物を手に取る理由
「……コホン!」
私はわざとらしく咳払いを一つする。
「二人とも、落ち着いて」
ザックとジレンくんは
はっとしたように顔を見合わせた。
私はくすっと笑うと
ジレンくんの前へしゃがみ込む。
そして、そっとコップを両手で持ち上げた。
「……お気に召しましたか? お客様」
にこりと微笑みながら差し出す。
「あっ……!」
ジレンくんは目を丸くした。
それから慌てて首を横に振る。
「そ、そうか!
もらうじゃダメなんだよね!」
首から下げていた
小さな巾着袋を慌てて開きながら
「ガイルさん! リールさん!
このコップ、おいくらですか?」
そう言って、お金を取り出そうとする。
私はそっとガイルを見た。
ガイルはコップへ視線を落とし
小さく頷く。
私はもう一度ジレンくんへ向き直った。
「今回は、お代は結構です」
「え?」
「その代わり……」
私は営業スマイルで、ぺこりと頭を下げる。
「またぜひ
ドーンザワ商店へお越しください」
「…………!」
ジレンくんの顔が、ぱあっと明るくなる。
「うん!」
コップを大事そうに抱きしめながら
大きく頷いた。
「また絶対来る!!」
私は思わず笑みをこぼす。
「ありがとうございます」
そう言って、ジレンくんの頭を優しく撫でた。
「リール!ガイル!ありがとな!」
ジレンくんの頭を
わしゃわしゃと撫でながら
ザックがにかっと笑う。
「ふふっ」
私も自然と笑みがこぼれた。
「喜んでもらえたなら、それが一番だわ」
そして、コップを大事そうに抱える
ジレンくんへ視線を向ける。
「ねぇ、ジレンくん
どうして、このコップさんを
欲しいと思ったの?」
「え?」
ジレンくんは少しだけ首を傾げる。
それから、両手で包むように
コップを見つめながら、嬉しそうに話し始めた。
「僕ね、このコップさんでお茶を飲んだ時ね
いつもより、美味しく感じたんだ!」
「美味しく?」
「うん!」
ジレンくんは大きく頷く。
「なんて言えばいいんだろう……
お茶がね、すっごく柔らかく感じたの!」
「それに、この鳥さんも好き!」
描かれた黄色い小鳥を指でそっとなぞる。
「見てるだけで
なんだか楽しくなるんだ!」
「…………」
私はコップへ視線を落とした。
(使ってみたら……
良さが分かった)
私は、ホームセンターで
働いていた頃を思い出していた。
各売り場には、必ずと言っていいほど
【お試し品】が置かれていた。
台所用品売り場なら
スポンジやラップに実際に触れられるように
洗剤売り場なら
香りを試せるサンプル
文房具売り場なら
自由に書けるボールペン
(使ってみないと……
本当の良さって、なかなか伝わらない)
だから、お客様は手に取る。
実際に使って
【いいな】
そう思えたら、買ってくれる。
(この店だって同じかもしれない)
防具なら、身につけてもらえばいい
剣なら、実際に振ってもらえばいい
鍋や包丁だって
手に持った時の重さや握り心地がある。
でも……
私は店内へ視線を巡らせた。
棚いっぱいに並ぶ食器たち。
(この子たちは……)
一つひとつ手に取ってもらう機会なんて
ほとんどない。
店の奥で、二階で
誰にも気付かれないまま
時だけが過ぎていく子もいる。
(どうしたら……
どうしたら、この子たちの良さが
伝わるんだろう)
(どうしたら
あの子たちを次の人へ送り出せる……?)
私は腕を組む。
(お試し……)
(実際に……使ってもらう……)
その瞬間。
頭の中で、何かが繋がった。
「あ……」
思わず声が漏れる。
「そうか……」




