この……アタシが♡
「……ん?」
私が振り返ると、
バンさんは腕を組んだまま
ふわりと宙へ浮いていた。
けれど……
どこか、いつもと雰囲気が違う。
光に包まれた姿はそのままなのに
その輪郭は今までよりもずっとはっきりしていた。
ふわりと波打つ紫色の髪。
白い古代ローマの衣を思わせる
ゆったりとした装い。
胸元にはいくつもの首飾りが揺れ
金色の瞳が妖しく輝いている。
男とも女ともつかない
不思議な美しさを纏った姿だった。
「……バ、バンさん?」
思わず呟くと、
〘うふふふふ♡〙
バンさんは妖しく微笑む。
けれど、その視線は私ではない。
真っ直ぐ見つめているのは
ザックとジレンだった。
〘ア~タ達……♡〙
ゆっくりと二人を指差す。
〘リールちゃんのために頑張るって言うなら……
仕方ないから、認めてあげるわ♡〙
「……え?」
ザックが目を丸くする。
その隣では
ジレンもぱちぱちと瞬きを繰り返していた。
「兄ちゃん……」
「ああ……」
二人は顔を見合わせ
恐る恐るもう一度バンさんへ視線を戻す。
「……見えてる」
「聞こえてる……」
〘そうよ♡〙
バンさんは得意げに胸を張る。
〘このアタシが心を開いた相手には
ちゃんと声も届くし、姿も見えるの♡〙
そして……
ザックをちらりと睨みつける。
〘……ま、センス皆無のダメ男だけどねぇ♡〙
「バ、バンさんってば……」
バンさんはふわりとガイルの隣まで飛んでいく。
そして、ぽんっとガイルの肩を叩いた。
〘さぁ~て♡〙
〘ジレンちゃんはお絵描き♡
センス皆無のダメ男はお勉強♡〙
〘ガイちゃんは
リールちゃんのために
お~いしいお茶を淹れてあげなさい♡〙
「……あ?」
ガイルが眉をひそめる。
〘何よぉ♡〙
〘先生役は二人に取られちゃったんだからぁ♡
ガイちゃんは
リールちゃんのアフターケア役に徹しなさい♡〙
〘ちゃんと美味しいお茶を淹れて
疲れたら休ませて
たまには褒めてあげるのよぉ♡〙
〘それが今のガイちゃんの……
お、仕、事♡〙
「……余計なお世話だ」
ぼそりと呟くガイル。
〘照れちゃってぇ♡
素直じゃないんだからぁ♡〙
「……ったく」
ぶつぶつと文句を言いながらも
ガイルは結局
そのままスタスタと二階へ上がっていった。
「……ガイル、大丈夫かな」
思わず苦笑しながら、その背中を見送る。
ふと視線を戻すと
ジレンくんは炭筆を走らせながら
ちらちらとバンさんを見上げていた。
(……あ)
きっと描いてる。
今度のモデルは、バンさんなんだ。
一方、ザックはというと……
「…………」
目の前にふわふわと浮かぶバンさんを
ぽかんと口を開けたまま見つめていた。
まだ信じられない。
そんな表情だった。
〘なによぉ♡〙
バンさんは腰に手を当てる
〘そんなに見つめられると
照れちゃうじゃなぁい♡〙
「……いや」
ザックは恐る恐る口を開いた。
「その……
オバケ……じゃないんだよな?」
一瞬の静寂。
そして………
〘オ、オバケですってぇぇぇ!?〙
バンさんの怒声が店中に響く。
〘キィーーーーッ!!
やっぱりアンタはダメ男よぉぉぉ!!〙




