ガイルの、なんなの?
〘おーい、リール!
グリーンカーテンはこんな感じかぁ?〙
ボクさんはそう言いながら
通りに面した窓へ枝をゆっくりと伸ばしていく。
「あ、はい!今はこのぐらいで大丈夫です。
でも、冬になったら
もう少し軽めにしてもらえると助かります」
〘おう、分かったぜ~!
んじゃま、この程度だなっと!〙
ボクさんが枝を軽く揺らすと
つる植物がするすると窓辺を覆っていく。
柔らかな木漏れ日のような光が店内へ差し込み
夏の日差しは優しく和らいだ。
「わぁ……」
思わず声が漏れる。
「これなら
お客様も食器さん達も快適に過ごせそう!」
〘だな~!俺も役に立てて嬉しいぜ!〙
「ありがとう、ボクさん!」
私は嬉しくなって
テンション高くガイルがいる厨房へ入る
「ね、ガイル!
さっきのお客様から頂いたフルーツ
さっそくあそこで食べましょ!」
厨房でグランドオープンへ向けて
昼ご飯作りと練習を兼ねながら
料理をしているガイルへ声をかける。
「……食い切れるのか?」
「だーいじょーぶよ!
甘いものは別腹って言うじゃない?」
「……そうか?ま、ほどほどにしとけ」
そう言いながら
ガイルは慣れた手つきでフライパンを振る。
その隣へ立ち覗き込むと
フライパンの中では
海鮮たっぷりのパスタが
ガイルがフライパンを振るたびに
楽しそうに踊っている。
バターとガーリックの香りがふわりと広がり
お腹がぐぅっと鳴りそうになる。
「うわぁ、美味しそう!お腹すいた~!
食器、準備してくるわね!」
そう言って店内へ戻ると
食器棚の前で腕を組む。
「さーて、今日のお皿さんは~……」
棚を見渡していると
一枚のお皿が目に留まった。
「ん!今日はこの子に決めた!」
私はそのお皿へ手を伸ばす。
……けれど、高い場所に置かれていて届かない。
「~~っ!んっ……!もうちょっと……!」
つま先立ちになり、精一杯腕を伸ばす。
あと少し。
その瞬間………
足がもつれた。
「うわっ!」
ガシッ!!
倒れそうになった身体を
大きな腕がしっかりと支える。
「たくっ……お前は……」
ガイルは大きくため息をつきながら
私を抱き留めていた。
「ご、ごめん……」
慌てて振り返った、その拍子だった。
コツン。
ガイルの唇が、私のおでこにそっと触れる。
「「………っ!!」」
お互いに目を見開いたまま固まる。
店の中だけ、時間が止まったようだった。
その時……
カラン……カラン……
静かな店内に、ドアベルの音が響く。
「……あら、お邪魔だったかしら」
聞き覚えのある優しい、澄んだ声。
恐る恐る入口へ視線を向けると
そこには微笑みを浮かべたミリーさんが
立っていた。
バリッ!!
ガイルがものすごい勢いで
私と自分の体を引き剥がした。
「うわっ……ちょっと!」
思わず抗議しようとガイルを見る。
……でも、その言葉は喉で止まった。
ガイルは、入口に立つミリーさんを
見つめたまま、微動だにしない。
「……どうした」
やっと絞り出したような声だった。
いつもの落ち着いた低い声ではない。
その表情には
驚きと戸惑いが入り混じっているように見えた。
私は
そんなガイルとミリーさんを交互に見つめる。
二人の間に流れる空気は
さっきまでの穏やかな店内とは
まるで違っていた。
(……この女性は……)
胸の奥が、ざわりと波立つ。
(ガイルの……なんなの……?)




