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第百七十八話 探り合い

 互いの自己紹介を終え、「よろしく」と言う輝虎の父、大河に対し、「よろしくお願いします」と慧が返したところで会話は一度止まった。何故なら、ここから一体何を話せばいいのか分からなかったからである。自分のことについて話して欲しいと言われても洗いざらい話すのは嫌だし。かと言ってここで嘘をつくのは後々響いてきそうで怖い……。慧がその狭間で、丁度いい塩梅について悩んでいると、それを察知したのか、


「おっとそうか、話して欲しいって言われても、自分で自分のことをペラペラ話すのは難しいよな。質問形式にしようか」


 と提案された。


「は、はい。そうしてもらえると助かります」


 出来ればこちらではなくそちらの情報を聞きたいのですが……。と思う慧だが、今は相手のターンで、そう言い返すわけにはいかなかったので、素直に相手の提案を受け入れた。


「オーケー。そしたらまずは、輝虎との馴れ初めでも聞こうかな」

「な、馴れ初め、ですか? えっと、その、俺たちはそう言う関係では……」

「ハハッ! 冗談だよ。輝虎とどうやって出会い、仲良くなったのか、聞かせてくれないか?」

「わ、分かりました」


 流石先輩の父親。冗談の質というか、いじり方がそっくりだ……。と心の中でため息を吐きながら、慧は言葉を続ける。


「先輩と出会ったのは、学校のテラスでした。空腹で倒れていた先輩に俺の弁当を分けてあげたのがきっかけで、それ以降、ちょくちょくたかられ……。ゴホン。ちょくちょく昼食を一緒にするようになって、それから少しした頃、部活に――」

「そういう友だちなんだ。つまり、飲み友みたいな感じだよ」


 今まで黙っていた輝虎が割り込み、無理矢理話を終わらせた。


「ほう。飲み友ね……」


 大河はどこか怪訝そうに呟く。


「そ、そう。飲み友。少なくとも、同級生ではないね」


 それに対し、輝虎はやや焦った様子で冗談めかして答える。すると、


「いや、違うな」


 と大河が呟いた。それを聞き、無理に微笑んでいた輝虎の表情が引き締まる。


「メシ友だな」

「……は?」

「お前たちは未成年で酒を飲めないんだから、飲み友って言うのはおかしい。だから、メシ友だ。そう思うだろ?」

「は、はぁ……」


 呆れ果てている輝虎に代わり、恐らく語りかけられたであろう慧が答える。というか、反応を示してあげる。


「なんだ? 俺、なんか変なこと言ったか?」


 変なことは言っているし、気にするところはそこじゃないし、等々。ツッコミどころだらけだが、今日会ったばかりの、それも先輩の父親で、有名なカメラマンという立場の相手にツッコミを入れられるわけもなく、慧は愛想笑いを浮かべながら、


「い、いえ。何も変なことは言ってませんよ。はは……」


 と答えた。


「ハハッ。だよな」


 あきらかに慧からは、仕方なくそう言った感。話を合わせた感。が滲み出ていた気はするが、大河はこれで満足してくれたらしい。


「で、何の話だったかな」

「えっと、俺と先輩がどうやって出会って、どんな感じで仲良くなったかの話をしてました」

「あぁ、そうだった。それで、今現在はメシ友止まりなんだって話だったな」

「はい。そうですね」


 大分逸れたところに着地した気はするが、もう考えるのが面倒になっていたし、それに、「部活」と言おうとした時に輝虎が割り込んで来たのが気になった慧は、今は一旦、「メシ友」ということで話を落ち着かせた。


「失敬失敬。じゃあ、次に行こうか」


 大河はそう言うと、笑みを浮かべたまま水を一口飲み、


「伊武ちゃんは何友なのかな?」


 と、質問の対象を伊武に変更した。自分だけが質問の対象なのだろうと勝手に思い込んでいた慧は、その急展開に驚いた。と同時に身構えた。このポーカーフェイスの伊武がなんて答えるのか分からない上に、その答えによっては、すかさずフォローに入らなくてはならない。そう思ったからである。


