プレオープン、決定
お店屋さんごっこから数日
ドーンザワカフェの準備は
着々と進んでいた。
机も椅子も揃い
メニューも決まり
ザックさんとジレンくんも
店員として手伝ってくれることになった。
あとは、オープンするだけ。
……そう思っていた。
だけど
私は帳面を見つめながら、小さく首を傾げる。
「……」
ドーンザワ商店としては
いつも通り営業している。
この数日も、お客様は二人来てくれた。
一人は、お婆さん。
もう一人は、小さな男の子。
だけど………
「……ドーンザワカフェとしてオープンした時
お客様……来てくれるかな」
完成したチラシへ視線を落とす。
ジレンくんのおかげで
可愛らしいチラシは出来上がった。
でも……
(チラシだけじゃ、足りない)
ふと、
ホームセンターで働いていた頃を思い出す。
売り場改装の度に
何日も店を閉めて準備をしていた。
棚を動かし
商品を並べ替え
新しい売り場を作る。
ようやく準備が終わり
『いよいよオープン!』
そう思っていた。
だけど……
(違う)
いきなりオープンじゃなかった。
まずは一定期間だけ
お客様を招いて営業する。
実際に動いてみて
「ここは見づらい」
「レジが混む」
「通りにくい」
そんな意見をもらいながら
最後の調整をしていた。
(そうか……)
私は小さく息をのんだ。
「……プレオープン」
ドーンザワカフェなら
何日もプレオープンをする必要はない。
一日だけ…
その一日だけなら
「ちょっと行ってみようかな」
そう思ってくれる人もいるかもしれない。
しかも、プレオープン限定のチラシを作れば
もっと興味を持ってもらえるはず。
(これなら……!)
ガタンッ!
私は勢いよく立ち上がると
そのまま二階へ駆け上がった。
コンコン。
「ガイル!」
返事を待たずに扉を開ける。
「ドーンザワカフェとして
一日だけお試しでお店を開いてみない!?」
突然の勢いに、ガイルは目を丸くした。
「…………」
やがて、小さく息を吐く。
「……落ち着け」
そう言うと
椅子に座ったまま私の方へ向き直った。
「……まず、話を聞こう」
私は大きく息を吸う。
「うん!
実はね?」
私はホームセンターで働いていた頃の話を
ガイルへ聞かせた。
ガイルは腕を組み
時折顎を撫でながら黙って耳を傾けている。
「……って感じで考えてるの」
話し終えると
ガイルは少し考え込むように目を閉じた。
「……なるほどな」
小さく頷く。
「ただ、一つ分からねぇ」
「え?」
ガイルはじっと私を見る。
「……俺は、変人なのか?」
「…………あ」
(…しまった)
プレオープンが必要な理由を話しているうちに
街の人からそう思われていることまで
そのまま口にしてしまった。
ガイルは少しだけ口を尖らせる。
どこか拗ねたようなその表情が
小さな熊さんみたいで
思わず笑みがこぼれた。
「変人……っていうより」
私は苦笑いしながら続ける。
「愛想はないし、強面だし」
「……チッ」
ガイルが不満そうに顔を背ける。
「あはは、ごめんごめん」
私は笑いながら首を振った。
「でもね
本当は優しい人だってこと…」
「私も、ザックさんも、ジレンくんも知ってる」
私はガイルを真っ直ぐ見つめる。
「ただ……まだ街の人は知らないだけ
だからプレオープンなの
お店を知ってもらうだけじゃなくて
ガイルのことも、知ってもらいたいの」
私はゆっくりとガイルへ歩み寄った。
そして、そっとその手を握る。
「ガイルが優しい人だってこと
街の人にも知ってもらえたら……」
私は真っ直ぐガイルを見つめる。
「きっと
お店にも来てもらいやすくなると思うの」
ガイルは何も言わない。
ただ静かに、私の話へ耳を傾けていた。
私はゆっくりと窓の外へ目を向ける。
ボクさんの大きな木陰。
その下には
新しく並べた机と椅子が見える。
そして、ゆっくりと振り返った。
二階の棚には
静かに次の出会いを待つ食器さん達。
「あの子達も……」
思わず声がこぼれる。
「もっとたくさんの人と出会えるかもしれない」
もう一度ガイルを見る。
「旅立てる子も、きっと増えると思うの」
私は優しく微笑んだ。
「……どうかしら?」
ガイルは腕を組んだまま
しばらく考え込んでいた。
「…………」
やがて、小さく息を吐く。
そして…
ふっと口元を緩めた。
「……お前といると、退屈しねぇな」
「え?」
思わず聞き返すと
ガイルは照れ隠しのように視線を逸らした。
「……悪くねぇ案だ」
「本当!?」
私がぱっと表情を明るくすると
ガイルは軽く手を上げる。
「……だが、一つ条件がある」
「条件?」
「人数は限定しろ」
「え?」
私は首を傾げた。
「どうして?」
ガイルは少しだけ言いづらそうに頬をかく。
「……ジレンは、まだ小せぇ」
「…………」
その一言だけで、十分だった。
ジレンくんに無理をさせたくない。
まだ子どもだからこそ
ちゃんと守ってやりたい。
ガイルが言いたかったのは、きっとそれだけ。
「…………ふふっ」
思わず笑みがこぼれる。
「分かった」
私は小さく頷いた。
「やっぱり、優しいわね」
ガイルは怪訝そうに私を見る。
「……何がだ」
私は少しだけ背伸びをして、にっこりと笑った。
「ドーンザワ商店の店主、熊さんは」
「……チッ」
ガイルは照れ隠しのように
窓の外へ視線を向けた。
ボクさんの枝葉が、さらさらと風に揺れる。
まるで………
『素直じゃねぇなぁ~』
そう笑っているようだった。




