第一歩
「……そう、拗ねんなよ」
改めて四人で向かい合うように座る。
その横でガイルが頬杖をつき
困ったような顔で私を見つめた。
「……拗ねてない」
私は頬を膨らませたまま答える。
「そ、そうだよ!」
ジレンが慌てて身を乗り出した。
「絵なんて描けなくても、大丈夫だよ!」
「そうそう!」
ザックも大きく頷く。
「盾がナマコに見えるように描けるなんて
ある意味才能だぜ!」
「兄ちゃん!!」
ジレンが慌ててザックの腕を叩く。
(………………)
私はさらに頬をぷくっと膨らませた。
「あ、いや、その……」
ザックが目を泳がせる。
「そ、そうだ!」
「なんかジレンに
頼みたいことがあるんじゃなかったか?」
「そ、そうだよ!」
ジレンも慌てて頷く。
「お願いって、なあに?」
私は小さく息を吐いた。
「……見ての通り
私、絵は壊滅的なの」
そう言って苦笑しながら紙を指差す。
「だからね、ジレンくんに
このお店のチラシに載せる絵を描いてほしいの」
「それと……」
一度言葉を切り、少しだけ視線を落とす。
「文字……を教えてほしいの」
ちらりとガイルを見る。
眉間には少しだけ皺が寄っていた。
「…………」
(……やっぱりね)
本当は
ガイルがいないところでお願いしたかった。
きっと彼は
「俺が教える」
そう言うだろうと思っていたから。
ここ数日、一緒に過ごして分かったことがある。
ガイルは
自分が思っているよりずっと世話焼きだ。
お店の前で疲れたように
座り込んでいる人がいれば
ぶっきらぼうな顔のまま、水を差し出す。
子ども達が道ではしゃいでいれば
馬車に近付かないよう
自分が馬車側へ立って無言で追い払う。
子魔獣が溝にはまっていれば
「しょうがねぇな」
そう呟きながら首根っこを掴み
ぶぉんっ!!
勢いよく振りかぶって
親魔獣の方へ放り投げる。
親魔獣は慣れた様子で、ひょいっと受け止め
子魔獣も「きゅいっ」と嬉しそうに鳴いていた。
(最初に見た時は
心臓が止まるかと思ったけどね……)
親に抱かれた赤ちゃんが泣いていれば
いつの間にかその後ろへ立ち
泣き止むまで
おでこを指で優しく撫でて遊んでいる。
(……まあ、気付いた親御さんには
平謝りされてたけどね)
困っている人や物を見かければ
文句を言いながらも放っておけない。
そんな人だから………
最近忙しそうにしているガイルへ
これ以上負担を増やしたくなかった。
「僕でよければ描くよ!」
ジレンくんは嬉しそうに頷いた。
「でも……文字は僕もまだ勉強中なんだ」
少し困ったように眉を下げる。
「だから……」
そこで何かを思い付いたように
ぱっと顔を上げた。
「あっ! 兄ちゃんが教えてあげたら?」
ジレンくんがぱっとザックを見上げる。
「家、父ちゃんも母ちゃんももういないんだ
だからね、兄ちゃんが
色んなこと教えてくれたの!
文字も、お勉強も!
兄ちゃん、教えるのすっごく上手なんだよ!」
「ねっ! 兄ちゃん!」
「え? 俺?」
突然話を振られたザックは目を丸くした。
「あー……そうだな」
頭を掻きながら苦笑する。
「俺でよければ、読み書きくらい教えるよ」
「……ただ」
そう言いかけて
ちらりとガイルへ視線を向けた。
「…………」
ガイルは腕を組んだまま黙っている。
けれど……
額には、一本。
ぴくりと青筋が浮かんでいた。
少し迷ってから
私はそっとガイルを見た。
「…………」
相変わらず腕を組んだまま
何も言わない。
「……じゃあ」
私は静かに口を開く。
「お店に来てもらって
ジレンくんはチラシの絵を描く
その間、私はザックから文字を教わる」
二人へ視線を向けて微笑んだ。
「そんな形でも、いいかしら?」
「うん!」
ジレンくんは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、今日から描いてってもいい!?」
「もちろん!」
「おう!」
ザックも笑って立ち上がる。
「じゃあ、まずは基本からだな!」
二人は早速、紙や炭筆を用意し始めた。
私も後を追おうと立ち上がった
その時だった。
ぐいっ。
「……え?」
不意に手首を掴まれる。
振り返ると、ガイルだった。
「…………」
少しだけ視線を逸らしたまま
掴んだ手は離さない。
「……おい」
小さく呟く。
「も、文字なら……俺が」
そこまで言って
ガイルは口をつぐんだ。




