プレオープンの朝
「……あんまり寝られなかったな。」
私はカーテンを開け、窓をそっと開ける。
まだ朝靄の残る外から
ひんやりとした風が
ふわりと部屋へ入り込んできた。
深く息を吸い込む。
少しだけ緊張していた心が
ほんの少し落ち着いた気がした。
机の上には
昨夜何度も見返した段取りを書いた紙。
私はベッドへ座り直すと
それをもう一度手に取る。
「……大丈夫」
一つ一つ確認するように目を通し
最後に小さく笑った。
「きっとうまくいくわ」
今日は、いよいよプレオープン当日。
この一日で
ドーンザワカフェの第一印象が決まる。
大きな失敗は、できない。
だからこそ………
私はもう一度、大きく息を吸った。
ガイルとプレオープンを決めてから
ジレンくんにはチラシを書き直してもらい
ザックさんには街で配ってもらった。
もちろん、お店に来てくれたお客様にも
一枚ずつ手渡している。
今日、お迎えする予定のお客様は二十組。
順調に進めば
夕方頃にはプレオープンを終えられる予定だ。
ザックさんの話では
最初こそ驚かれたものの
「ドーンザワ商店が新しくなるのか」
「ちょっと行ってみようかな」
そんな反応をしてくれる人も多く
思っていた以上に好感触だったらしい。
「よし……」
私は、あの日
ガイルに買ってもらった空色の服に袖を通す。
そして、気合いを入れるように
エプロンの紐をぎゅっと結んだ。
(まさか
バンさんが裁縫までできるなんてね)
パンケーキ色のエプロン。
裾には
小さな花と葉っぱの刺繍が丁寧に施されている。
眺めるたびに、思わず頬が緩んでしまう。
部屋を出ると
香ばしいコーヒーの香りが漂ってきた。
「え……ガイル?」
キッチンを覗くと
ガイルが静かに立っている。
「……ふんっ
そろそろ来るんじゃねぇかと思った」
「え……?」
「まあ、座れ」
そう言うと
ガイルは私の席にトーストを置いた。
ボクさんから
半ば強制的に教わっていた、あのトーストだ。
「これ……ボクさんの」
「……ふんっ」
答える代わりに
ガイルは温めたミルクを私の前へそっと置く。
その仕草が、何よりの答えだった。
思わず笑みがこぼれる。
「ふふっ……いただきます」
一口食べると
あの日の味とは少し違う風味が
口いっぱいに広がった。
「ん……美味しい!!
あれ……少しはちみつ使ってる?」
「……あんな顔されちゃあな」
「……??」
ガイルはそれ以上何も言わず
自分のコーヒーを一口飲んだ。
「ふぅ~……ご馳走様!
本当に美味しかったわ
これ、今日のメニューに
足してもいいかしら?」
「……ボクのメニューならな」
「え? これはだめなの?」
「……味見係が飽きたらだ」
「……じゃあ
一生誰も食べられないじゃない
美味しいのに……」
そう言うと、ガイルは一瞬だけ目を丸くした。
「……そうか」
ぽつりと、それだけを口にして
ほんの少しだけ、口元を緩めた。




