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第22話 勝つための答え

重い一撃が、すぐ横を通り過ぎる。


 風圧だけで、体がぶれる。


「っ……!」


 ギリギリで避ける。


 だが、次が来る。


 間髪入れずに。


(……速い)


 分かっていたはずなのに、体が追いつかない。


 ボスの踏み込み。


 振り下ろし。


 間合い。


 全部が、こちらの想定より一歩速い。


「ユウトさん!」


「大丈夫!」


 声を返す。


 でも、余裕はない。


(このままじゃ削れない)


 避けるだけで精一杯。


 攻撃に転じる隙がない。


 つまり――


(まだ足りない)


 決め手がない。


 なら。


「……一回引く!」


「はい!」


 リリアがすぐに動く。


 後ろへ。


 距離を取る。


 だが、ボスは追ってくる。


 速い。


 逃げ切れない。


(ここだ)


 意識を集中する。


 タイミングを見極める。


 そして――



 ――ログアウト。



「……はあ」


 自室に戻る。


 呼吸を整える。


 さっきまでの動きを、頭の中で再生する。


(踏み込みは見える)


 完全じゃないが、読める。


 問題は、その後。


 連続攻撃。


 回避しても、すぐ次が来る。


「……止めるしかないか」


 呟く。


 動きを止める。


 一瞬でいい。


 その隙を作る。


(そのためには)


 リュックを見る。


 準備してきたもの。


 使える。


 だが、タイミングがシビアだ。


「……リリアと合わせる」


 一人じゃ無理だ。


 二人でやる。


 そうすれば――


(いける)


 さっきより、はっきりとした形が見える。


 やることは決まった。


 あとは、ミスらないだけ。


 深呼吸。


「……頼むぞ」


 小さく呟く。


 自分に。


 そして――


 もう一度、あの場所へ。



 ――ログイン。



 同じ位置。


 同じ距離。


 ボスがこちらを見る。


「……もう一回、行くぞ」


「はい」


 リリアが即座に応じる。


 迷いはない。


 それだけで十分だ。


「少しだけ時間、もらう」


「承知しました」


 それだけで通じる。


 ボスが動く。


 踏み込み。


(来る)


 横へ回避。


 風圧が背中を打つ。


 次の動作に入る前に――


「今!」


 叫ぶ。


 リリアが前に出る。


 牽制。


 ボスの注意が一瞬そちらへ向く。


(ここだ)


 リュックに手を入れる。


 取り出す。


 投げる。


 足元へ。


 ――カンッ。


 一瞬の違和感。


 視線が、わずかに落ちる。


(止まるな)


 踏み込む。


 間合いへ。


 危険な距離。


 でも――


(この一瞬だけでいい)


 バットを振る。


 狙いは頭じゃない。


 腕。


 武器を持つ側。


 ――ゴッ!!


 鈍い音。


 完全じゃない。


 だが、軌道がぶれる。


「っ――!」


 振り下ろしがズレる。


 地面に叩きつけられる。


 その瞬間。


「――はあっ!」


 リリアの一撃。


 深く入る。


 体勢が崩れる。


(今だ)


 迷わない。


 もう一度踏み込む。


 怖い。


 でも――


(ここで引いたら終わる)


 振り抜く。


 ――ゴンッ!!


 今度は、確かな手応え。


 ボスの体が揺れる。


 初めて。


 明確な隙。


「もう一回!」


「はい!」


 連携。


 リリアが動く。


 俺も動く。


 左右から。


 逃げ場を潰す。


 ボスが吠える。


 だが、遅い。


 さっきまでの速度が出ていない。


(削れる)


 確信する。


 攻撃を重ねる。


 一発。


 二発。


 三発。


 確実に。


 焦らず。


 でも止めずに。


 ボスが最後の抵抗を見せる。


 振り上げる。


 だが――


(読める)


 横へ。


 回避。


 そのまま背後へ。


「――終わりだ」


 思わず口に出る。


 振り抜く。


 ――ゴッ!!


 重い音。


 ボスの体が、崩れる。


 膝をつく。


 そして――


 倒れた。


 静寂。


 しばらく、何も聞こえない。


「……はあ」


 息を吐く。


 体の力が抜ける。


「……勝った、か」


 実感が、遅れてくる。


「はい」


 リリアの声。


 少しだけ、安堵が混じっている。


「お見事でした」


「いや……」


 首を振る。


「一人じゃ無理だった」


 本音だ。


 あの一瞬も。


 あの隙も。


 二人じゃなきゃ作れなかった。


 リリアは少しだけ驚いた顔をして――


 それから、柔らかく微笑んだ。


「……私も、そう思います」


 その言葉に、少しだけ笑う。


 疲れが、どっと押し寄せる。


 でも。


(やれたな)


 無理はしなかった。


 ちゃんと準備して。


 考えて。


 やれる形で戦った。


 その結果だ。


 倒れたボスを見る。


 もう、動かない。


 ダンジョンの奥の空気が、少しだけ軽くなった気がした。


 ――最弱スキル“ログアウト”。


 それは、やり直す力。


 でも。


 “勝つ形を作る力”でもある。


 それを、ようやく証明できた気がした。


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