今日はここまで
二人がもみくちゃになりながら言い争う姿を
私はガイルと並んで、しばらく眺めていた。
「…………」
「…………」
(……話、進めても大丈夫かしら)
恐る恐る声を掛けようとした、その時だった。
〘あーーーっ!! もうっ!!〙
とうとうバンさんの堪忍袋の緒が切れた。
〘しつっこいわねぇ!!〙
ボクさんの胸ぐらをぐいっと掴み
そのまま自分の方へ引き寄せる。
〘ボク!!
アンタ、リールちゃん♡に
話があるんじゃないの!?〙
「……え?」
思わずボクさんを見る。
ボクさんは
「あっ」と思い出したように目を丸くすると
ぽんっと手を打った。
〘おぉ、そうだったそうだった!
危うく忘れるとこだったぜぇ〙
「忘れてたの……?」
思わず苦笑いが漏れる。
「……はぁ」
ガイルは
ようやく終わったかと言わんばかりに
小さくため息をついた。
「あはは……
えっと、ボクさんの足元をお借りするって
お話でしたよね?」
私が話を元へ戻すように問い掛けると
〘あーっと、そうそう!〙
ボクさんはふわりと窓際へ移動し
そのまま外を指差した。
〘オレのあの辺の足元ならよぉ
木陰にもなるし
雨の日だってうまく防いでやれるぜぇ〜〙
得意げに胸を張る。
〘それによぉ……〙
チラッとガイルへ視線を向ける。
口元には、いたずらっぽい笑みが浮かんでいた。
〘お前も、そこからなら
可愛い子ちゃんを見やすいだろぉ~?♡〙
「…………」
ガイルの眉がぴくりと動く
(可愛い子ちゃん……?)
私は小さく首を傾げた。
〘そうねぇ♡
可愛い子ちゃん
よぉ~く見えるわよねぇ♡〙
バンさんまで意味ありげに
にやにやと笑っている。
(……何のこと?)
私だけが、さっぱり分からない。
「……黙れ」
ガイルはぶっきらぼうにそう言って
二人から視線を逸らした。
〘へっ!〙
ボクさんは肩を揺らして笑う。
〘相変わらず素直じゃねぇなぁ♡
ま、いーや!
とにかく、これで決まりってことでいいな!〙
「はい…あ、でも……」
私は少し困ったように眉を下げた。
「机も椅子も足りないの
今、お店にある分で全部使ってるでしょう?」
〘あぁ、そんなことかぁ〜〙
ボクさんはケラケラと笑う。
〘んなもん、オレから作りゃいいじゃねぇか♡〙
「……え?」
思わず聞き返す。
〘机も椅子もよぉ!
バンだって
もともとはオレから生まれたんだぜぇ?〙
「え!!そうだったんですか?!」
驚いてバンさんを見ると
〘そうよぉ♡
アタシはボクの枝から削り出された看板なの♡〙
どこか懐かしそうに微笑んだ。
私はもう一度ボクさんへ視線を戻す。
「でも……
枝を切るんでしょう?」
胸の奥が、少しだけ締めつけられる。
「……痛く、ないの?」
ボクさんは一瞬きょとんとしたあと
豪快に笑った。
〘あっはっはっはっ!!〙
〘リール、お前ほんっと優しいなぁ♡〙
そう言うと、自分の腕をぽんぽんと叩く。
〘人で言やぁ、爪を切るようなもんだ♡
伸びた枝を整えるだけさ
春になりゃ、また新しい枝が芽吹く
だったらよぉ……
誰かの笑顔になる机や椅子になれる方が
オレは嬉しいぜ♡〙
「…………」
私は思わずボクさんを見つめた。
(誰かの……笑顔になるために……)
ボクさんは照れ隠しのように頭をかき
〘木ってのはよぉ〜
育つだけが仕事じゃねぇ
誰かの役に立ってこそ
生きてるってもんだろ?♡〙
「…ありがとう、ボクさん。
あと問題は……」
私は腕を組みながら考え始める。
「食器さん達も1番手をまず選ばなきゃ
後、メニューも………」
「……待て、リール」
ガイルが静かに遮った。
「お前の行動力には感心するが……
今日はここまでだ」
「……え?なんで?」
「…………」
ガイルは少しだけ眉を寄せる。
「……根詰めすぎだ」
それだけ言って口を閉じた。
私は首を傾げる。
「でも、今考えないと…
後からだと忘れちゃうこともあるかもだし…」
ガイルは何か言おうとして……
結局、口を閉じる。
「…………」
その様子を見ていたバンさんが
ふふっと笑った。
〘ガイちゃんもねぇ♡
昔っからそうなのよぉ♡〙
私はバンさんを見る。
〘ダンナさんにも、お爺ちゃんにも
よぉく言われてたの♡
根を詰めすぎるとねぇ
いい考えも浮かばなくなるのよぉ?
疲れた頭は
疲れた答えしか出さないんだからって♡〙
「…………」
ガイルは気まずそうに視線を逸らす。
〘だからねぇ
煮詰まった時は、一回お茶を飲んで
ちゃんと寝る♡
そうすると不思議なくらい
次の日には『あっ!』って
いい考えが浮かぶものなのよ♡〙
私はゆっくりとガイルを見る。
ガイルは照れくさそうに頭をかいた。
「……そういうことだ」
私は三人の顔を見回した。
思わず、小さく笑みがこぼれる。
(……今日は、おとなしく休もう。)




