『俺が俺になった訳6』〜最後の会話〜
シン……
あれほど響いていた咆哮も、剣戟も消えた。
静まり返った戦場を
冷たい風だけが吹き抜けていく。
「…っ…デリー!
デリー!!
目ぇ開けろ、デリー!!」
「……怒鳴……らないでよ……」
デリーが薄く目を開ける。
「傷に……響く……だろ……」
「お前……っ」
生きてる
まだ、喋れる。
「…と、とにかく帰るぞ!
ほら、俺に掴まれ!!」
デリーの腕を取り、自分の肩へ回そうとする。
けれど………
「ガ……ガイル……」
「あ?」
「俺……さ……」
「喋んな!!」
思わず怒鳴る。
「後でいくらでも聞いてやる!
だから今は黙ってろ!!」
「…………」
「ほら、立て!
帰るぞ!!」
「……俺……さ」
「デリー!!」
「多分……死ぬ……」
「…………」
一瞬
頭の中が真っ白になった。
「……バカなこと言ってんじゃねぇ!!」
デリーの身体を支える腕に力を込める。
「救護班がもうすぐ着く!
万能石だってある!!
だから……それまで耐えろ!!」
「…………」
「いいな!?
死ぬとか二度と言うんじゃねぇ!!」
「……ミ、ミリーに……さ」
「ああ!?」
「俺の……話……してよな……」
「…………」
「俺が……さ……」
デリーが、倒れた魔獣へ目を向ける
口元に、ほんの少しだけ笑みが浮かんだ。
「アイツを……倒したって……」
「…………」
「トドメ……刺したって……」
「……分かった!!」
俺は傷口を押さえながら、何度も頷いた。
「分かったから!!
俺がちゃんと話してやる!!
だから傷を押さえろ!
もう喋んな!!」
「…………へへ」
デリーが、少しだけ笑った。
「……あり…がと…
と……ところで、さ……」
「あ?」
「さ、さっきまで……
戦いっぱなし……だったんだ……」
デリーの手が、俺の腕を掴む。
「頼む……から……
少し……休ませて……」
苦しそうに息を吐きながら
それでも口元をほんの少し緩めた。
「死…死ぬ……よ?俺……マジで……」
「…………」
「……分かった」
本当なら
一刻も早く救護班のところへ連れて行きたい。
だが………
この状態で無理に動かす方が危ねぇ、か。
俺は辺りを見回した
少し離れたところに、大きな木がある
その根元へ木の葉を敷き詰めると
デリーの身体をゆっくり横たえた。
「……これでいいか」
「ヒュー……ヒュー……」
デリーの呼吸は浅い。
「み……水……
ある……か?」
「あ、ああ!」
慌てて水筒を取り出す
「ほら。いくらでも飲め」
デリーの頭をそっと支え
口元へ水筒を当てる。
……ゴクン…ゴクン……
「…………」
ゴロ……ゴロ……
「…………っ」
デリーの胸の奥から、嫌な音がした
水を飲み込むたびに、濁ったような音が混じる。
(……なんだ、この音……)
胸の奥がざわつく
それでも俺は
その嫌な予感を無理やり押し込めた。
「……ちょっと休んだら
救護班のところへ急ぐぞ」
「…………」
「聞いてんのか、デリー」
「……聞いてる……よ」
「だったら返事しろ」
「……した……だろ……」
「…………ふん」
まだ、いつものデリーだ
…話せる
水だって飲めた
だから………大丈夫だ。
俺は……
そう思おうとしていた。
「ヒュー……
はぁ――……」
デリーがゆっくり息を吐く。
「……なあ、ガイル」
「あ?」
「俺……さ……
知ってんだ……」
「何をだよ」
「ミ、ミリーが……
お前を……好きだって……」
「…………」
俺は小さく息を吐いた。
「……分かりやすいからな、アイツは」
「アハハ……
だよ……な……」
デリーが、ほんの少し笑う。
「俺……さ……」
「…………」
「ミリーが……好きだったんだ……」
掠れた声が、静かな森に落ちる。
「ずっと……
ずぅっと……」
「……ああ、知ってる」
デリーがどんなにミリーを好きか
そんこたぁ、俺が一番よく知ってる
「…今回のこと伝えたら
アイツ腰抜かすぞ」
「アハハ……
そう……かもね……」
「だから自分でちゃんと言え
お前が倒したってな」
「………………なあ、ガイル」
「ああ?」
「ミリー……のこと……
頼む……な」
「…………は?」
デリーが、ゆっくり俺を見る。
「いつか……」
一度、大きく息を吸う。
「お前に……
大事な人が……できるまで……でいい……」
「…………」
「それまで……
ミリーのこと……頼む……な」
「……何言ってやがんだ」
胸の奥が、ざわつく
さっきからこいつは……
まるで……
自分がいなくなる
みてぇなことばかり言いやがる。
「そんなもん、てめぇで…!」
「ガイル……」
デリーの手が、俺の腕を弱々しく掴んだ。
「ミリー……を……」




