『俺が俺になった訳4』〜嫌な予感〜
「なあ、聞いたか?」
「ああ、最近北の山に出る魔獣のことだろ?」
「バカでけぇらしいな
もう何人もやられてるって話だぞ」
あの日、隊の食堂は
北の山に現れた化け物級の
魔獣の話で持ちきりだった。
ひと月ほど前から突然姿を現し
暴れ回っているらしい
今のところ被害は山の中だけだ。
だが
それがいつ人里へ下りてくるか分からない。
人里へ下りる前に食い止める
それが、俺たち魔獣討伐隊の仕事だった。
「なあなあ
ガイルならサクッとやっちまうんだろ?」
同期が俺の肩に手を置いて笑う。
「……さあな」
そう答えたものの
胸の奥が妙にざわついた。
その時だった。
「今朝早く
一番隊が討伐に向かったらしいぜ」
「皆、無事に帰ってくるといいよな」
「…………あ?」
思わず顔を上げる
「今……なんつった?」
「は? 皆、無事に帰って……」
「…違ぇ!!」
思わず怒鳴っていた。
食堂中の視線が、一斉に俺へ集まる
「その前だ!!」
「あ、ああ……」
同期は戸惑いながら答えた。
「一番隊が討伐に向かったって話だが
ま…もし一番隊でダメなら
援護で俺たち二番隊にも声が掛かるだろうな」
その先は聞いていなかった
椅子を蹴り飛ばすように立ち上がる。
「お、おい!
ガイル!!どこ行くんだ!」
「うるせぇ!!」
俺は食堂を飛び出した。
(デリー……デリー!!)
アイツに限って、やられるなんて
そんなはず、ねぇ。
なのに……
なんだ、この胸騒ぎは…
ザラリとした何かが
ゆっくりと俺の身体を這い回る。
嫌な予感が
全身にまとわりついて離れない
「…そんなはずねぇ、アイツは大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように呟き
それを振り払うように、俺は走った。
ただ、ひたすら走り続けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「うわあああああっ!!」
「避けろー!!」
「また一人やられた!」
「ええい!援護はまだか!!」
討伐現場へ駆けつけた俺は、思わず息を呑んだ。
想像していたよりも、遥かに酷い
魔獣特有の、卵が腐ったような臭気
そこへ
人間の血がむせ返るほど濃く混ざっている
視界に飛び込んできたのは
辺り一面に転がる隊員たちの亡骸。
腕だけ
脚だけ
原形を留めていない者もいる。
地面は血でぬかるみ
踏み込むたびに靴裏が張り付いた。
「………っ!!
デリー!!誰か、デリーを知らねぇか!!」
返事はない
俺は魔獣へ斬りかかりながら
必死に仲間の顔を探した。
その時………
「お前は、二番隊のガイルか!?」
振り向くと、一番隊隊長だった。
「……隊長!!デリーを見なかったか!?」
「ああ、最初の突撃隊にいたのは見た!
だが、その後は分からん!」
隊長は魔獣から目を離さず叫ぶ。
「それより援護隊は来るのか!?」
「…さっき応援砲を上げた!
もうすぐ来るはずだ!
それまで持ちこたえられるのか!?」
グアアアアアオオオオッ!!
咆哮だけで木々が震える
隊長は剣を握り直した。
「……分からん
こんな化け物、俺も初めて見る
だが、これ以上犠牲者は出せん!」
剣先を魔獣へ向ける。
「ガイル!
お前は足を狙え!
ヤツの動きを止めろ!
その隙に、俺が首を落とす!」
俺は剣を構え直し、小さく息を吐く
「……迷ってる暇はねぇな」
俺は剣を振り上げ
魔獣の意識をこちらへ向ける。
「おい!デカいの!こっちだ!」
グアアアオオオウッ!!
雄叫びを上げた魔獣が
両腕を広げたまま二足で突進してきた。
ダムッ!
ダムッ!
ダムッ!
一歩踏み出すたび、大地が揺れる
「……今だ!」
俺は真正面から駆け出し
その巨体の懐へ滑り込んだ。
そして………
ザシュッ!!
ザシュッ!!
ザシュザシュッ!!
狙うのは脚
膝
そして、ふくらはぎ
深く、確実に斬り裂く。
グアァ!!ギャアアアオオオ!!
魔獣の巨体が大きく揺らぐ
二本脚では支えきれず
前脚を地面へ突こうとした……
「でぇぇぇやあああああっ!!」
隊長が木から木へと飛び移り
一気に魔獣の頭上へ躍り出る。
両手で握った剣を
渾身の力で振り下ろした。
「もらったぁぁぁ!!」
しかし……
魔獣の瞳がギロリと動く
気づかれた
「しまっ――」
バァァァンッ!!
巨大な腕が横薙ぎに振るわれ
隊長の身体が紙切れのように吹き飛ぶ。
「ぐあぁっ!!」
「隊長!!」
グウ……ウルルルル……
脚を斬られた痛みからか
魔獣はその場へしゃがみ込む
その隙に、俺は隊長の元へ駆け寄った。
「隊長!!おい!しっかりしろ!」
「ぐはっ……ハッ……ハッ……」
隊長は苦しそうに咳き込み、口から血を吐いた。
「だ……大丈夫だ……」
そう言う声に力はない
「ガ……ガイル、頼みがある
……残った連中を連れて退却しろ
お……お前にしか頼めん」
「……悪いが
デリーを見つけてからだ」
「ガイル、聞け!」
ガシッ!!
血まみれの手が、俺の肩を掴む
隊長は苦しそうに首を横へ振った
「さっき……飛び上がった時……
俺は……見た」
息を吸うのも苦しそうに
震える声で続ける。
「デ……デリーが……
ヤツの背中のトゲに……
串刺しに…なってるのを……」




