逆鱗に、触れた
「あ…あなたは引かなくても
私とガイルの仲は引き裂けないわ」
一瞬怯んでいたミリーさんは
気持ちを立て直すように
真っ直ぐ私を見つめ返した。
私は小さく息を吐く
(……少し、冷静にならなきゃ)
「……話は、ちゃんと聞いていたわ」
ミリーさんをまっすぐ見つめ返す。
「でも……私には分からないことばかりなの」
「……分からない?」
「ええ、分からないわ…
どうして、デリーさんに黙っていたの?
どうして、ガイルに
デリーさんのことを何度も問い詰めたの?
どうして…ガイルから離れたの?」
一つ一つ、胸に溜まっていた疑問を口にする。
そして、大きく息を吸った。
「どうして……
ガイルを、信じないの?」
「…………」
私の問いに
ミリーさんは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「デ、デリーに話さなかったのは……」
ミリーさんは、静かに目を伏せる。
「三人でいられなくなるのが怖かったから……
あの二人は、兄弟みたいに本当に仲が良かった
デリーが私を好きなことも…分かってたわ
だから……私とガイルが恋人になれば
きっと、デリーは傷つく
そうしたら、あの二人だって
今まで通りではいられなくなるでしょう?
私は……
三人の関係が変わってしまうのが怖かった
ガイルも、デリーも……
どっちも失いたくなかったのよ」
「…………へぇ」
思わず、小さく声が漏れる。
「ガイルにデリーのことを聞いたのだって
当然でしょう?
私だってデリーを弟みたいに思ってた
何度も聞くに決まってるじゃない」
「…………そう」
「ガイルから離れたのも……
デリーが死んでから
彼は抜け殻みたいになってしまって……
どうしたらいいのか
分からなかったのよ
だから
そっとしておくしかないと思った…
私だって……辛かったのよ」
「…………ふーん」
ミリーさんは少し眉をひそめる。
「…あなただって
私の立場になったら分かるわ…」
「……………立場、ね」
私は込み上げるものを堪えるように
ぎゅっと拳を握りしめた。
「……やっぱり…分からないわ
だって…私なら絶対に側を離れない
一人になんて、させられないもの」
私の言葉に、ミリーさんは
ギュッと唇を噛む
「そ、それに……!
物が話すなんて
信じられるわけないでしょう?
物に命なんて、あるはずがない」
「…………」
私は静かにミリーさんを見つめる。
「…………それ
ガイルにも、言ったのね?」
私は
あの日のガイルの言葉を思い出していた。
『気味……悪くねーのか』
あの時のガイルの表情
怯えているような……
不安を押し隠そうとしているような、あの顔。
あんな顔をさせたのが
この人だけのせいだとは思わない。
でも……
好きな人に否定されること
それがどれほど心を傷つけるのか
ミリーさんは、何も分かっていない。
「ええ、初めて
その話をしてくれた時に言ったわ」
ミリーさんは迷いなく続ける。
「そんな薄気味悪いこと言っていないで
未来のために、私のために
ちゃんとした仕事に就いてって……」
パァン!!
気付けば
私はミリーさんの頬を叩いていた。
「っ……!」
ミリーさんは頬を押さえ、目を見開く。
「な、何するのよ!」
その瞳に、みるみる涙が浮かぶ。
私は震える手を見つめながら
小さく息を吐いた。
「……痛い?」
一歩、近付く。
「でもね……」
パァン!!
もう一度、頬を叩く。
「きゃっ!」
「こんな痛みより……」
声が震える。
「…ガイルは
もっと、もっと痛かったはずよ
心を傷付けられる痛みは……
どんな傷より、ずっと痛いのよ!!」
「ひっ……!」
ミリーさんは後ずさる。
そして、震える声で叫んだ。
「ガイル……!助けて!」
カランカランカランッ!!
ミリーさんの悲鳴が外まで響いたのか
それとも、外から店内の様子が見えたのか
勢いよく扉が開き
みんなが一斉に店へ飛び込んできた。
「ガ、ガイル!!
この子、おかしいわよ!」
両頬を押さえ
涙を浮かべたミリーさんが
ガイルの元へ駆け寄る。
私は構わず
ミリーさんをギッと睨みつけたまま
一歩、また一歩と歩みを進める。
「……リール、お前……」
ガイルが目を見開く。
その額を、一筋の汗が静かに伝った。
「リ、リール……落ち着け、な?」
「リールさん、止まって!」
ザックさんとジレンくんが
慌てて私の前へ立つ。
でも………
私は二人の横を、スッとすり抜けた。
視線は一度も逸らさない。
見ているのは、ミリーさんだけ。
「ひっ……!
ガ、ガイル……この子を止めて!
もう二回も殴られたのよ!」
ミリーさんは
震えながらガイルの背中へしがみつく。
「……リール」
ガイルは静かに私へ歩み寄ると
そっと肩に手を置いた。
少しだけ腰を落とし
私の目を覗き込もうとする。
「……リール」
「……どいて」
私はガイルを見ない。
ただ……
ガイル越しにいるミリーさんだけを
真っ直ぐ見つめ続けた。




