心配かけて…ごめんなさい
〘あらあら~♡
リールちゃん♡
やっと目を覚ましたのねぇ♡〙
ふわりと
バンさんが姿を現し
私とガイルの周りを楽しそうに飛び回る。
〘ガイちゃん♡
リールちゃんは目を覚ましたばかりなのよぉ♡
そろそろ離してあげなさい♡〙
「…………」
ガイルは何も答えない。
ただ、小さく首を横に振るだけだった。
〘…………〙
一瞬だけ、バンさんの笑顔が止まった。
〘……チッ〙
小さく舌打ちをすると
〘離せって言ってんのよ〙
「…………」
それでも、ガイルは離そうとしない。
むしろ私を抱く腕に、ほんの少し力がこもった。
〘バンの言うとおりだぜ~〙
今度はボクさんが
のんびりとした口調で声をかける。
〘起き抜けのレディに、いつまでも
みっともなく、くっついてんじゃねぇよ~〙
バリッ!
一本の枝が伸び
ガイルの身体へするりと巻き付いた。
「……っ…おい!」
そのまま、ぐいっ!
「わっ……!」
私とガイルの身体が、強引に引き離される。
「…………」
枝でぐるぐる巻きにされたガイルは
不満そうに眉をひそめた。
それでも、視線だけは私から離れない。
小熊がお気に入りのぬいぐるみを
取られて拗ねている…
そんな姿に見えて、少し笑ってしまった。
〘リールちゃん♡
体調はどう? 大丈夫?〙
ボクさんに拘束されたガイルへ
〘シッ、シッ♡〙
と手を振りながら
バンさんが私の肩へそっと手を置く。
そのまま、優しく頭を撫でてくれた。
「うん……大丈夫」
少し身体を動かしてみるが
特に痛いところもない。
「それより、何があったの?
ミリーさんは……?」
〘リールちゃん♡
落ち着いて♡
一つずつ話すわね♡〙
バンさんは優しく微笑むと
私を椅子へ座らせた。
そして、ゆっくりと話し始める。
どうやら私は
十日ほど、眠り続けていたらしい。
「……十日?」
思わず聞き返す。
〘そうなのよぉ♡〙
あの日
どれだけ呼びかけても、
焦点が合っておらず、反応しなかったこと。
そして……
詳しくは教えてくれなかったけれど
ガイルが私を目覚めさせようと
必死になっていたこと。
「…………?」
なぜだろう
その話をするバンさんも、ボクさんも……
妙にニヤニヤしている。
(……なんで
こんなにニヤニヤしてるのかしら?)
そんな疑問が頭をよぎったけれど
話はそのまま続いていく。
そして
私がガイルの名前を呼んだ直後
そのまま眠ってしまったこと。
〘……それから
ず~っと眠ったままだったのよ♡〙
「そんなに……眠ってたんだ……」
まだ、いまいち実感が湧かない。
するとバンさんが、大げさに肩をすくめた。
〘そうよ~♡
もうガイちゃん♡たら
お医者さんを呼ぶだの
気付けの薬草を取りに行くだの……
まぁ~、慌てっぷりったら
見てられなかったわ♡〙
〘んだな~
ザックとジレンも
毎日のように来てたんだぜ~〙
「……そっか
みんなに、心配かけちゃったな
……ごめんね」
小さく呟いた、その時
コト……
目の前に、温かいミルクが置かれた。
〘ガイちゃん♡ね
リールちゃんが起きた時に
すぐ飲めるようにって
毎朝、毎朝必ずミルクをあたためてたのよ♡
ね、ガイちゃん♡〙
「………………」
バンさんの問いかけに
ガイルは黙ってコップを見つめている
「そうなんだ……
ガイル、たくさんありがとう」
ガイルは何も言わない。
「心配させて……ごめんね」
「……ああ」
ぶっきらぼうに答えると
ガイルはちらりとボクさんへ視線を向けた。
「……ボク」
〘ん~?〙
「離せ」
〘まだダメだ~〙
「……あ?」
〘お前、隙あらばリールに抱きつくだろ~〙
「……しねぇよ」
ぷいっ
ガイルは拗ねたように顔を背ける。
「…………」
その姿は
どう見ても、拗ねた子熊そのもので
思わず、また笑みがこぼれた。
でも……
さっき私を抱き締めていた腕の震えを思い出す。
『……このまんま……
目ぇ覚まさねぇんじゃねぇかって……』
あの掠れた声。
「…………」
私はそっとガイルへ近づく。
そして………
…ぎゅっ
「………っ!」
枝でぐるぐる巻きにされたままのガイルを
今度は私から抱き締めた。
ガイルが驚いたように目を見開く。
「本当に、もう大丈夫だから……」
背中へ回した手に、少しだけ力を込める。
「たくさん…心配かけてごめんなさい」
「…………」
ガイルは何も言わない。
ただ、驚いたように固まったまま。
「…………」
「…………」
やがて……
ギリッ……
枝が、微かに軋んだ。
〘お、おい、ガイル~
力入れんなって~
俺の枝が折れんだろ~〙
「……ボク」
地を這うような低い声。
「……今すぐ解け」
〘ダメだ~〙
「…………てめぇ」
〘…解いたら…お前理性保てんのか~?〙
「…………」
ガイルが黙る。
〘ほらな~〙
〘あらあら~♡〙
バンさんが口元へ手を当て
楽しそうに笑った。
〘ガイちゃん♡
残念だったわねぇ♡〙
「…………チッ」
ガイルは盛大に舌打ちをした。
「……?」
私は訳が分からず、首を傾げる。
ただ
さっきまでずっと…
不安そうだった琥珀色の瞳が
ほんの少しだけ
いつもの色に戻った気がした。




