ガイルの涙
「「………………」」
〘〘………………〙〙
ジレンくんの話が終わると
店の中が、シン……と静まり返った。
次の瞬間
全員の視線が、一斉にガイルへ向く。
ザックさん、ジレンくん
そして、バンさんやボクさんも
ジッ…とガイルを見つめる
「…………」
当のガイルはというと
ただ黙ったまま固まっていた。
「………お前ら、二階に上がれ」
ガイルは静かに腰へ手を当てると
ひらひらと手を振り、皆を促した。
「え?」
「お、おう……」
ザックさんは戸惑いながらも頷き
ジレンくんの肩を抱いて階段へ向かう。
〘ふふふ……♡〙
〘大丈夫だ~
見ねぇからよ~〙
バンさんとボクさんはそう言い残すと
すっと姿を外へ移動させた。
店の中には、ガイルと私だけが残る。
「………………」
相変わらず、私の焦点は合わないまま。
ガイルはそっと私の額と自分の額を合わせる
「………不本意…だろうが
我慢しろ…」
ボソッと小さく呟くと
ゆっくりと私へ顔を近づけた。
………ピタリ
あと少し
その距離で、ガイルの動きが止まる。
「…………」
…ジロリ
ガイルは階段と窓へ視線を向けた。
「~~~~…っ…お前らなぁ………」
「兄ちゃん!見つかっちゃったよ!」
「やべっ!
に、逃げるぞ、ジレン!」
〘んまっ♡
こういう時だけ鋭いのねぇ~ん♡〙
〘減るもんじゃねぇのによ~
ケチだな~〙
ガタガタガタッ!
慌ただしい足音と笑い声が
二階へと消えていった。
「ったく……」
ガイルは首の後ろに手を当て
小さくため息をつく。
階段の方
窓の方
ぐるりと辺りを見渡す。
……もう誰もいない。
ようやく静けさを取り戻した店内で
蔦に拘束されたままの私を
そっと抱き寄せた。
優しく…
壊れ物を抱きしめるように
「……戻ってこい」
そう小さく呟くと
私の額へ落ちかけた前髪を
指先でそっと払う。
そして
優しく……
唇を重ねた――
………………………………
真っ赤に染まった世界の中に
ポツリと、一つ
琥珀色の光が浮かんだ。
(……琥珀色
私の……大事な色)
胸が締め付けられるほど
大切な色なのに
それが何なのか、思い出せない。
(私よりも、大事で……
何があっても、守りたい……色)
その琥珀色は
ゆっくりと私へ近づいてくる。
「……リール」
遠くから、かすかに誰かが私を呼んだ。
(……誰?)
低く、よく通る声。
聞いているだけで安心する、不思議な声。
その声で名前を呼ばれるたび
自分の名前が
特別なものになったような気がしていた。
「……リール」
もう一度…
その声が、私の心へ届く。
(…………ガイ……ル)
その名前を思い出した瞬間………
真っ赤な世界が、音もなく崩れていった。
「……っ!!ガイル!!」
ガバッ――!!
勢いよく体を起こす。
荒く息をつきながら見渡すと
そこは、私の部屋だった。
「ガイル……ガイル!!」
ベッドから飛び降りる。
そのまま部屋を飛び出し
勢いよくキッチンへ駆け込んだ。
コーヒーを淹れていたガイルが
私の声に勢いよく振り返る。
「……リール、お…前」
グイッと腕を引かれ
頭ごと胸へ抱き寄せられる。
「……ガ、ガイル……?」
突然のことに、私は目をパチパチさせる。
そんな私には構わず
ガイルはさらに腕に力を込めた。
ぎゅう……
息が詰まりそうなくらい強く抱き締められる。
そして…気付いた。
その腕が……
かすかに震えていることに。
「……遅ぇんだよ」
掠れた声が耳元で響く。
「……え?」
「……このまんま…
目ぇ覚まさねぇんじゃねぇかって……」
その言葉は最後まで続かなかった。
「…………ガイル」
私はそっと呼びかける。
「……泣いてるの?」
腕の震えも
声の震えも
全部、隠しきれていなかった。
しばらく沈黙が流れ………
「……泣いてねぇ」
返ってきたのは
ぶっきらぼうに……
でも、絞り出したかのような…
ただ、一言だけだった。




