第13話 評価の変化と、見えない強さ
森を抜け、城下町へ戻る。
さっきの戦闘の余韻が、まだ体に残っていた。
「……疲れたな」
正直な感想が、口から漏れる。
「はい。今回は特に」
リリアも小さく頷いた。
いつもより少しだけ、息が上がっている。
(あの個体……やっぱり強かったな)
思い返すだけで、少し緊張が戻る。
でも――
(なんとか、勝てた)
それだけで十分だ。
門が見えてくる。
兵士がこちらに気づき、軽く手を挙げた。
「お、また戻ったか」
「はい。報告を」
リリアが前に出る。
「森の北側で、強化個体を含む群れを確認。討伐済みです」
「……強化個体?」
兵士の表情が変わる。
「まさか、あのデカいやつか?」
「はい」
短い肯定。
一瞬、間が空く。
「……それを、二人で?」
「はい」
今度は、はっきりと驚きが浮かんだ。
「……マジかよ」
ちらりと、こちらを見る。
昨日とは明らかに違う視線。
「そっちの兄ちゃんも、やったのか?」
「まあ……少しは」
いつも通り、曖昧に答える。
すると、兵士は少しだけ笑った。
「少し、で済む話じゃねえだろ」
冗談めかしているが、目は本気だ。
「とにかく、ギルドに行け。ちゃんと評価されるはずだ」
「分かりました」
⸻
ギルドの扉を開ける。
中の空気が、昨日と少し違う気がした。
視線が集まる。
明らかに、“意識されている”感じ。
「……見られてますね」
「だな」
小声で答える。
落ち着かないが、逃げる理由もない。
そのまま受付へ向かう。
「討伐の報告をお願いします」
リリアが告げる。
「内容をどうぞ」
「ゴブリン三体。うち一体は強化個体です」
「……強化個体?」
受付の女性の手が止まる。
「確認します」
書類をめくる音。
少し長めの沈黙。
そして――
「……確認が取れました。討伐として正式に記録します」
顔を上げる。
その表情は、さっきよりも真剣だった。
「こちら、通常より高い報酬になります」
差し出された袋。
昨日より、明らかに重い。
(……増えてるな)
少しだけ実感が湧く。
「また、今回の内容は上にも共有されます」
「上?」
「はい。勇者様方の戦果は、随時報告されますので」
さらりと言われる。
でも、その意味は軽くない。
(……ちょっと、面倒なことになりそうだな)
内心で苦笑する。
目立つつもりはなかった。
でも――
(まあ、仕方ないか)
ここまでやれば、隠しきれるものでもない。
「分配はどうされますか?」
「半分で」
リリアが即答する。
少しだけ視線がこちらに向く。
確認するように。
「……それでいい」
頷く。
昨日と同じ。
変わらない方がいい。
「かしこまりました」
手続きが終わる。
そのとき。
「おい」
また声がかかる。
振り向くと、昨日の勇者がいた。
今度は、一人じゃない。
何人か引き連れている。
「聞いたぞ。強化個体やったって?」
「まあ、運が良くて」
いつも通りに答える。
だが――
「運で倒せる相手じゃねえだろ」
はっきりと言われる。
周囲もざわついている。
「お前、ログアウトだっけ?」
「ああ」
「……マジで分かんねえな」
頭をかく。
「ハズレスキルでそれって、どうなってんだよ」
その言葉に、小さく笑う。
「俺もよく分かってない」
半分は本当だ。
使い方は分かってきた。
でも、それがどこまで通用するかはまだ未知数だ。
「……なんか隠してんだろ」
「大したことじゃないよ」
軽く流す。
これ以上話す気はない。
勇者はしばらくこちらを見ていたが――
「まあいいや。次、見せてもらうわ」
そう言って去っていった。
残った視線は、さっきよりも強い。
「……完全に目立ってますね」
「だな」
苦笑する。
でも、不思議と嫌な感じはしない。
リリアが隣にいるからかもしれない。
「ユウトさん」
「ん?」
「先ほどの戦闘ですが」
静かな声。
振り向く。
「無理は、していませんか?」
また、その質問。
でも、前より少しだけ距離が近い。
「……してない、つもり」
少し考えて答える。
「危ないとは思ったけど、引く余裕はあった」
――実際は、ログアウトで一度離脱している。
でも、それは言わない。
ただ。
(ちゃんと引ける、っていうのは大きい)
それがあるから、踏み込める。
リリアは、じっとこちらを見て――
「……そうですか」
小さく頷く。
「でしたら、良かったです」
その言い方は、少しだけ安心しているように聞こえた。
「……ありがと」
自然に言葉が出る。
リリアは少しだけ目を伏せて、微笑んだ。
「いえ」
短いやり取り。
でも、確実に距離は近くなっている。
ギルドの外に出る。
夕方の空気。
少しだけ風が冷たい。
「今日はどうする?」
「休んだ方が良いかと」
「だな」
素直に頷く。
無理はしない。
それが今のやり方だ。
「また明日、行けそうか?」
「はい」
即答だった。
その答えに、少しだけ安心する。
(……一人じゃないな)
改めて思う。
そして――
(まだ、やれる)
今日の戦い。
あの強化個体。
ちゃんと対応できた。
なら。
もう一段、上もいけるはずだ。
――最弱スキル“ログアウト”。
それは、まだ知られていない。
でも。
確実に。
この世界での“強さ”として、形になり始めていた。




