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楽になりたかっただけなのに、熊みたいな男に拾われました!~物と話せる不思議な店で人生やり直します~  作者: かゆると


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渡さない

カラン……


静かに店内へ入ると

カウンターにはミリーさんが腰掛けていた。


私に気付くと

ジロリと視線を向け、ゆっくりと立ち上がる。


店内には、私たち二人だけ。


さっきまで賑やかだった空気が

嘘みたいに静かだった。


私は息をひとつ飲み込み

ミリーさんの前まで歩み寄る。


「……話って、何でしょうか?」


そう尋ねると

ミリーさんは真っ直ぐ私を見つめた。


そして、迷いなく口を開く。


「……単刀直入に言うわ」


一拍置いて、静かに告げた。


「ガイルを、私に返してほしいの」


「……返す?」


思わず、その言葉を繰り返してしまう。


「分かっていると思うけど……」


ミリーさんは小さく息を吐いた。


「私、ガイルが好きなの」


「…………」


胸の奥が、小さく痛んだ。


「幼い頃から、ずっと一緒だった

 ガイルも……デリーも」


ミリーさんは

少し遠くを見るような目をして続けた。


「……デリーが死ななければ

 今頃、私はガイルと

 結婚していたかもしれない」


その言葉に、息をのむ。


「……デリー…さんって」


私がそう尋ねると

ミリーさんは静かに頷いた。


「ガイルはあなたに何も言ってないのね…

 デリーは…私とガイルの幼なじみよ

 優等生だったの

 勉強も、剣も……何をさせても一番だったわ」


少しだけ微笑んだあと

その表情は寂しげに曇る。


「もちろん、ガイルも凄かったわ

 二人は、その腕を買われて

 何度も国の魔獣討伐へ駆り出されていたの


 そのたびに

 大きな戦果を挙げていたそうよ」


「……でも、あの日――」


ミリーさんは静かに目を伏せた。


「いつもみたいに

 二人を出迎えに行ったの

 そうしたら……」


言葉を詰まらせ、小さく息を吐く。


「ガイルが、デリーを背負って帰ってきた」


「…………」


「デリーは、もう……息をしていなかった」


胸が、ぎゅっと締め付けられる。


「ガイルも酷い傷を負っていたわ

 何があったのか聞いても……」


ミリーさんはゆっくり首を横に振った。


「『俺のせいだ』って

 そればかり繰り返して……

 何度聞いても、何も教えてくれなかった」



「…………」


その言葉を聞いた瞬間

ザックさんが怒ってドーンザワカフェに来た

あの日のことを思い出した。


『魔獣討伐が得意なアホから

 いくつかもらったんだよ』


(……あの〘アホ〙って……

 デリーさんのこと、だったんだ……)


「それから、ガイルは変わってしまった」


ミリーさんは

どこか遠くを見るように目を細めた。


「何も話さなくなって……

 笑うことも、なくなった


 そんな彼を見ているのが辛くて……

 私は、彼と会わなくなったわ」


「………………」


その言葉に、私はぎゅっと拳を握りしめる。


「何度も会いに行こうと思った

 でも……私にできることは

 彼が立ち直るのを待つことだけだった」


「……………………」


「ずっと……何年も、心配していたわ


 そんな時だったの

 ドーンザワカフェが

 プレオープンするって話を聞いたのは」


ミリーさんは、少しだけ微笑む。


その笑みは、嬉しそうでいて

とても寂しかった。


「ようやく立ち直った

 そう思って来てみれば……」


そこで私を真っ直ぐ見つめる。


「彼の隣には、あなたがいた」


「ふふ…

 昔とは違って、無愛想ではあったけれど……」


ミリーさんは、ふっと優しく微笑んだ。


「あの抜け殻みたいだったガイルが

 厨房に立って働いている姿を見た時……


 少しだけ、生き生きとして見えたの

 それが、とても嬉しかった」


「…………」


「それに……」


ミリーさんは一度言葉を切り、静かに続ける。


「彼の目を見て、分かったの

 ……まだ、私を好きでいてくれてるって」


胸が、ドクンと音を立てる。


「デリーには話していなかったけれど……

 私とガイルは、両想いだったの


 …ガイルは言葉にしない人だけど

 態度で、彼の気持ちは分かってたわ」


「…………」


「もし、あの日……

 デリーが無事に帰ってきていたら


 私とガイルのことを

 デリーに話すつもりだった」


「…………………」


「結局…デリーには話せなかったけれど……


 ガイルと私の想いは、何も変わっていない

 だから……私にガイルを返してほしいの


 お店のことも、この先は私が引き受けるわ」


「…………………」


「ああ、そうそう……」


ミリーさんは思い出したように、小さく笑った。


「物が話すだなんて、おとぎ話…

 ガイルは

 まだそんなことを言ってる様子だけど……


 大丈夫

 私がちゃんと、目を覚まさせるわ


 だから、あなたは安心して身を引いて………」


ビュンッ!!


突然、何かが風を切る音が響いた。


ミリーの頬をかすめるように

勢いよく何かが飛んでいく。


「っ……!」


振り向くと

床には真っ二つになった雑巾が落ちていた。


「………………」


「……ふふ」


思わず、笑みがこぼれる。


「うふふふ……」


私はゆっくりとミリーさんへ歩み寄った。


「な……何?」


ガシッ…


返事もせず、その肩を掴む。


「…………ない」


「え?」


「あなたに、ガイルは渡さない」


一度首を横に振る。


「……ううん、渡せないわ」


肩を掴く手に、自然と力が入る。


「あなた、話聞いてなかったの?

 私とガイルは、まだ両想いなのよ?


 あなたが邪魔をする筋合いはないわ」


「…………」


私は静かにミリーさんを見つめ返す。


「……両想いだから、何?」


「え?」


「ガイルが、たとえあなたを好きでも……

 私は、引かない」

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