兄貴…みたいな…
ミリーさんが訪ねてきた日から
数日が経った。
それなのに…
(………………)
私は、まだミリーさんのことを考えていた。
「おい
コイツらはここでいいのか」
ガイルは二階から
食器さんたちの入った箱を抱え
階段を下りてくる。
グランドオープンに向けて
店内の配置を少しずつ変えている最中だ。
「………………」
「おい」
「………………」
「リール?」
「………………」
…ガシッ!!
「いたたっ!?」
突然、頭をムンズッと掴まれ
そのままぐいっと正面へ向けられる。
「おい、聞いてんのか」
「いった!!何すんのよ!」
「たくっ……何ボーっとしてんだ
ほら」
そう言いながら
ガイルは目の前へ食器さんたちの入った
段ボールをドスンッと置いた。
「あ……ご、ごめん」
「……まぁ、いい」
そう言うと
ガイルはいくつかの食器さんを抱え
厨房へ入っていく。
私はその後ろ姿をぼんやりと見つめた。
(……いつもと変わんない、な)
カランカラン!!
「よぉ! 来たぜー!」
「こんにちはー!」
元気な声と共に
ザックさんとジレンくんが店へ入ってきた。
「あ……こんにちは、二人とも」
「……よぉ」
私とガイルは、それぞれ挨拶を返す。
二人は顔を見合わせる。
「「………………??」」
「な、なんだ?
お前ら、喧嘩でもしたのか?」
ザックさんが交互に私たちを見る。
「リールさん、体調悪いんですか?
大丈夫です?」
ジレンくんも心配そうに顔を覗き込んできた。
「え?」
「いや、だってよ……」
ザックさんが頭をかきながら言う。
「いつもなら、もっとこう……
ガチャガチャしてるだろ、お前ら」
「ガチャガチャ……って」
思わず下を向く。
「……うるせぇ」
そう言いながら、ガイルはチラリと私を見る。
「と、とにかくだ!
改装、俺たちも手伝うぜ!」
「僕も頑張る!
ね、兄ちゃん!」
そう言いながら
二人は慣れた手つきで
食器さんたちを仕分けていく。
(……仲良さそうだな
兄弟、か)
私にも兄がいた。
二つ年上で、性格は私とそっくり。
顔を合わせれば言い合いばかり。
毎日のようにガーガー喧嘩していたけれど
それでも仲は良かったと思う。
そんな兄が結婚すると聞いた日のことを
ふと思い出した。
あの時は、すごく寂しかった。
『おめでとう』って言わなきゃいけないのに
素直に言えなくて
しばらく顔を見るのも嫌だったくらいだ。
「兄貴……元気かな」
ポツリ…と呟く。
そして、その時。
ふと、一つの考えが頭をよぎった。
(……あ、そうか
……あの時と同じだ)
胸の奥に引っかかっていたものが
スッとほどけていく。
(私……いつの間にか……
ガイルのこと、兄貴みたいに思ってたんだ)
そう考えた瞬間、妙に納得した。
それなら、このモヤモヤの正体も分かる。
ミリーさんっていう
元恋人らしい人が現れて
ガイルを……
兄貴を取られそうになった気がして
少し寂しかっただけなんだ。
(なーんだ……そっかぁ)
思い返してみれば………
料理が上手で
優しくて
それから、ずっと私の側で守ってくれた。
兄貴もそうだった。
普段はガーガー文句を言いながらも
いざという時には必ず守ってくれた。
(そっか、そうよ…
ガイルって、兄貴みたいな存在なのよ)
そう思った瞬間
胸のつかえがすっと消えていく。
「アハハッ!
なーんだ、そうだったのか!」
思わず笑い声が漏れた。
「あー、スッキリしたらお腹すいた!
ガイルー!
パスタ食べたーい!」
「……あ?」
ガイルがキョトン…とした顔で振り返る。
「なんだ、いきなり」
「いいじゃない!
ねぇ、ザックさんとジレンくんの分も
作ってあげてよ!
二人もお腹すいたよねー?」
「え? あ、ああ……
腹は減ってるけどよ」
「ぼ、僕もです……」
「ほら!
お願い、ガイル!」
「……なんだ、お前は
まぁ、いい
ちょっと待ってろ」
そう言いながら、ガイルは厨房へ入っていく。
(ふふふ……!
スッキリしたら、元気が出たわ!)
私はザックさんとジレンくんと一緒に
食器さんたちを片付けながら
料理が出来上がるのを待った。
しばらくして………
「ほら、出来たぞ
冷めないうちに食え」
ガイルが皿を運びながら声を掛ける。
「うわぁ……!
美味しそう!
今日はボロネーゼね!」
「……お前、好きだろ」
「うん!
ボロネーゼ大好き!」
私は満面の笑みで頷く。
そして、何の疑いもなく言った。
「ガイルって、ホント兄貴みたいだわ!」
「「え……」」
ザックさんとジレンくんの動きが止まる。
「……は?」
ガイルも目をぱちくりさせた。
「……?
私の兄貴もね
私が落ち込んでると
よくボロネーゼ作ってくれたの
『お前、好きだろ?』って言いながらね
だから、兄貴みたいだなーって!」
〘〘ズコーーー!!〙〙
店の外から、盛大にずっこける音が聞こえた。
ボクさんとバンさんだ。
〘…………鈍いな、リールは〙
ボクさんは大きな枝をぶらんと揺らしながら
大きなため息をつく。
〘い、いいのよぉ♡
リールちゃん♡が幸せなら……♡〙
バンさんは苦笑いしながら
そっとボクさんをなだめる。
そんな会話が
店の外で繰り広げられていることなど
知る由もなく………
私は、大好きなボロネーゼをぺろりと完食した。
「ごちそうさま!」
満足そうに手を合わせると
グーッと両手を上に伸ばす。
「さーっ!
張り切って改装、頑張りましょー!」




