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楽になりたかっただけなのに、熊みたいな男に拾われました!~物と話せる不思議な店で人生やり直します~  作者: かゆると


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お前のもんだ

その日の夜。


私はもう一度

ボクさんに頼んで

木の頂上へ連れてきてもらっていた。


〘バンとちょっと出掛けてくるからな

 降りたくなっても

 帰ってくるまで我慢しててな~〙


そう言うと、ボクさんは枝をゆらりと揺らし

バンさんと一緒に夜の街へ出掛けていった。


「夜の景色も……綺麗」


昼間とは違う静けさ。


家々から漏れる灯りが星のように瞬き

優しい夜風が頬を撫でる。


何時間でも見ていられそうな景色だった。


その時…


ガサッ……


「……?」


ガサガサッ


木の幹の下のほうから

何かが枝を揺らす音が聞こえてくる。


「え……何?」


嫌な予感が胸をよぎる。


「も、もしかして……

 魔獣が登ってきてる……?」


恐る恐る身を乗り出して下を覗き込む。


ガサーーッ!!


「きゃあああっ!!

 こ、来ないで!!」


「あ?」


聞き慣れた低い声が返ってきた。


「……え?」


暗闇の中から現れた顔を見て

私は目を丸くする。


「ガイル!?

 ど、どうやってここに!?」


「……ガキの頃から

 ボクに登って遊んでたからな」


「の、登ってきたの!?

 この高さを!?

 落ちたらどうするのよ!」


「……落ちたら、ボクを殴るだけだ」


「……?」


思わず首を傾げる。


「だ、だって!

 今ボクさん、出掛けてるんだよ!?」


ガイルは当たり前のように言った。


「……ボクの木だ

 落ちそうになったら、支えるだろ」


「…………え」


訳が分からないといった

顔をしている私をよそに


ガイルは夜景へ視線を向けた。


「……ここの景色は、ガキの頃と変わんねぇな」


ポツリと呟く。


その横顔は、どこか懐かしそうで

少しだけ寂しそうにも見えた。


カサッ……


「……夕飯、まだだったろ」


そう言いながら

ガイルが小さな紙袋を差し出した。


中には焼きたてのクッキーが入っている。


「……ありがと

 また試作品?」


一つ摘まみながら、小さく笑う。


「ミリーさんにも

 明日あげたらいいじゃない」


ガイルを見ないまま、何気なくそう言った。


「……やらねぇよ」


短く答えると

ガイルも一枚摘まみ、口へ運ぶ。


「……私は毒見係だからね」


そう言ってもう一枚取ろうと手を伸ばす。


すると


スッ……


ガイルが紙袋を自分のほうへ引いた。


「え……ちょっと」


思わず顔を上げる。


ガイルは真っすぐ私を見ていた。


「……お前だけだ」


「……は?」


何を言われたのか分からず

目をぱちぱちさせる。


ガイルは小さくため息をついた。


「……相変わらず、鈍いなお前は」


ペチッ


指先で軽くおでこを弾かれる。


「いった……」


おでこを押さえる私を見ながら

ガイルは少し照れくさそうに視線を逸らした。


「だから……お前のもんだ」


そう言って

紙袋をぐいっと私の前へ差し出した


「え……なにが?」


私は不思議そうにガイルを見つめる。


ガイルはしばらく黙ったまま私を見返し


「…………はぁ」


小さくため息をついた。


「……なんでだろうな」


そう呟くと

ひょいっとクッキーを一枚摘まみ


「むぐっ!」


私の口へ押し込んだ。


「むーっ!?」


思わず抗議しようとする私を見て


「……黙って食え」 


そう一言呟いた。


「むぐぐ……」


口の中に広がるクッキーは


この前食べた試作品よりも

なぜか少しだけ美味しく感じた。


(ガイルにとって……

 私って、なんなんだろう)


そう思った、その時だった。


かすかに

木の葉の向こうからひそひそ声が聞こえてくる。


〘ガイちゃん♡は、また誤魔化したわ!

 も~、本当素直じゃない子ねぇ♡〙


〘いや……

 リールの鈍さの方がヤバいだろ……〙


「「………………」」


私とガイルは同時に顔を上げた。


どうやら、ガイルにも聞こえていたらしい。


思わず二人で顔を見合わせる。


さっきまで穏やかだったガイルの表情が

みるみる険しくなる。


眉間には深いシワ


額には、一本の青筋。


「…………」


そして、小さく息を吸い込んだ。


「……聞こえてんだよ」


低く、よく通る声でガイルが一言だけ言う。


〘あら、まずいわ♡

 ガイちゃん♡怒ってるじゃないの!〙


〘俺んとこで話してんだから

 聞こえて当然だろ~〙


二人はどこか楽しそうに笑っている。


「……たくっ」


ガイルは小さく息をつくと


「降りるぞ」


そう言って、ひょいっと私を肩に担ぎ上げた。


「ちょ、ちょっと!!

 お、お、降りるって……


 まさか

 このまま降りるとか言わないわよね!?」


「…………」


ガイルは少しだけ黙る。


そして………


ニヤリと笑って


「……ふん

 お姫さん抱っこがいいか?」


「えっ?」


そう言うが早いが


ザザザザッ!!


木の幹を滑るように、一気に駆け下り始めた。


「バ、バカなこと……

 きゃあああああーーーっ!!」


夜空へ響いた悲鳴は


涼しい風にさらわれるように

静かに消えていった。

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