タイプなんかじゃ、ない。
「……こないだも思ったけど
元気そうで良かったわ」
そう言いながら
ミリーさんは静かにカウンター席へ腰掛けた。
「……まあな」
ガイルは短く答える。
「……あ、私、お茶淹れてくる」
そう言って厨房へ向かおうとすると
「……いい
俺が淹れる、お前は座ってろ」
ガイルが私を制した。
「なによ、私にだって淹れられるわよ」
少しむきになって言い返し
そのまま厨房へ入る。
いつものやり取り。
いつもなら笑って終わる、何気ない会話。
なのに………
何故か、イライラした。
「ガイルは、あの人の相手してあげて」
ガイルと目を合わせないまま
そう言うと私は黙々と
お茶を淹れる準備を始めた。
やかんに水を入れ、火にかける。
湯が沸くのを待つ間
思わず二人へ視線を向けた。
ミリーさんは
そっとガイルの首の後ろへ手を伸ばす。
その表情はどこか寂しげで
それでいて優しかった。
「傷跡、残らなかったのね
良かったわ」
「……別に、残っても問題ねぇだろ」
ぶっきらぼうな返事。
それでもミリーさんは小さく首を振る。
「でも……デリーは気にしたと思うわ
あなたのこと
とても大切に思っていたもの」
「……まぁ、な
懐っこいやつだったからな」
その瞬間だった。
ガイルの表情が、ふっと和らぐ。
懐かしい思い出を胸にしまうような
優しい笑顔。
(……あんな顔……)
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
(私には
一度も見せてくれたことないじゃない……)
「……どうぞ、お茶です」
少しムスッとしながら
お茶を二人の前へ置く。
ミリーさんは、ふわりと微笑んだ。
「あら、ありがとう
……はい、ガイル」
そう言って、自分の湯のみを受け取ると
もう一つをガイルへ差し出す。
「あ、でも……」
思わず声が漏れる。
(そのコップは、ガイルと相思相愛なのに……)
そう思ったものの
それ以上言葉は続かなかった。
ガイルも何も言わず
そのコップを静かに受け取る。
「ああ……悪いな」
湯のみから立ち上る湯気だけが
ゆらゆらと揺れる。
「………………」
静かな沈黙が
店の中をゆっくりと流れていった
「……そういえば」
ミリーさんは静かにお茶をひと口すすり
ゆっくりと私へ視線を向けた。
「あなたのお名前、まだ聞いてなかったわね」
「あ……私は、リールです」
「リールさんね」
優しく微笑んだあと
今度はガイルへ目を向ける。
「ガイル
あなたの新しい恋人?」
「あ?
…バカ言うな」
「ふふっ、そうよね」
クスッと笑うと
ミリーさんはチラリと私を見つめた。
「あなたのタイプじゃないものね」
そう言って、ガイルの肩を軽くぽんっと叩く。
「……なんだそりゃ」
ガイルは呆れたように頭をかく。
「まぁ、いいわ」
ミリーさんは店内をゆっくり見回し
どこか懐かしそうに目を細めた。
「それより……
このお店、明るくなったわね
以前より、ずっと素敵だわ」
「あ?……ああ
リールが………」
ガイルが何かを言っている。
でも、その先の言葉は耳に入ってこなかった。
(タイプじゃない……)
その一言だけが
頭の中で何度も繰り返される。
(タイプじゃない……?)
胸の奥が、チクッと痛んだ。
(私だって……
こんな無愛想で、熊みたいな男……
タイプじゃないし)
そう…
タイプじゃない。
ぶっきらぼうで、愛想もなくて
何を話しかけても
「ああ……」とか
「……まぁな」とか
全然、会話が続かないし。
(そうよ……
タイプじゃない。
タイプなんかじゃ………)
コツン。
おでこに、何かが軽く当たる。
「おい……おい」
パチンッ。
「いたっ!」
思わずおでこを押さえる。
「今、デコピンした!?」
「……お、気付いたか」
ガイルは呆れたようにため息をつく。
私は慌てて店内を見回した。
「あ、あれ……?
ミリーさんは?」
「あ?
帰ったぞ
お前に何度か話しかけたんだが……
たくっ……何ボーっとしてんだ」
「ご、ごめん……」
小さく謝りながら
湯のみを片付けようと手を伸ばす。
「……いい、座ってろ」
そう言って
ガイルはぽんっと私の頭を軽く叩いた。
そのまま何事もなかったように
厨房へ入っていく。
私はその背中を見つめながら
思い切って口を開いた。
「ガイル……」
「あ?」
「ミリーさんって……」
ガイルが振り返る。
「…………」
喉まで出かかった言葉が、そこで止まった。
「……ううん
なんでも、ない」
「……そうか」
ガイルはそれ以上何も聞かず
再び厨房へ入っていった。
(もしかして……
ガイルの……元恋人?)
その一言が、どうしても聞けなかった。
聞けば、何かが変わってしまう気がして。
何故聞けないのか
…自分でも、分からなかった。




