リールのレモネード
老夫婦のお客様を皮切りに
次から次へとお客様が来店した。
「いらっしゃいませぇぇ!!」
ザックさんは元気いっぱいに挨拶をし
練習した通りにお客様を席へ案内していく。
ジレンくんも
小さな体で一生懸命に接客をこなし
子供とは思えないほど丁寧な応対を見せていた。
「まあ、可愛い店員さんね」
「ありがとう!」
そんなやり取りに
お客様も自然と笑顔になる。
店内はあっという間に賑わい始めた。
すると………
〘ちょっとー!
外のお客様、いつまで待たせとくのよ!
さっさと動きなさいよ! バカ女!〙
入口に掛けられた剣のギンが
いつもの調子で怒鳴る。
「はいはい、今行く!」
私は思わず苦笑いしながら返事をした。
〘今日は可愛い子ちゃんがいっぱいだぜ!
目の保養だな♡〙
〘な~に言ってんのよ!!
リールちゃんが一番可愛いに
決まってんでしょー!!〙
ボクさんとバンさんまで
好き勝手に騒ぎ始める。
もちろん、お客様には
その姿も声も見えない、聞こえない。
だけどみんなは、外で待つお客様の様子や
どんな人が並んでいるのかを教えてくれる。
私たちにとっては
とても頼もしい仲間だった。
そして厨房では……
「……………」
ガイルが相変わらず無愛想な表情のまま
パンケーキや注文の料理を
黙々と作り続けている。
その手だけは休むことなく動き
次々と料理を仕上げていった。
「ガイル! ボクさんトーストお願い!」
私は厨房へ声を掛けた。
「……ああ」
ガイルは頷き、フライパンを手際よく振る。
その時だった。
「……久しぶりね、ガイル」
店内に、静かな女性の声が響く。
私は思わず顔を上げた。
若い二人組の女性客の一人が
真っ直ぐ厨房を見つめている。
ガイルは
フライパンを振る手をピタリと止めた。
ゆっくりと振り返る。
そして、普段ほとんど表情を変えない彼が
わずかに目を見開いた。
「……ミリー」
女性はひらひらと手を振りながら
柔らかく微笑んだ。
「デリーが亡くなってからだから……
五年ぶりくらいかしら
元気そうで安心したわ」
その名前を聞いた瞬間だった。
ガイルの眉が、ぴくりと動く。
「…………ああ」
低く、ぶっきらぼうな返事。
それ以上、何も言わない。
女性はそんなガイルを見つめると
少しだけ寂しそうに笑った。
「……ふふ、また来るわ」
そう言い残し、席へ戻っていった。
女性が席へ戻ると
「……はあ」
ガイルは深く息を吐いた。
一度だけ店内を見渡す。
先ほどまで慌ただしかった店内も
料理がすべて行き渡り
ようやく落ち着きを取り戻していた。
それを確認すると
ガイルは小さく目を伏せる。
「……悪い、少し休ませてくれ」
そう言って厨房の片隅へ歩き
静かに腰を下ろした。
(ガイルがこんな疲れた様子を
見せるなんて……)
普段の彼は
どんなに疲れていても顔には出さない。
こちらがどんなに気遣っても
「……疲れてねぇ」
そう言って、誤魔化してしまう。
明らかに眠そうで
今にも瞼が閉じそうな時でさえ
「……眠くねぇ」
その一点張りだった。
そんな強がりを見せる姿が
小さな熊みたいで可愛く思えたこともある。
だけど今の彼は違う。
誰が見ても、一目で分かるほど疲れ切っていた。
(……………………)
私は厨房へ入り
レモンと砂糖、はちみつ
それからミントを取り出した。
「よし……」
小さく気合いを入れ
ガリガリガリガリ!!
レモンとミントを力いっぱいすり潰していく。
爽やかな香りがふわりと広がった。
そして棚から一つのコップを手に取る。
ガイルと相思相愛の、あのコップだ。
「……頼むわね」
そっと声を掛けると
コップは嬉しそうに小さく震えた。
私は冷たい水に
すり潰したレモンとミント
はちみつを加え、ゆっくりとかき混ぜる。
「ふふっ……出来た」
私はガイルの側にそっと座った。
「はい、リール特製レモネードよ
一息つくにはぴったりよ、 飲んでみて」
そう言ってコップを差し出すと
「…………」
ガイルの動きが止まる。
「なによ、その顔」
「……いや」
ガイルはレモネードと私を交互に見て
「……お前が、作ったのか?」
「そうよ?
昔から、さっぱりスッキリしたい時は
よく作って飲んでるの」
「…………そうか」
そう言いながら
ガイルはコップの中をじっと見つめた。
「なによ、いらないの?
飲まないなら私が飲むから返して」
そう言ってコップを取り返そうと手を伸ばす。
「……いや」
ガイルはコップを軽く引き寄せると
恐る恐る……
ゆっくりと口を付けた。
「…………うめぇな」
そう一言呟くと
ガイルは先ほどより
勢いよく、レモネードを飲んだ。
「ふふ! でしょー?!
スッキリできるでしょ?」
私はそう言いながら
ガイルの前に人差し指を立てて
にっこりと笑う。
ガイルはコップを見つめたまま
ゆっくりと目を閉じた。
しばらく何かを考えるように沈黙が流れる。
やがて静かに目を開けると
その視線はまっすぐ私へ向けられた。
「……ああ」
(……え?)
その返事とともに………
ガイルは、ふっと口元を緩めた。
それは、私が初めて見る
穏やかな笑顔だった。




