誰かのために
「そういえば」
ザックがパンケーキを頬張りながら
ガイルを見た。
「お前、料理できたんだな」
「……あ?」
ガイルは湯呑みを口元へ運ぶ。
「あぁ。爺さんのおかげでな」
そう言って、小さく笑った。
〘んふふふふ……♡〙
その後ろでは
バンさんが意味ありげな笑みを浮かべている。
今にも口を挟みたそうに
ガイルの後ろをふわふわと
行ったり来たりしていた。
「…………」
ガイルは見なかったことにするように
そっと視線を逸らす。
(バンさん……話したくてうずうずしてる)
その様子がおかしくて、思わず笑みがこぼれた。
「そういえば」
私はガイルへ視線を向ける。
「さっきバンさんが言ってたわよね。
お婆さんは、お菓子作りが上手だったって」
少し首を傾げる。
「じゃあ……お爺さんも料理が得意だったの?」
ガイルは少しだけ目を伏せる。
「……まぁな」
その一言が終わるか終わらないかのうちに……
〘ちょ~っと、ガイちゃん!!〙
待ってました!!と言わんばかりに
バンさんが二人の間へ飛び込んできた。
〘ち・が・う・で・しょぉ!?♡〙
「……」
ガイルは小さくため息をつく。
「……余計な話だ」
〘そぉんなことないわよぉ♡〙
バンさんは得意げに胸を張る。
〘ダンナさんねぇ
お料理全部が得意だったわけじゃないのよぉ♡〙
「え?」
思わず聞き返す。
〘このパンケーキだけ♡〙
バンさんはテーブルに並ぶパンケーキを
どこか懐かしそうに見つめた。
〘これはねぇ……
オカミさんに怒られた時に
仲直りしたくて覚えた唯一のお菓子なのよぉ♡〙
「仲直り……?」
〘そうよぉ♡
夜遅くまでお客さんと飲んで帰ってきては
オカミさんによく怒られてたの♡
それでねぇ♡
ダンナさんも、素直じゃないから
『ごめん』の一言がなかなか言えなかったの
それでねぇ
一生懸命覚えたのが
このパンケーキなのよぉ♡〙
〘最初は焦がしたり、生焼けだったり♡
それはもう、ひどい出来だったわぁ♡〙
「……あぁ」
ガイルが小さく笑う。
「婆さん、最初は文句言いながら食ってたな」
〘そうそう♡
『なんなんですか、これは!』
『甘くない!』
『パサパサしてる!』
なんてダメ出ししながら
笑顔でちゃんと全部食べちゃうんだから♡
本当に仲の良い夫婦だったわぁ♡〙
バンさんは嬉しそうに微笑む。
〘それをねぇ♡
ガイちゃんったら
毎日ダンナさんの隣に
ぴったりくっついて見てたのよぉ♡〙
〘『爺ちゃん! 次は!?』
『次は何するの!?』って
目をキラッキラさせながらねぇ♡〙
そう言いながら
バンさんはガイルの頭へ肘を乗せた。
〘あ~あ♡
あの頃のガイちゃんは可愛かったわぁ♡
あ~んなに素直で
あ~んなに可愛らしかった子が……〙
ガイルの頭をぽんぽんと叩きながら
大きくため息をつく。
〘それが今じゃ……
こんな無愛想な熊男になっちゃってぇ…
はぁ~……残念♡〙
「……放っとけ」
ガイルは嫌そうに頭を払う。
それでもバンさんは楽しそうに笑っていた。
私はそっと、もう一度パンケーキへ目を落とす。
(誰かと仲直りしたくて、生まれたお菓子……
誰かを笑顔にする、お菓子……か)
甘い香りが、ふわりと鼻をくすぐる。
(……なんだか、いいな)




