続・怒ってる理由
『アンタに何が分かんだ!!
ほっといてくれ!!』
男は怒鳴った。
でも…
その顔は今にも泣き出しそうだった。
「金は返してやる」
ガイルは面倒臭そうに言う。
「だから、さっさと帰れ」
腰に手を当てると入口を親指で指した。
「ちょっと!!」
思わず声が出た。
「さっきから何なのよその態度!」
ガイルが怪訝そうに振り返る。
「お客様でしょ!?」
『…………』
私の言葉が予想外だったのか
男は驚いたように目を見開いた。
今にも泣きそうな顔のまま
ただ黙って私を見つめている。
(……今かな)
接客をしていた頃の勘だった。
私はそっと男の背中へ手を添える。
「ガイル……
あ、店主のいないところで話しましょうか」
そう言ってカウンターの端へ男を促した。
その瞬間。
ザワッ……
また空気が揺れた気がした。
(……?)
思わず辺りを見回す。
でも今度は昨日とは違う。
どこか焦っているような
慌てているような
そんな空気だった。
(……また?)
不思議に思いながらふと後ろを振り返る。
すると……
ガイルが物凄い顔でこちらを睨んでいた。
(……何よ)
私は思わず眉をひそめる。
(なんで怒ってんのよ)
『……アンタ』
男は視線を落とした。
どこか気まずそうな顔をしている。
『アイツの女か?』
「……違います」
私は即答した。
そして少し考える。
「ありえません」
また少しだけ空気が揺れた気がした。
でも今は、それどころじゃない。
私は男へ向き直った。
「……お話、出来そうですか?」
そう問い掛ける。
男はしばらく黙っていたが、
やがて…
ポツリ
ポツリと話し始めた。
剣が呪われていることは
最初から知っていたこと。
それでも買ったこと。
そして
弟のためだったこと。
「……弟さんのために?」
私が相槌を打つと
男は拳を握り締めた。
『……弟は病気なんだ』
視線を落としたまま続ける。
『でも、魔物討伐軍で
魔物にトドメを刺せたら万能石が手に入る』
『それで……』
男は唇を噛んだ。
『弟を治してやるつもりだった』
「……そうだったんですね」
私は静かに頷いた。
「その悔しさも悲しみも……
申し訳ありませんが
私には想像でしか共感できません」
男は黙ったまま俯いている。
「でも……」
私はそっと男の握り締めた拳を見る。
「自分の病気のために」
言葉を選ぶように続けた。
「お兄ちゃんが傷付いて……
もし、万が一のことがあったら」
そして
そっと拳へ手を重ねた。
「弟さんは……どう思うでしょうか」
男の肩が小さく震える。
「私だったら」
私は小さく首を振った。
「耐えられません」
男は更に拳を握り締めた。
けれど
やがて力が抜ける。
『…………ありがとな』
そう小さく呟いた。
『怒鳴って悪かった』
そして頭を下げる。
「いえ」
私は微笑んだ。
そして男の手を両手で包み込む。
「大丈夫ですよ」
「お話してくださって
ありがとうございました」
男の表情が少し和らいだ。
「では…」
私は仕事モードの笑顔を浮かべる。
「返金対応でよろしいですね?」
そう言いながら、ガイルへ視線を向けた。
そして。
(……ぇ゙!?)
思わず変な声が出そうになる。
離れているはずなのに、分かる。
ガイルの額に青筋が浮いていた。
(な……な……なんなのよ!!)
青筋を浮かべたまま
ガイルはこちらへ歩いてくる。
スタスタと
迷いなく。
(……え、怖い)
なんだか分からないけれど…
凄く怒っている。
そして何故か
その怒りの矛先は、私達らしい。
(な、なんで!?)
思わず男の前へ出た。
まるで庇うように。
その瞬間。
ピキッ。
ガイルの額に浮かぶ青筋が 一つ増えた。
「……返金対応で納得してくれるって」
なぜ怒っているのか分からない。
だが、とりあえず
これ以上ガイルの青筋を
増やさせないためにも、冷静に業務報告をする。
「……チッ」
ガイルは物凄く嫌そうな顔をした。
「ああ、聞こえた」
そして懐へ手を突っ込む。
「……金とこれ、持ってけ」
男へ向かって放ったのは返金分の金と…
青と緑が混ざったような
手のひらほどの丸い石だった。
『……これは……』
男の目が見開かれる。
『万能石じゃねーか!!』
食い入るように石を見つめている。
「…昔な」
ガイルは面倒臭そうに頭を掻いた。
「魔物討伐が得意なアホから
いくつか貰ったんだよ」
そして顎で入口を示す。
「それで用は済んだろ」
「さっさと帰れ」
『い、いいのか!?
ありがとう……ありがとう!!』
男の顔が一気に明るくなる。
『お前、変人で有名だけど
実はいい奴なんだな!!』
そう言いながら
ガイルの肩をバンバン叩いた。
「だーっ!!うっとうしいやつだな!!」
ガイルは男の腕を払いのける。
「さっさと帰れ!!弟が待ってんだろうが!!」
そう言いながら、男を入口へ押していく。
その様子を見て、思わず声が出た。
「あ、少しお待ちください」
ピタッ。
ガイルと男の動きが止まる。
私は二人へ歩み寄った。
そして…
最高の接客スマイルを浮かべる。
「壊した扉と」
「外の棚」
私はゆっくり指を差した。
「直して頂けますよね?」
ニッコリ笑う。
「……ね?」




