半魚人とナマコ
「お願い?」
ジレンくんは首を傾げたあと、にこっと笑った。
「うん! 僕にできることなら!」
「……あのね」
私は少しためらいながら紙を手に取る。
「お店のチラシを作ろうと思って……
その……物たちを描いた……んだけど」
そう言いながら
さっき裏返した紙を
おずおずと二人の前へ差し出した。
「…………」
「…………」
二人は紙をじっと見つめる。
そして
「「え!!?」」
ぴたりと声が重なった。
「物!!?」
「これ、物だったの!?」
「う…ん…
これ、潰れたダンゴムシじゃなくて」
私は恥ずかしさを堪えながら呟く。
「コップ……なの」
「コップ!?」
ザックが目を丸くする。
「ジレン! ダンゴムシじゃなかったぞ!」
「う、うん!」
ジレンも真剣な顔で頷く。
「びっくりしたぁ……」
「……………」
「え……じゃ、じゃあ」
ジレンくんがおそるおそる紙を覗き込む。
「これは……魔獣じゃなくて……?」
恐る恐る指差した先を見て
私は小さく頷いた。
「…………盾さん、なの」
「「盾!!?」」
兄弟の声が店中に響いた。
「えぇぇぇぇぇっ!!?」
「じゃ、じゃあ……」
ザックが次の絵を指差そうとした、その時だった。
「も、もういいでしょ!!」
私は慌てて紙を抱き寄せる。
「と、とにかく!
私は絵がまったくダメなの!!」
「……リールさん、ごめん」
ジレンくんが申し訳なさそうに眉を下げる。
「僕……フォローできない」
「……お、俺も」
ザックが頭を掻きながら苦笑する。
「コップをダンゴムシと間違えたのは
……人生初めてだ」
「…………」
(……でしょうね)
「だ、だからね!
ジレンくんに、お店のチラシを……」
そこまで言いかけた、その時だった。
「……なんだ」
低い声が聞こえた。
振り向くと、首を軽く回しながら
ガイルが二階から降りてくる。
少し疲れたような表情をしている。
「あっ! ガイルさん!」
「よお!」
ザックが軽く手を上げる。
ガイルは二人へ視線を向けると、小さく頷いた。
「終わったのか」
そう言いながら机の横を通り過ぎ
「……ん?」
机の上の紙へ目を留め
ひょいっと持ち上げた。
「「「あ!!」」」
しばらく紙をじっと見つめるガイル。
顎に手を当て
真剣な表情のまま口を開いた。
「……半魚人が死にかけてんのか?」
「ジレン
描くなら、もう少し明るい絵にしろ」
淡々と言い放つ。
「「「半魚…人……?」」」
三人の声が綺麗に重なった。
ガイルは一瞬だけ口を閉ざした。
そして何となく気まずそうに咳払いを一つすると
今度は別の絵を指差した。
「……このナマコは
うまく描けてんじゃねぇか」
「…………」
私はゆっくりと目を閉じる。
「……盾さん、よ」
「あ?」
ガイルが眉をひそめる。
「…………~~~~~~っ!!」
「だから!!」
「それは盾さんなの!!」
ガイルは紙を見つめたまま固まった。
それからゆっくりと顔を上げ
紙と私を何度も見比べる。
「…………」
長い沈黙。
そして………
「……リール」
「な、なによ!!」
「誰か……呪いてぇのか?」
「…………っ!!」
私は勢いよく立ち上がる。
「ほっといてーーーー!!」




