第12話 ぎりぎりの勝ち方
大きい個体が、ゆっくりと棍棒を振り上げる。
さっき見た動き。
重い一撃。
だからこそ――
(隙がある)
分かっていても、怖いものは怖い。
足が、ほんの少しだけすくむ。
でも。
(大丈夫だ)
準備はしてきた。
やることも決まっている。
「……来い」
小さく呟く。
ゴブリンが踏み込む。
棍棒が振り下ろされる。
――速い。
でも。
(見えてる)
横に転がる。
地面に叩きつけられる衝撃音。
土が跳ねる。
すぐに立ち上がる。
距離を取る。
間合いの外。
(今だ)
リュックに手を入れる。
取り出したのは、小さな袋。
中身を地面にばらまく。
――ガラッ。
乾いた音。
小さな金属片が散らばる。
その上を、ゴブリンが踏み込む。
「――っ!?」
足が止まる。
完全じゃない。
でも、一瞬だけバランスを崩す。
(いける)
踏み込む。
バットを振る。
――ガンッ。
鈍い手応え。
だが、倒れない。
ぐらりと揺れるだけ。
「……硬っ」
思わず声が漏れる。
通常の個体より、明らかに耐久が高い。
その間に――
反撃。
横薙ぎの一撃。
「っ――!」
とっさに後ろへ飛ぶ。
風圧が頬をかすめる。
(危な……)
あと少しで、まともに食らっていた。
距離を取る。
呼吸を整える。
(焦るな)
一撃で倒す必要はない。
削ればいい。
そのための時間は――
「ユウトさん!」
リリアの声。
横を見る。
小型のゴブリン二体は、すでに倒されていた。
こちらに合流してくる。
(助かる)
「そっちは大丈夫!」
「はい!」
短いやり取り。
それだけで、少し楽になる。
「この個体、硬いです」
「だろうな……」
息を吐く。
「でも、動きは読める」
「……はい」
リリアがわずかに頷く。
意図を理解している。
「隙に合わせて、二人でやる」
「承知しました」
言葉は短い。
でも、十分だ。
ゴブリンが再び構える。
今度は、こちらをしっかり見ている。
さっきよりも慎重だ。
(……学習してるのか?)
少し嫌な予感がする。
だが――
(やるしかない)
深く息を吸う。
吐く。
集中する。
踏み込んでくる。
棍棒が振り上がる。
(今だ)
あえて、少し遅れて動く。
ギリギリまで引きつける。
振り下ろされる瞬間。
横へ。
回避。
そのまま、すれ違う。
「リリア!」
「はい!」
背後から、リリアが踏み込む。
鋭い一閃。
だが、浅い。
完全には通らない。
「……っ!」
それでも、動きが止まる。
ほんの一瞬。
(十分だ)
振り返る。
バットを構える。
狙うのは――頭。
迷わない。
踏み込む。
振り抜く。
――ゴッ。
鈍い音。
手に、確かな感触。
ゴブリンの身体が、大きく揺れる。
それでも、まだ倒れない。
「……マジかよ」
思わず呟く。
だが――
次の瞬間。
「――はっ!」
リリアの追撃。
今度は、深く入る。
ゴブリンの動きが止まる。
膝が崩れる。
そして――
ゆっくりと、倒れた。
土煙が舞う。
静寂。
数秒遅れて、息を吐く。
「……終わった」
その場に立ったまま、力が抜ける。
思った以上に、消耗していたらしい。
「ユウトさん!」
リリアが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「ああ……なんとか」
苦笑する。
「正直、ギリギリだった」
「……はい」
リリアも小さく息を吐いた。
その表情には、わずかに緊張が残っている。
「危険でした」
「だな」
素直に頷く。
無理はしていない。
でも、安全でもなかった。
「……でも」
リリアが、少しだけ視線を上げる。
「連携は、良かったと思います」
「……そうか?」
「はい」
はっきりと頷く。
「一人では難しかったと思います」
その言葉に、少しだけ間が空く。
それから――
「……俺も、そう思う」
正直に答える。
本当に、一人じゃ無理だった。
「ありがとな」
自然に言葉が出る。
リリアが、一瞬だけ驚いた顔をする。
それから、ほんの少しだけ柔らかく笑った。
「こちらこそ」
短い言葉。
でも、どこか温かい。
少しだけ、沈黙。
けど、不思議と気まずくない。
(……いいな)
ふと、そう思う。
こういうのは、嫌いじゃない。
「……一回、戻るか」
「はい。その方が良いかと」
リリアも同意する。
無理はしない。
それが、今のやり方だ。
来た道を引き返す。
森を抜けながら、少しだけ振り返る。
さっき倒した個体。
(……ああいうのも、出てくるのか)
油断はできない。
でも。
(やり方は、間違ってない)
そう思えるだけの手応えはあった。
隣を歩くリリアを見る。
少しだけ距離が近い。
それが、妙にしっくりくる。
――最弱スキル“ログアウト”。
それは、まだ“最強”じゃない。
でも。
使い方と、仲間次第で――
ちゃんと、戦える。
そう実感できた一戦だった。




