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第24話 評価の温度差

翌日。


 ギルドに入った瞬間――


 空気が、少しだけ違った。


「……また見られてるな」


「はい」


 リリアも小さく頷く。


 昨日より、視線が増えている。


 しかも――


(……ちょっと種類が違うな)


 驚きや興味だけじゃない。


 どこか、引っかかるような視線。


 そのまま受付へ向かう。


「おはようございます」


 リリアが声をかける。


「おはようございます」


 受付の女性が丁寧に頭を下げる。


「本日も任務のご紹介が可能ですが――」


「その前に」


 横から声が入る。


 少し強めの口調。


「ちょっといいか?」


 振り向く。


 数人の勇者たち。


 その中の一人が、こちらを見ていた。


「……何か?」


 リリアが静かに問う。


「昨日の話だ」


 腕を組みながら言う。


「ボス討伐、だっけ?」


「はい」


 短く答える。


 その瞬間。


「正直、信じられねえんだよな」


 はっきりと言い切られる。


 周囲の空気が、少し張り詰める。


(……来たか)


 なんとなく、こういう流れは予想していた。


「疑ってる、ってことか?」


 穏やかに聞き返す。


「まあな」


 あっさり頷く。


「俺らも同じダンジョン行ったけどよ」


 少しだけ苛立ったように続ける。


「途中で引き返した。あれは無理だって判断した」


 それは、正しい判断だと思う。


 無理はしない方がいい。


 だから――


「それでいいと思う」


 そのまま言う。


 一瞬、相手が言葉に詰まる。


「は?」


「無理に突っ込んでやられるより、引く方がいい」


 事実をそのまま。


 感情を乗せずに。


「……じゃあなんでお前らは倒せたんだよ」


 少しだけ声が強くなる。


 周囲も、静かに聞いている。


(どう答えるか、だな)


 少しだけ考える。


 変に隠しても意味はない。


 でも、全部話す必要もない。


「……準備して、やれる形にしただけだよ」


 シンプルに答える。


「正面からはやってない」


 それも事実だ。


 すると――


「逃げ回ってただけってことか?」


 皮肉っぽく言われる。


 空気が、少しだけ悪くなる。


 そのとき。


「それは違います」


 リリアが一歩前に出た。


 静かな声。


 でも、はっきりしている。


「ユウトさんは、状況を見て最適な判断をされています」


 まっすぐ相手を見る。


「それを“逃げ”とは言いません」


 場が静まる。


 予想外だったのか、相手が少しだけ戸惑う。


(……助かるけど)


 同時に、少し申し訳なくもなる。


「……まあいい」


 相手は小さく舌打ちする。


「結果が出てるのは事実だしな」


 完全には納得していない顔。


 でも、それ以上は言わないらしい。


「ただ」


 最後に一言。


「次も同じようにいくとは思うなよ」


「……ああ」


 頷く。


「俺もそう思う」


 素直に返す。


 その言葉に、相手が少しだけ意外そうな顔をした。


 それ以上は何も言わず、去っていく。


 ざわめきが戻る。


「……大丈夫でしたか」


 リリアが小さく聞く。


「大丈夫」


 軽く笑う。


「言ってること、間違ってないし」


 実際、その通りだ。


 毎回うまくいくとは限らない。


「それより」


 少しだけ視線を外す。


「さっきの、ありがとな」


「……いえ」


 リリアは少しだけ目を逸らした。


「事実を述べただけですので」


 でも、その耳がほんの少し赤い気がする。


(……分かりやすいな)


 少しだけ、気持ちが軽くなる。



「では、本日の任務ですが」


 受付の女性が改めて話を戻す。


「いくつか候補があります」


 書類を差し出される。


 目を通す。


 討伐、護衛、調査。


 その中で――


「……これ」


 気になるものがあった。


「別のダンジョン、か」


「はい」


 受付が頷く。


「最近確認されたものです」


 リリアも横から覗き込む。


「……位置が近いですね」


「ああ」


 嫌な予感がする。


 昨日の話。


 “他にもあるかもしれない”ダンジョン。


(……繋がってる可能性、あるな)


「どうしますか?」


 リリアが聞く。


 少しだけ考える。


 リスクはある。


 でも――


(情報は欲しい)


「……様子見だけ行くか」


「はい」


 すぐに頷く。


 無理はしない。


 それが前提だ。


「では、こちらの任務を受理します」


 受付が手続きを進める。


 新しい目的地が決まる。



 ギルドを出る。


 空気が少しだけ冷たい。


「さっきの人たち」


 リリアがぽつりと呟く。


「気にしていませんか?」


「まあ、多少は」


 正直に答える。


 でも。


「それより、自分たちのこと考えた方がいい」


 それが本音だ。


 他人の評価より、自分たちの生存。


 そっちの方が大事だ。


「……そうですね」


 リリアが小さく微笑む。


「ユウトさんらしいです」


「そうか?」


「はい」


 迷いのない返事。


 それだけで十分だ。


 並んで歩き出す。


 次のダンジョンへ。


 何があるかは分からない。


 でも――


(やることは同じだ)


 準備して、考えて、無理をしない。


 それだけ。


 ――最弱スキル“ログアウト”。


 それは、逃げるための力。


 でも。


 “他人と違うやり方で進むための力”でもある。


 その道を、これからも進んでいく。


 そう決めながら――


 俺たちは、新たな目的地へと向かった。


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