「……ゲーム友だち」


 ひとまず「部活」と言う単語は出て来なかったので、慧は小さく安堵の息を吐きつつ、輝虎の方をチラリと窺う。見た感じ、輝虎も一安心しているようである。


「ゲームか……」


 慧が状況を把握し、整理していると、大河が呟く。


「輝虎が?」


 良い返答かと思ったが、家族である大河には何か引っかかったらしく、隣の輝虎の方を見てそう聞いた。


「あぁ、うん。そうなんだ。最近興味本位で始めたんだよ」

「そ、そうなんですよ。実は、俺が誘ったんです。元々は俺と江波戸の二人でやってたんですけど、ある日、この三人で昼ご飯を食べることになった時がありまして、その時にせっかくならと思って誘ったんです。それで今は、そのゲームにめちゃくちゃ詳しい江波戸に、俺と先輩が色々と教えてもらってるって感じです」

「ふうん、そうか。俺はゲームに詳しくないからよく分からんが、何にせよ、誰かと趣味を共有できるって言うのは良いことだな」


 真実と嘘を交えた慧のフォローで何とか納得させられたのか、大河は満足そうな笑みを浮かべて言うと、隣に座る輝虎の肩をポンポンと叩いた。


「あぁ。そうだね」


 対して輝虎は苦笑を浮かべて答える。しかし大河はそれに気付かぬまま慧に視線を戻し、


「ここまでの話をまとめると、つまり君はメシ友でもあり、ゲー友でもあるってことだな」


 と話を再開した。


「げ、ゲー友……。まぁ、そうですね」


 この人は何でも略さないと気が済まないのか……? と困惑しつつも、大河の言葉に突っかかろうとはせず、相槌を打つ。


「なるほどな。それで、そんなメシ友でありゲー友である君たちは、今日ここに何をしに来たのかな?」

「えっ……」


 徐々に徐々に和気藹々とした雰囲気に変わりつつあったのだが、大河の新たな質問で一瞬にして空気が張り詰める。


「君たちが輝虎の友だちだというのはよーく分かった。だから次は、今日、何故ウチに来たのかを聞かせて欲しい」

「そ、それは……」


 言うなら今だ。当初の目的である、輝虎を解放して欲しい。という願いを申し出るには絶好のタイミングだ。そう思いながら無意識に唾を飲み込むと、慧はゆっくりと口を開き――


「最近学校で会わなかったから」


 慧が声を発するよりも前に伊武が答えた。


「そうか。君たちはメシ友なんだもんな。それは学校で会わなかったら心配になるか」

「ん、はい。家で何かあったのかもと思って様子を見に来ました」

「いやぁ、嬉しいね。娘にこんな良い友だちが出来ていたなんて。でも、伊武ちゃんは数日前、輝虎と会ってるんじゃないのか?」


 大河のその返しに慧は目を見開いた。というのも、


(マズイ……! 変な疑いを持たれないように、先輩が俺の家に泊ったってこと、江波戸に話してない……!)


