一日の終わり
店へ戻る頃に
太陽は少しずつ傾き始めていた。
「……続きは明日にすっか」
ガイルが大きく伸びをする。
「お前も休め」
そう言って私の頭をぽんっと軽く叩くと
そのまま店の中へ入っていった。
〘さてと♡〙
バンさんがふわりと宙へ浮かぶ。
〘アタシも少し休もうかしらねぇ♡
リールちゃんのファッションショーも
したいけど……
ガイちゃんに怒られそうだし~♡〙
少し残念そうに言いながら
空中をくるくると回る。
そして
〘じゃ、またねん♡〙
そう言うと、ふわりと光になり
看板の文字へと戻っていった。
「ふふ……」
私は思わず笑う。
(あー……色々あった一日だったな)
朝はザックに怒鳴られ
気付けば掃除をして
食器達に囲まれて
ガイルに笑われて
バンさんに振り回されて
服まで買ってもらった。
数日前までの私なら考えられない。
毎日会社と家を往復して
同じ景色を見て
同じ時間を過ごしていた。
それなのに
今は何もかもが違う。
「不思議ね……」
ぽつりと呟く。
悲しいわけじゃない
寂しいわけでもない
むしろ
胸の奥が少しだけ温かかった。
そう思いながら
改めてドーンザワ商店を見上げた。
その時
ふと、店の隣に立つ大きな木が気になる。
私はゆっくり近付くと
太い幹へそっと手を触れた。
「大きい木……」
ざらりとした感触が指先に伝わる。
「あなたは…話したりするのかしら」
独り言のように呟く。
すると
……サァッ
柔らかく温かな風が吹き抜けた。
葉が揺れ
さやさやと優しい音を立てる。
木漏れ日が葉の隙間から差し込み
きらきらと光っていた。
「……綺麗」
思わず見上げる。
しばらくそうしていると
一枚の葉っぱがひらひらと舞い落ちてきた。
まるで、受け取れと言われているみたいに。
(……?)
不思議に思いながらも手を伸ばす。
掌へ落ちた葉っぱは
どこかほんのり温かかった。
私は葉っぱを胸の前で両手に包み込む。
不思議だった
言葉は聞こえない
返事だってない
それなのに
なんだか優しく撫でられたような気がした。
「…ありがとう」
思わずそう呟く。
誰に向けた言葉なのかは分からない。
木にかもしれない
風にかもしれない
それとも
この世界そのものにかもしれなかった。
「ふふ……」
小さく笑う。
「いつか
あなたの声も聞こえたら嬉しいわ」
風がもう一度だけ吹いた。
葉が優しく揺れる。
〘いつか、ね〙
そう、返事をするように。




