第23話 評価と、その先にあるもの
ダンジョンの外に出た瞬間。
肺に空気が一気に流れ込んだ。
「……はあ」
思わず大きく息を吐く。
重かった圧が、ようやく消えた。
「……終わりましたね」
「ああ」
リリアの言葉に頷く。
振り返る。
あの暗闇。
さっきまで、あそこにいたのかと思うと――
(……よくやったな、俺)
少しだけ、実感が湧いてくる。
でも。
「疲れた……」
本音が漏れる。
「はい。私もです」
リリアも小さく笑った。
その表情は、どこか柔らかい。
戦闘の時とは違う顔。
(……なんか、いいな)
そんなことを思ってしまう。
「とりあえず、戻るか」
「はい」
⸻
ギルドに戻る。
扉を開けた瞬間――
視線が集まった。
昨日より、明らかに強い。
「……まただな」
「はい」
小さく頷くリリア。
そのまま受付へ向かう。
「報告をお願いします」
リリアが告げる。
受付の女性は、少しだけ緊張した表情でこちらを見る。
「……討伐、されたのですか?」
「はい」
短く答える。
一瞬の沈黙。
そして――
「……確認いたします」
奥へと消える。
ざわめきが広がる。
「マジかよ……」
「ボスだぞ……?」
小声が飛び交う。
落ち着かない。
でも、気にしすぎても仕方ない。
(いつも通りでいい)
そう思って、静かに待つ。
しばらくして。
奥から数人が出てきた。
昨日の人物もいる。
「……本当に、やったのか」
静かな声。
「はい」
リリアが答える。
簡潔に、状況を説明する。
戦闘の流れ。
連携。
討伐の瞬間。
全てを聞き終えたあと――
その人物は、ゆっくりと頷いた。
「……見事だ」
短い一言。
でも、重い。
「正直に言おう」
こちらを見る。
「ここまで早く達成するとは思っていなかった」
「……運が良かっただけです」
とりあえず、そう返す。
変に持ち上げられても困る。
だが。
「その“運”を引き寄せるのも、実力だ」
きっぱりと言われる。
少しだけ言葉に詰まる。
「……ありがとうございます」
結局、それしか言えなかった。
その人物は小さく笑う。
「報酬だ」
袋が差し出される。
ずしりと重い。
(……多いな)
明らかに今までと違う。
「加えて」
さらに続く。
「特別報酬と、正式な任務達成として記録する」
ざわっ、と空気が揺れる。
周囲の視線が一段と強くなる。
「今後、より上位の任務を優先的に紹介することになるだろう」
「……そうですか」
短く答える。
正直、少しだけ不安もある。
(難易度、上がるよな)
当然だ。
でも。
(無理はしない)
それだけは変わらない。
「それと」
その人物が、少しだけ声を落とす。
「今回のダンジョンだが――」
空気が変わる。
「内部構造に、いくつか不自然な点が見つかっている」
「……不自然?」
思わず聞き返す。
「ああ」
頷く。
「魔物の動き、配置、そして痕跡」
少しだけ間を置く。
「誰かが“管理している”可能性がある」
背筋に、冷たいものが走る。
(……やっぱりか)
あの違和感。
間違っていなかった。
「現在、調査を進めているが……」
こちらを見る。
「おそらく、あれは一つではない」
「……どういう意味ですか」
リリアが静かに問う。
「同様のダンジョンが、他にも出現している可能性がある」
場の空気が、さらに重くなる。
(……広がってるのか)
ただの一件じゃない。
もっと大きい。
「もし関与するのであれば、覚悟しておいてほしい」
静かな言葉。
でも、重い。
「……分かりました」
リリアが答える。
俺も、小さく頷く。
⸻
ギルドを出る。
外の空気。
少しだけ現実に戻った気がする。
「……一気に話が大きくなったな」
「はい」
リリアも同じことを思っていたらしい。
「ですが」
こちらを見る。
「無理をする必要はありません」
その言葉に、少しだけ驚く。
でも――
「……だな」
自然に頷けた。
「できることだけやる」
「はい」
リリアが微笑む。
その表情は、前よりずっと柔らかい。
「それで、十分です」
その言葉が、妙に心に残る。
少しだけ考えて――
「……ありがとな」
素直に言う。
リリアは一瞬だけ目を丸くして。
それから、少しだけ照れたように笑った。
「いえ」
短い返事。
でも、それで十分だった。
空を見上げる。
少しだけ雲が増えている。
この先、どうなるかは分からない。
でも――
(やることは同じだ)
無理はしない。
準備して、考えて、動く。
それだけ。
――最弱スキル“ログアウト”。
それは、逃げるための力。
でも。
“先を読むための力”でもある。
その価値が、少しずつ広がっていくのを感じながら――
俺は、次の一歩を踏み出した。