 すぐさま自らの過ちに気付いたからであった。しかし、


「いえ、会ってませんけど」


 慧が口を挟むよりも早く、伊武が答えてしまった。


「ほう……。じゃあついでに聞くけど、伊武ちゃんはなんで、『家で何かあったのかも』と思ったのかな?」

「それは――」

「ゴホンッ! ゴホゴホッ!」


 今度こそは、伊武が答えるよりも先に慧が割り込む。


「す、すみません。水が、変なところに、入っちゃって……」

「おいおい、大丈夫かい? ゆっくり飲みなよ」


 大河は笑いながらそう言うと席を立った。そして慧の横まで進み、


「立てるかな?」


 と言った。


「は、はい」


 何が何だか分からないまま慧は席を立つ。すると、


「うわー、濡れてるじゃないかー。上で乾かそうか」


 と、突然棒読みでそう言われた。


「えっ、いや、溢してないですよ?」

「いいからいいから」


 大河は慧の言葉を受け流すと、無理矢理慧の腕を取り、ドアの方へ向かう。


「ちょ、ちょっと! じょしゅ――。彼をどこに連れて行くんだ」

「上のランドリーだよ。二人はここで仲良く待っててくれ。すぐ戻る」


 立ち上がって追いかけて来そうな輝虎を制すると、大河は歩を速め、慧を引き摺るようにしてリビングを出た。そしてエントランスに出て間もなく、慧を解放した。


「ふぅ。すまないね。少し強引になった」

「い、いえ。全然大丈夫ですけど、その、何故俺を?」


 凡その見当はついているが、慧は最後の悪足掻きですっとぼけて見せた。しかし、


「男と男の話し合いがしたくてね」


 慧の企みはあっさりと受け流されてしまった。


「さぁ、こっちだ」


 逃げられる可能性は無いかと考える慧を余所に、大河はそう言って階段を上り始める。きっと、いや間違いなく、さっきの話で何かに気付いたのだろう……。もう後には退けない。そうと悟った慧は覚悟を決め、大河の後に続いて階段を上がる。そうして二階に上がった二人は二階のリビングに入ると、ダイニングの椅子三脚の内、対面になっている席を各々引き出し、そこに腰かけた。


「さてと、早速話の続きを。といきたいところだが、その前に、一つ約束してほしいことがある」

「はい。なんでしょうか」

「ここからは嘘をつかないこと。多分、さっき下で話してた時はいくつか嘘をついていただろう?」

「……」

「ハハッ。身構えなくても大丈夫だ。怒ってるわけじゃないからな。俺はただ、知りたいだけなんだ。今の輝虎を。それに、ここでの話は誰にも言わないと誓う。男と男の約束だ」

「……」


 今日会ったばかりということもあるし、一挙手一投足が嘘っぽく見えるということもあり、慧はすぐに頭を縦に振ることが出来なかった。すると、


【信じて良いと思いますよ】


 ラヴィの助言が届いた。続けて、


【確かに軽薄そうな方に見えますが、今は違います。先ほどよりも表情が力み、様々な場所を観察していた視線も今はご主人の瞳を一点に見ていますから】


 と、直感などではない、しっかりとした理由まで伝えられた。ここまで言われたら信じる他ない。慧は迷いを断ち、


「分かりました。嘘はつきません」


 と誓った。


「フッ。ありがとう。君ならそう言ってくれると思ってたよ」


 大河は表情を緩めて感謝すると、言葉を続ける。


「それじゃあ、さっきの話の続きをしよう。ストレートに聞くが、あの日輝虎が泊ったのは君の家だったんだな?」

「はい」

「……。その上で改めて聞くが、君と輝虎の関係は?」

「メシ友なのは、まぁ、本当です。でもゲー友では――」

「待て待て。聞き方が悪かった。君と輝虎は、その、付き合ってるのか?」

「い、いえ! そういう関係ではありません!」

「そうか。付き合ってないのか……」


 直接そう言ったわけではないが、大河のその反応は間違いなく、読みが外れた。と言っていた。


「はい。俺と先輩はただの友だちです」

「そうだったのか……。いやでも、俺は君に賭けると決めた」

「か、賭ける? 何の話ですか?」

「輝虎の話だ。君ならアイツの仮面を、道化の仮面を外せるかもしれない」

「ど、道化の、仮面……?」


 聞き返す慧に大河は力強く頷き、鋭い眼差しで慧を見つめる。これは一体何の話をしているのか、これから一体どんな話をしようというのか全く分からないが、対面に座る大河の真剣さを見るに、恐らく凄く大事な話が始まろうとしているということは分かった。

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