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楽になりたかっただけなのに、熊みたいな男に拾われました!~物と話せる不思議な店で人生やり直します~  作者: かゆると


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お店屋さんごっこ、スタート

私はパンッと手を叩いた。


「じゃあ、始めましょう」


そう言って店の扉の前へ移動する。


「私とガイルは

 お客様役だから後から入るわ」


私は二人を見てにっこり笑う。


「だから、ザックさんとジレンくんは

 先にお店の中へ入って、準備していてくれる?」


「おう!」


「うん!」


二人は元気よく返事をすると

顔を見合わせながら店の中へ入っていった。


二人が店の中へ入っていくのを見届けると

私はくるりとガイルの方を向いた。


「二人とも、まだ初心者なんだから……」


少し苦笑いを浮かべる。


「あんまり、いじめないでね?」


ガイルは、ふんっと鼻を鳴らした。


そして口元をゆっくりと吊り上げる。


「……ジレンにはな」


「えっ?」


思わず聞き返す。


ガイルは何も答えず、店の扉へ手を掛けた。


「行くぞ」


(……大丈夫かしら)


少しだけ不安を覚えながら

私はガイルと並んで店の中へ入った。


「い、いらっ……いらっしゃいませ!」


少し声を裏返らせながら

ザックが精一杯の笑顔を向ける。


「いらっしゃいませ!

 えっと……」


ジレンくんも続けて挨拶をするものの

その先が分からず困ったように私を見た。


思わず笑みがこぼれる。


「…ふふっ」


私はお客様らしく微笑みながら尋ねた。


「店員さん

 どこの席へ座ればいいですか?」


「あっ!」


ジレンくんは慌てて辺りを見回す。


「えっと……

 こちらへどうぞ!」


一生懸命、席へ案内してくれた。


その横で

ザックさんも慌ててガイルへ向き直る。


「あ、ガイル……」


ハッと口を押さえる。


「じゃなかった!!

 お、お客さん!

 こっちへ座ってください!」


「……あ?」


ガイルがじろりとザックさんを見る。


「一人……だよな?

 あ、違う!

 二人っすか!?」


慌てて言い直すザック。


その必死な姿が

なんだか微笑ましい。


私は笑みを浮かべたまま答える。


「ふふっ、二人です」


ガイルの腕へそっと手を添える。


「一緒に座れる席をお願いします」


席へ腰を下ろすと

ザックとジレンくんが

私たちの前で立ち止まった。


「…………」


「…………」


困ったように顔を見合わせる二人。


お店屋さんごっことはいえ


まだお冷も、お茶も


おしぼりも、メニューも用意されていない。


(そうよね……)


私は思わず苦笑いする。


「……えっと」


「……あのよぉ」


二人が何か言いかけた、その時だった。


ガイルが椅子へゆったりと、もたれ掛かる。


「……なんだ、この店」


わざとらしく店内を見回す。


「水も出さねぇのか」


そう言って、顎で水差しの置いてある方を示した。


「お、おぉ!」


ザックが慌てて振り返る。


「今、持ってくらぁ!」


「兄ちゃん!」


ジレンくんも後を追いかける。


「今、持ってきます!」


二人は慌ただしく店の奥へ駆けていった。


カンッ!


ザックが勢いよくコップを置く。


「はい! 水!」


その隣では…


カタン……


ジレンくんが両手でそっとコップを置いた。


「どうぞ」


(ふふっ)


思わず笑みがこぼれる。


(二人の性格が、そのまま出てる)


私はお客様として、次の言葉を口にした。


「このお店のおすすめは

 パンケーキだと聞いて来たんですけど……」


にこりと微笑む。


「ありますか?」


そう言いながら

私はカウンターに並ぶ食器へ

ほんの少しだけ視線を向けた。


そして

ジレンくんへ、小さく目配せをする。


(お皿だけ、お願い)


私の目配せに気付いたのか

ジレンくんがカウンターへ駆け寄る。


両手でお皿を二枚、大事そうに持ってきた。


「パンケーキです!」


にこっと笑う。


「どうぞ!」


その横でザックも満足そうに頷いている。


二人とも


「できた!」


と言わんばかりの笑顔だった。


すると………


「……手で食えってのか?」


ガイルが低い声で呟く。


「……あ?」


ザックをじろりと睨む。


(……ガイルってば、もう)


私は思わず苦笑いする。


「あっ!」


ザックが、ようやく気付き


「そ、そうだよな!

 今、持ってくる!」


慌ててカウンターへ駆け戻る。


ナイフとフォークを掴むと

そのまま急いで戻ってきた。


「ほら!」


「…………」


ガイルは

ナイフとフォークを見つめたまま動かない。


「……おい」


静かな声が響く。


「てめぇの手垢付きのを、食えってのか」


「…………え?」


ザックさんの動きが止まった。


私は苦笑いしながら

ガイルの腕を軽くぽんぽんと叩いた。


「店員さん」


私はザックさんへ微笑みかける。


「出来たら……

 柄の方を持って渡していただけるかしら?」


ナイフとフォークを手に取り

実際に持ち替えながら見せる。


「口に入れるものですから」


そう言って

そっと柄の方を相手へ向けて差し出した。


「あ……」


ザックは自分の手元を見る。


「そ、そうだよ……な」


慌てて言い直す。


「あ……いや

 そう……ですよね」


少し照れくさそうに頭をかいた。


「すま……」


また言い直す。


「す、すいません!」


食事を終えたふりをして

私は席を立つ。


「ごちそうさまでした

 では、お会計をお願いします」


そう言って、レジへ向かった。


お会計を済ませた…ということにして

店の出口へ向かう。


すると


「二人とも、ありがとな!」


ザックが満面の笑みで手を振った。


「…………」


ガイルは小さくため息をつく。


そして、ザックをジロリと見る。


「……お前と俺は友達か?」


「え?」


「客だぞ」


「あっ!!」


ザックが慌てて口を押さえる。


その隣で

ジレンくんがぺこりと頭を下げた。


「ありがとうございました!」


「…………」


ガイルは何も言わず

ジレンくんの頭をくしゃっと優しく撫でる。


そして


「……また来る」


それだけ言い残し

店の外へ出て行った。


私は思わず笑みを浮かべる。


パンッ!


手を叩いて、二人を振り返った。


「はい、二人ともお疲れ様でした」

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