAの万能石をくれ!!」
「クラスA……?」
「早くしろ!!」
「…………」
救護班の男が、俺の後ろへ視線を向ける
デリーを見た瞬間
その顔が、僅かに強張った。
「…………」
「何してやがる!!
早く万能石を出せ!!」
「……分かった
まず、傷を見せてくれ」
「ああ!早くしてくれ!!」
俺はすぐにデリーの元へ戻る。
「デリー!
聞いたか!?」
デリーの肩へ手を置き、何度も叩く。
「クラスAだ!
これなら助かる!!」
「…………」
「デリー?」
「…………」
「……おい…」
さっきまで俺の腕を掴んでいた手が
ダラッ…と、地面へ落ちていた。
「……デリー?」
肩を揺する。
「なあ……返事しろよ」
「…………」
「おい!」
何度肩を叩いても、反応がない。
「……デリー」
「…………」
「なあ……ミリーを嫁さんにすんだろ!?」
声が、震えた。
「今回のことだって……
自分で話せよ!!
お前が倒したって……
お前がトドメ刺したって……!」
「…………」
「…っ…!
ミリーに認めてもらうんだろ!?」
デリーの肩を掴む。
「一番隊の隊長になって……
アイツを嫁さんにして……」
声が、掠れる。
「……幸せに……なるんだろ……?」
「…………」
「なあ……」
何度揺すっても
何度呼んでも
デリーは、もう目を開けない。
「……デリー……?」
それでも俺は………
認められなかった。
「おい……」
「…………」
「返事……しろよ……」
「…………」
「頼むから………っ…」
デリーを思いっきり抱き締める
「…っ…デリィィー――――――!!」
俺の声だけが、 静まり返った山に響いた。
………………………………
その後のことは、よく覚えてねぇ
気が付いた時、俺は隊の監視室にいた。
あれだけの魔獣との戦いの後だ
臭気や放射線………
身体に何か異常がないか
しばらく隔離して様子を見るためだろう。
「…………」
ぼんやりと天井を見つめる
頭ん中が、妙に静かだった。
何も考えられねぇ
何も………
「…………デリー……」
名前を口にした、その時だった
手の中に、何かを握っていることに気付く。
「…………?」
ゆっくりと手を開いた。
「…………っ」
紫色のミサンガ
半分ほどが、黒ずんだ血に染まっている
デリーが
ずっと腕につけていたものだった。
「…………」
それを見た瞬間―――
「うっ……」
胃の奥から、一気に何かが込み上げた。
「グゥ……ッ!
ガハッ……ガハッ……!」
床へ手をつき、その場で吐いた。
「ハッ……ハッ……」
息ができねぇ
胸が痛ぇ
頭ん中に
さっきまでの光景が次々と浮かんでくる。
魔獣の背中
血に染まった身体
『俺……多分……死ぬ……』
『ミリーのこと……頼むな』
そして………
何度呼んでも、開かなかった目。
「…………っ」
ミサンガを握り締める。
ダアンッ!!
拳を床へ叩きつけた。
ダアンッ!!
「~~~~っ…!!」
もう一度
ダアンッ!!
「チクショウ……!!」
何度殴っても、何も変わらない。
「チクショウ!!」
デリーは戻ってこない。
「チクショオオオオオオ!!」
声が枯れるほど叫んだ。
手の中のミサンガを
強く…爪が食い込むほど握り締め続けた。
しばらくして
俺は監視室から出された。
「…………」
廊下を歩く
人の声も聞こえているはずなのに
何を話しているのか、頭に入ってこない。
目に映るすべてが
白黒に見えた。
俺が………
俺が、死ぬはずだった。
余計なことなんか、しなければよかった。
偽善みてぇな気持ちで
自分の功績をアイツに譲ったりしなければ
デリーが一番隊へ上がることはなかった。
あの日…
最前線へ送られることもなかった。
デリー自身の力だけなら……
今頃は、まだ二番隊。
俺がいた部隊にいたはずだ。
そうしたら………
俺が最初から、隣にいられた。
守れたかもしれない
………助けられたかもしれない。
「…………俺が……」
俺が
アイツを、一番隊へ押し上げた
俺が
アイツを、あの場所へ送った
俺が………
デリーを、死に追いやったんだ。
「……ガイル」
「…………」
聞き覚えのある声に
ゆっくりと顔を上げる。
「…………」
そこには…
ミリーが立っていた。
「……ミ……リー……」
デリーの顔が浮かぶ。
『ミリー……のこと……頼む……な』
「…………っ」
喉が詰まる
それでも、どうにか声を絞り出した。
「す……すま……」
「ガイル!!」
胸ぐらを掴まれた。
「…………」
「どうして……!」
ミリーの顔が
涙でぐしゃぐしゃに歪んでいく。
「どうしてデリーは死んだの!?」
「…………」
「あなたもいたんでしょう!?」
バンッ!!
拳が胸へ当たる。
「あなたもいたのに!!」
バンッ!!
「どうして助けなかったの!!」
バンッ!!
「どうして……!」
「…………」
「どうしてよ!!」
何度も
何度も
ミリーの拳が胸へぶつかる。
痛くはなかった
何も、感じなかった。
「うっ……うぅ……」
やがてミリーは
俺の胸元を掴んだまま、その場へ泣き崩れた。
「どうして……デリーが……」
「…………」
俺は………
何も言わなかった
いや…言えなかった
…理由なんか分かりきって
「…………俺の……」
ようやく出た声は
自分のものじゃないみたいに掠れていた。
「……せいだ」




