ザック、大騒ぎ
「い、たたた……」
腰をトントンと叩きながら、二階から降りる。
昨夜のガイルの無茶のせいで、身体中が痛い。
木から降りるあの瞬間……
ギュッと全身に力が入ってしまったせいか
あちこちが強張っているようだった。
「ガイルったら……
本当、体力バカなんだから
少しは手加減してよね…」
ぶつぶつと文句を言いながら
机の上の花瓶を手に取ろうとしたその時だった。
ふと視線を上げると
ザックが顔を真っ赤にしながら
ジレンくんの耳を両手で塞いでいる。
「あれ?二人とも来てたの?おはよう!」
「よ、よう!」
ザックはぎこちなく返事をすると
何故か私からスッと視線を逸らした。
「……?」
不思議に思い
耳を塞がれているジレンくんに声を掛ける。
「おはよう、ジレンくん
お兄ちゃんと何か遊んでたの?」
するとジレンくんは
ザックの手をひょいっと外し、にこっと笑った。
「リールさん、おはようございます!」
元気よく挨拶をすると
不思議そうに首を傾げる。
「よく分かんないけど
リールさんが『ガイルの体力バカ』って
言った瞬間、お兄ちゃんに耳塞がれたんだ」
「えっ、やだ!聞いてたの!?
そうなの、昨夜ガイルったらね………」
「リ、リ、リール!」
ザックが慌てて私の言葉を遮る。
「み、水換えすんだろ!?
ジレン!お前、代わりに替えてやれ!」
「え?う、うん!」
突然話を振られたジレンくんは
慌てて花瓶を抱え
そのまま井戸の方へ駆けていった。
「……?」
ますます意味が分からず、首を傾げる私。
そんな私を見て
ザックは大きくため息をついた。
「…気遣わせてごめんね?」
私は苦笑いしながら肩をすくめた。
「ガイルも、そろそろ降りてくると思うわ
昨日の夜
あんな運動した後でも早起きなんだから
体力バカ以外に呼びようが……」
言いかけた私の言葉を
顔を真っ赤にしたザックが慌てて遮る。
「だ、だ、だから!!
そういう話はやめろって!」
「……え?」
私はキョトンと首を傾げた。
「だって、本当に凄かったのよ?
しがみつかなきゃ落ちるって思うくらい
怖かったんだから」
「うわああああああっ!!」
ザックは頭を抱えてしゃがみ込む。
「朝から刺激が強すぎる!!
やめてくれえええぇ!!」
「だ、大丈夫?
あ、お茶!お茶淹れるわね」
そう言って厨房へ向かおうとした
その時………
「……朝からうるせぇな」
首をゴキゴキと鳴らしながら
ガイルが二階から降りてきた。
「………………」
ザックは何も言わず
ガイルをじっと見つめる。
「……な、なんだよ」
居心地が悪そうに眉をひそめるガイル。
ザックは大きく息を吸うと、真顔で言った。
「お前みたいな体格のやつが……」
ガイルは首を傾げる。
「リールがへばるほど無茶すんなよ
少しはリールの体力も考えてやれ!」
「……あ?」
ガイルは意味が分からないという顔で固まった。
「変なザックさん……」
そう呟きながら厨房へ向かい、お湯を沸かす。
やかんを火にかけて戻ろうとした
その時…
「痛っ……」
腰にズキッと痛みが走り
思わず身体が傾いた。
その瞬間
スッとガイルの手が私の身体を支える。
「……昨夜は悪かったな」
そう言うと、腰をポン、ポンと優しく叩いた。
「本当よ!」
私は頬を膨らませる。
「ちょっとは手加減して欲しかったわ!
ザックさんの言う通り、私の身体のことも…」
「お前らああああああっ!!
やめろぉぉぉぉ!!」
ザックの絶叫が店中に響き渡る。
「「……は?」」
私とガイルは同時に顔を見合わせた。
「え……っと、さっきからどうしたの?
ザックさん」
「…………気持ち悪ぃ、何だコイツ」
ガイルは腕を組み
顎をぽりぽりとかきながら
心底不思議そうにザックを見つめた。
〘はぁ~……もう、聞いちゃいられないわ!〙
その瞬間、ギンちゃんがふわりと姿を現した。
呆れたようにため息をつくと
涙目になっているザックさんの頭を
ぽんぽんと撫でる。
「ギン……
お前なら
俺の言いたいこと分かってくれるよな?」
ザックさんは
今にも泣きそうな顔でギンちゃんを見つめる。
ギンちゃんはコクリと頷くと
私をビシッと指差した。
〘勘違いさせるような行動や発言をする
このバカ女が、ぜ~~~んぶ悪いのよ!
あぁ~、可哀想なザック〙
「え、私?」
思わず自分を指差す。
「勘違いって何の話?
ただ私は、木のてっぺんから
ガイルに担がれて降りたせいで
身体が痛いって…
話をしてるだけなんだけど……」
ザックさんは目を点にしたまま固まった。
「……き?」
「そうよ、木」
「……木って、その……木か?」
「……?」
私は首を傾げる。
「ええ、外にあるボクさんの木だけど?」
「……………………」
店内が、一瞬しんと静まり返る。
ガイルは黙ったまま
私とザックさんのやり取りを聞いていた。
だが、その眉間には深いシワが刻まれ
ピクッ……ピクッ……
と頬が引きつる。
額には何本もの青筋が浮かび
ゆっくりとザックさんへ視線を向けた。
「………………」
その静かな無言の圧力が、怖い
「な、なんだよ!
俺はてっきり……アハ、アハハ……」
乾いた笑いを浮かべながら
ザックさんはガイルへ視線を向ける。
「悪かったな!ガイ……ル」
そのまま固まった。
ガイルは
無言のままザックさんを見下ろしている。
額には青筋が浮かび
眉間のシワはますます深くなっていた。
「………………」
ゴクリ、とザックさんの喉が鳴る。
そして、ガイルは低い声で一言だけ告げた。
「………………バカか、お前は」
〘ガイル!ザックは悪くないわ!!
勘違いさせるようなことばっかり言う
そこのバカ女が
ぜ~~んぶ悪いんだから!!〙
ギンちゃんはガイルとザックさんの間へ
ふわりと割って入ると
ビシッと私を指差した。
そして……
ギロッ!!
これ以上ないくらい鋭い目で私を睨みつける。
「勘違い、勘違いって……」
私は首を傾げる。
「ねぇ、何の話?」
カラン……カラン……
「お水替えてきたよ!
……って、みんなどうしたの?」
ジレンくんが花瓶を抱えながら戻ってきた。
「……なんでもねぇ」
ガイルがぶっきらぼうに答える。
「ふうん?」
ジレンくんは首を傾げると、今度は私を見た。
「あ、リールさん!
腰はもう大丈夫ですか?」
「ええ、まだ痛いけど……
さっきよりは大丈夫よ
ありがとう、ジレンくん」
「そっか!それなら良かった!」
ジレンくんは嬉しそうに笑う。
「ところで、さっきガイルさんのこと
『体力バカ』って言ってたけど……
昨日、ガイルさんと何したの?」
「え? 実はね……」
「うわあああああああっ!!」
ザックさんが頭を抱えながら叫ぶ。
「俺が悪かった!!
だからもう、その話はやめろぉぉぉ!!」
ザックさんの悲鳴が
店内いっぱいに響き渡った。
「…………うーん?」
「変な兄ちゃん……」
私とジレンくんだけが
不思議そうに首を傾げながら
ザックさんを見つめていた。




