届かない声
〘はいはーい♡
リールちゃん♡
ちょ~っと落ち着きましょうねぇ♡
…ボク、お願い〙
〘あいよ~
リール、悪ぃな~
ちっとだけ我慢してな~〙
ボクさんはそう言うと
後ろから私をぎゅっと抱き締めた。
みるみるうちに蔓が伸び
私の体へ優しく巻き付いていく。
「……ボク、てめぇ……」
ガイルが低い声で呟き、鋭くボクさんを睨む。
すると…
〘はいはい、ガイちゃん♡〙
バンさんがひらりと二人の間へ入った。
〘今はヤキモチ妬いてる場合じゃないのよ♡
とりあえず、ミリーを外へ出しなさい♡〙
「…たくっ…
ミリー…悪いが今日は…」
「わ、私は…帰らないわ……」
ミリーさんは首を横に振り
必死にガイルの服を掴んだ。
「ガイル……
私を……追い出したりしないわよね?」
普段は大人びて見えたミリーさんが
今はまるで子どものように怯え
ガイルにすがっていた。
ガイルは何も答えない。
ただ、一度だけ目を閉じると
小さく息を吐いた。
「……バン、頼む」
〘んもうっ……♡〙
バンさんは肩をすくめ
呆れたようにため息をつく。
〘ガイちゃん♡がちゃんと出さないと
リールちゃん♡は止まらないわよぉ?
さっさと外へ連れて行きなさい♡〙
そして、ミリーさんへ視線を向ける。
〘ミリー、あなたも今日は引きなさい♡〙
「ガイル……
さ、さっきから誰と話してるのよ
と、とにかく、私は帰らないわ」
バンさんやボクさん
そして、ギンちゃんも
ミリーさんには
その姿も声も見えない、聞こえない。
だからこそ、何が起きているのか分からず
不安そうに辺りを見回した。
そして………
ガイルの腕を、強く掴む。
「……はぁ」
ガイルは短くため息をついた。
そっと、その手を自分の腕から外す。
「……ミリー」
一拍置き、静かに続けた。
「…悪い」
そのままミリーさんの手首を取り
扉の方へ歩き出す。
「ガイル!
私より、あの子を取るの!?
私はまだ、あなたが……!
それに……あなたも、私のこと……!」
ガイルは足を止めた。
けれど、振り返らない。
「……終わってんだよ」
静かな声だった。
それでも、その一言は重かった。
「……え?」
「全部な」
そう言って扉を開ける。
そっとミリーさんを店の外へ導くと
「ガイル……っ!」
「……手伝いは、いらねぇ」
少しだけ間を置いて
「……ありがと、な」
そう呟いた。
…パタン
静かに扉が閉まる。
ダンダンダンッ!!
店の外から、何度も扉を叩く音が響く。
「ガイル!
お願い、開けて!」
必死な声が聞こえる。
けれど………
カラン!
扉さんが、小さく音を鳴らした。
〘開けません〙
そう言うように
ピタリと閉じたまま動かない。
ガイルはそれを一度だけ確認すると
ゆっくりと私の方へ歩いてきた。
「……リール」
そっと頬へ手を添える。
目を合わせようと、少しだけ腰を落とした。
「…………」
「……リール?」
返事はない。
ガイルの声が、私には届かない。
目の前は、まだ真っ赤だった。
胸の奥で
ただ一つの感情だけが渦を巻いている。
………許せない
許さない………
その想いだけが、私を支配していた。
〘リールちゃん♡
もうミリーは
ガイちゃん♡が外へ出したわ
もう大丈夫よ、戻ってらっしゃい♡〙
〘リール~、聞こえてっか~?
戻ってこ~い〙
「リール、焦点合ってねぇぞ!
大丈夫なのかよ!?
おい、ガイル!何とかしろよ!」
「リールさん!
僕だよ!ジレンだよ!」
「……リール、おい!聞こえるか?」
ガイルが必死に呼びかける。
けれど、私から返事はない。
その時だった。
コツン……
「…………?」
ガイルの足元へ
一つのコップが転がってきた。
まるで
『これを見て』
と訴えるように。
ガイルは静かにコップを拾い上げる。
「……?」
コップに描かれた絵を見つめていると
ジレンくんが声を上げた。
「あっ!
僕、この絵知ってる!
僕の家にある絵本と同じ絵だよ!」
「ジレン……あの話か?」
ザックさんはジレンくんの頭にそっと手を置き
ガイルの持つコップへ目を向ける。
「……どんな話だ」
ガイルが低く尋ねる。
「えっとね
お姫様のお話なんだ
お姫様は国のみんなを守るために戦うの
でもね……」
ジレンくんは少し寂しそうな顔になる。
「戦えば戦うほど
心がどんどん黒くなっちゃって……
最後には
その黒に飲み込まれて倒れちゃうんだ」
「お、おい、ジレン……」
ザックさんは慌てて
ジレンくんの口を塞ごうとする。
けれど、ジレンくんは首をぶんぶん振った。
「兄ちゃん、ちゃんと最後まで聞いて!
でもね、でもね!
隣の国の王子様が
倒れちゃったお姫様にキスをすると……」
ジレンくんは満面の笑みで続けた。
「黒が、どこかへ逃げていってね!
お姫様も、目を覚ますんだよ!」




