見えてない、聞こえてない
ぎこちなくも二人で服を選んでいると
カラン……
キィ……
店の扉が開く音がした。
『いらっしゃいませー』
店員の明るい声が店内に響く。
その直後だった。
『あれ!?
おいっ! ガイル……と』
聞き覚えのある声に、私は思わず振り返る。
そこに立っていたのは
今朝、ドーンザワ商店へ
怒鳴り込んできた男性だった。
「あ、さっきのお客さん」
「……チッ」
隣でガイルが小さく舌打ちする。
男性はそんなこと気にも留めず
こちらへ歩いてきた。
『今朝は悪かったな』
頭を掻きながら、少し気まずそうに笑う。
『弟に万能石を渡してきた帰りなんだ
おかげで助かった
改めて礼を言わせてくれ』
そして深く頭を下げた。
『本当にありがとう』
「私は別に……」
慌てて首を振る。
「でも、弟さんの病気が
良くなるなら、よかったです」
「………」
男性はゆっくり顔を上げた。
その表情は
今朝とはまるで別人のように穏やかだった。
『お礼と言っちゃなんだけどさ
服を選んでるなら
俺に一着買わせてくれないか?』
そう言うと、男性はちらりとガイルを見る。
『今朝のシャツもそうだけど
アンタ………』
そして何かに気付いたように眉を上げた。
『あ、そういや名前聞いてなかったな』
「あ、リールといいます」
反射的に接客用の笑顔が浮かぶ。
『リール、か
俺はザックだ
改めて、よろしくな』
そう言ってザックは手を差し出した。
「あ、こちらこそ……」
私も手を伸ばす。
その時だった。
「…………………………」
背後から妙な圧を感じた。
(……え?)
恐る恐る振り返る。
そこには
額に青筋を浮かべながら
ザックを睨みつけるガイルの姿があった。
そして。
その少し上では
バンさんが腕を組みながらふわふわと浮いている。
〘……………〙
無言。
けれど。
(こ、怖い……)
表情なんて見えないはずなのに分かる。
二人とも
明らかにザックを睨んでいた。
とりあえず握手を交わし
私は早々に手を離した。
(な、なんだか居心地が悪い……)
背後から伝わる二つの圧に耐えながら、
この場を離れようとする。
けれど
ザックはまったく気付いていないのか
それとも気付かないふりをしているのか
『そうだなぁ
リールは白が似合うと思うんだよな』
「え?」
ザックは近くに掛かっていた
ワンピースを手に取った。
腰に長い緑のリボンが付いた
白いワンピースだ。
『今朝のシャツも似合ってたしさ』
そう言いながら
私の身体に軽く合わせる。
『ほら
似合うじゃん
可愛いぞ』
にかっと笑うザック。
「い、いや……あの……白は……」
そう言いかけた瞬間だった。
〘バッカねぇぇぇぇぇ!!〙
店内にバンさんの怒声が響き渡る。
〘あ~もう!!センス無いわぁ!!
この若造がぁ!!〙
ザックはバンさんの怒声など
聞こえていないかのように
次々と服を手に取った。
「ほら、これとかどうだ?」
そう言って差し出されたのは
白いシャツと淡いピンクのスカートだった。
「ワンピースも可愛いけどさ
こういうのもリールに似合うと思うんだよな」
そう言いながら、私の肩に軽く手を回す。
「そうだ、試着してきてよ」
試着室の方へ促される。
〘あーあーあー!!
このダメ男がぁ!!〙
バンさんがザックの目の前を飛び回る。
〘なんで白なのよ!!
汚れが目立つでしょー!?〙
〘リールちゃんはそういうので選ばないの!!〙
〘しかもセンス無いわね!!
リールちゃんの白い肌が
全然映えないじゃない!!〙
ザックの鼻先すれすれを
飛びながら怒鳴っているのに………
「うーん、やっぱり似合うと思うんだけどな」
本人はまったく気にしていない。
(……あれ?)
私は首を傾げた。
バンさんは今
ザックさんの目の前を飛んでいる。
それなのに
ザックさんは一度も視線を向けない。
(もしかして……
バンさんが見えてない?)
その時だった。
〘聞きなさいよ!!
この若造ぉぉぉぉ!!〙
バンさんがザックの額をばんばん叩き始める。
けれど
「リール?」
ザックは不思議そうな顔でこちらを見た。
「どうかしたか?」
(……見えてないんだ)
私はようやく確信した。
「…………」
ちらりとガイルを見る。
私の視線で言いたいことが伝わったのだろう。
額の青筋はまだ消えていなかったけれど
ガイルは小さく頷いた。
(…よし)
私は向き直る。
「ザック
せっかく申し出てくれて嬉しかったけど……」
私達まだ
行かなきゃいけないところがあるんです
だから、今日はもう行きますね」
できるだけ柔らかく微笑んだ。
「そっか」
ザックは少し残念そうに笑った。
「じゃあまたな」
「はい」
私が手を振ると
グイッ。
「へ?」
突然、腕を引かれた。
「ガ、ガイル?」
「…勘定」
「え?」
思わず瞬きを繰り返す。
するとガイルは
こちらを振り返ることもなく言った。
「さっきの服、買うんだろ」




