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楽になりたかっただけなのに、熊みたいな男に拾われました!~物と話せる不思議な店で人生やり直します~  作者: かゆると


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俺が俺になった訳

「……やけに、でけぇな」


窓の外に浮かぶ月を見上げる。


「………………」


そういや……

リールと出会ったのも、こんな月夜だったな。


やけに明るい月明かりが


『表へ出ろ』


そう誘っているような気がして

気が付けば、俺は部屋を出ていた。


〘あら! ガイちゃん♡

 こんな時間にどこ行くの?〙


「……ほっとけ」


〘ガイル~

 お前、もうちっと言い方あんだろ~?

 バンは、お前が心配なんだよ~〙


「……分かってんだよ」


ぶっきらぼうに返すと


〘……ボク、黙らっしゃい〙


バンさんが

ボクさんをピシャリとたしなめる。


そしてすぐに、いつもの優しい笑顔へ戻った。


〘ガイちゃん♡

 あんまり遅くならないでね♡〙


「……ああ」


しばらく歩いたところで

俺は小さく息を吐いた。


「……ふっ…うるせぇ親どもだぜ」


口元が少しだけ緩む。


爺さんと婆さんが亡くなってからは


頼んでもいねぇのに

バンとボクが親代わりみてぇになっていた。


「早く帰ってこい」


「無茶すんな」


「ちゃんと飯食え」


そんな小言ばかりだ。


……でも、嫌じゃねぇ。


俺の本当の親父とおふくろは――


俺に物の声が聞こえると分かった日から

変わっちまった。


『本当に気味悪い……』


『ああ、あんたなんて

 産むんじゃなかった!!』


おふくろは泣きながら叫び

親父は俺を睨みつけた。


『二度と父と呼ぶな』


『お前は、俺のガキじゃねぇ』


特異な力を持つ子どもを授かった親は


その力ごと受け入れるか


恐れて拒絶するか


その2択が多いらしい。


……俺の両親は

迷うことなく後者だった。


俺を見ない


俺の声を聞かない


まるで最初から存在しなかったみてぇに…


飯も、水も

ろくに与えられなかった。


……あの時


爺さんがボクを連れて

家へ乗り込んできてくれなかったら


俺は、きっと死んでいた。


栄養失調に加え

親に殴られてできた無数の傷…


爺さんの家へ引き取られた俺は

しばらく寝て過ごしていた。


起き上がろうとすると

婆さんは決まって俺の肩をそっと押さえた。


「大丈夫だから、寝てなさい

 これから先は、まだまだ長いんだから」


そう言って

婆さんは一日のほとんどを

俺の側で過ごしてくれた。


目が覚めれば


「お腹空いたかい?」


と笑って飯を作ってくれて


眠くなれば

頭を優しく撫でてくれる。


あの頃の俺は


『愛』


なんてもん、信じられなかった。


だが………夜になると

今度は爺さんが俺の隣に布団を敷く。


そして


グオォォォォォッ!!


腹に響くような

デカいイビキをかいて寝やがる。


「……うるせぇ」


そう思いながらも

気付けば俺も眠っていた。


あんなにうるせぇイビキなのに

聞いていると、妙に…安心した。


…今思えば


あれが―――

『愛』ってやつだったんだろうな。


起き上がれるようになった頃だった。


店には爺さんと婆さんしかいないはずなのに

やけに騒がしいことに気付いた。


「あの子だ、あの子」


「本当だ!起きられるようになったんだ」


「声、掛けてみようか」


「でも、怖がらせちゃ悪いよ」


そんな小さな、小さな声が

店中から聞こえてくる。


「なぁ……じいちゃん

 食器たちが、俺に話しかけたそうにしてる


 ……話しても、いいか?」


爺さんは目を丸くしたあと


「ああ、そうじゃった」


と、思い出したように笑った。


「ガイル、お前にも

 こいつらの声が聞こえるんじゃったな」


そう言って

棚から一つのコップを手に取り、俺へ差し出す。


「長いこと

 次の主人を待たせておるからのぅ」


コップを優しく撫でながら

爺さんは穏やかに笑う。


「愚痴でも、聞いてやっとくれ」


その日からだった。


暇さえあれば、

俺は店中の物たちと話すようになった。


「あの主人、元気にしてるかな」


「次はどんな人が使ってくれるんだろう」


「今日は誰も来ないねぇ」


話題なんて、くだらねぇことばかり


それでも、楽しかった。


「だぁ~……寝れねぇ……」


夜になっても


「まだ話したい!」


と、ギャーギャー騒ぐ奴らもいて

何度寝不足になったか分からねぇ。


けど……

もう隠さなくていい


そう思えたことが

何より嬉しかった。


デリーと初めて会ったのも


確か……

バンと話をしていた時だったな。

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