開店準備、スタート
午後………
店内には、穏やかな時間が流れていた。
私は二階へ上がると
棚いっぱいに並ぶ食器たちを見渡す。
どの子も大切に扱われてきたことが伝わってくる。
だけど、その中には
長い年月を過ごした子も少なくなかった。
「ねぇ、ガイル」
私は棚へ目を向けたまま問いかける。
「二階の食器さんたちで
一番古い子ってどの子?」
「あ?」
ガイルは棚を見回すと、小さく顎へ手を当てた。
「……あー、多分、コイツだな。」
そう言って取り出したのは
小ぶりな白いカップだった。
長い年月を過ごしてきたのだろう。
全体が少しだけ黄ばんでいる。
私はそっと受け取り
両手で包むように見つめた。
「うーん……」
思わず声が漏れる。
「漂白剤……は、さすがに無いわよね。」
「……ひょうはくざい?」
ガイルが首を傾げる。
「なんだ、それは…」
「あっ、ううん」
私は慌てて笑って誤魔化した。
「なんでもない」
もう一度カップへ視線を落とす。
(黄ばみを取るのは難しいか……)
しばらく考えていると
一つの考えが浮かんだ。
「ねぇ、ガイル」
「……なんだ」
「この子に、色付けをしてもいいか
聞いてくれない?」
ガイルはカップを見つめたまま静かに耳を傾ける。
部屋には、静かな時間が流れた。
やがて、小さく頷く。
「……同じ色なら、いいってよ。」
「本当?」
ぱっと表情が明るくなる。
「よかったぁ」
私は嬉しそうにカップを抱きしめた。
「じゃあ、ジレンくんにお願いしましょう」
「……ジレン?」
ガイルが不思議そうに私を見る。
「うん」
私はにっこりと笑った。
「ジレンくん、絵を描くのが大好きでしょう?
きっと、この子たちの魅力を
もっと引き出してくれる気がするの」
「…………」
ガイルは何も言わなかった。
けれど、その横顔は
どこか納得したようにも見えた。
そんな話をしながら
二人で食器を棚へ戻していると
ガタガタ……
ゴトッ……
ドンッ……
店の外から、何かを運ぶような音が聞こえてきた。
「……ん?」
私は手を止める。
「何の音かしら?」
「…………」
ガイルは音のする方へ耳を澄ませると
小さく息を吐いた。
「……ボクだろ」
「え? ボクさん?」
私はガイルと顔を見合わせる。
二人で店の外へ出ると
「…………!」
思わず目を見開いた。
店の前には
大量の木材がきれいに並べられていた。
長さごとに揃えられ
太いもの、細いもの
板材まで種類ごとに分けられ
整然と積み上げられている。
「これ……もしかして……」
得意げな声が響いた。
〘ほれっ!
木材は用意しといたぜぇ♡〙
「…………!」
思わず目を輝かせる。
「ありがとう、ボクさん!」
私は、木材の前へ駆け寄る。
「早速、組み立てましょう!」
近くに置いてあったトンカチを手に取り
意気揚々と
準備を始めようとした、その時だった。
「……リール」
ガイルがすっと私の隣へ立つ。
そして、私が持っていたトンカチを
ひょいっと取り上げた。
「……え?」
「これは、俺に任せろ」
そう言うと、木材の長さを確かめ
慣れた手つきで釘や道具を並べ始める。
「…私だって
組み立てくらい出来るわよ?」
少し頬を膨らませながら言うと
ガイルの手が、ぴたりと止まった。
「…………」
一瞬だけ考え込むような間が流れる。
やがて何事もなかったかのように
木材へ視線を戻し
「……出来ねぇとは言ってねぇ」
そう呟く。
そして一本の釘を木材へ当てると
コンッ。
軽く打ち込みながら続けた。
「だが……こういうのは男の仕事だ。」
もう一度
コンッ。
「黙って任せとけ」
「むぅ……」
私は納得いかないという顔をしながらも
一歩後ろへ下がる。
その様子を眺めながら
ボクさんはふっと口元を緩めた。
〘……ガイルもちったぁ成長したじゃねぇか
ま、まだまだオレには及ばねぇけどなぁ♡〙
「……ん?」
思わず振り返る。
「……あ? なんか言ったか?」
ガイルも手を止めることなく問い返す。
〘いんや?な~んでもねぇよ〙
ボクさんはニヤリと笑う。
〘ほれ、さっさと作れ、作れ〙
そう言うと、それ以上は何も話さず
どこか嬉しそうに二人を見守っていた。
そうして作業は順調に進み…
日が傾き始める頃には
机と椅子が五組、綺麗に並んでいた。
「…………」
思わず見入ってしまう
(……すごい)
私は完成した机をそっと撫でた。
(やっぱり……
慣れてる人が作ると
仕上がりが全然違うのね)
〘いーじゃねぇか、いーじゃねぇか!〙
ボクさんは満足そうに笑う。
〘じゃあ、コイツらは
オレの足元ってことで決まりだな!〙
そう言うと、大きな木がざわりと枝葉を揺らした。
するすると何本もの枝が伸び
完成した机と椅子を
一つずつ優しく持ち上げていく。
「わぁ……!」
私は思わず声を漏らした。
枝は傷ひとつ付けることなく
机と椅子を木陰へ運んでいく。
さらに枝葉がゆっくりと広がり
互いに重なり合いながら
屋根のような形を作っていく。
木漏れ日が心地よく差し込むその場所は
まるで最初からそこにあったかのように
自然と風景へ溶け込んでいた。
ボクさんの大きな木陰には
ゆったりと腰を下ろし
飲み物や軽食を楽しめる場所が出来上がっていた。
〘これで……ひとまず完成だなぁ~!〙
ボクさんは満足そうに腕を組む。
〘どんな可愛い子ちゃん達が来るのか……
くぅ~~っ!
楽しみだぜぇ♡〙
「…………」
片付けをしていたガイルが
手を止めることなく、ぼそりと呟く。
「…………バンに怒られろ。」




