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呪いの姫君が振り向かない  作者: 蛙酒夏海
第一章 夜の国編

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第27話 人間と月姫 前編

夜の国。

荊の城から少し離れた森の中。

夜の空へと高く伸びる塔は、月の塔と呼ばれていた。



 ここに始めてきたのはルナと最初に会ったときだ。

 あらためて塔の扉を前にすると、その異様な雰囲気に呑まれそうになる。

 『月の塔』ここに妖王カルミラを蝕む最後の呪いがある。



「ここから先はついていってあげられないんだ」



 そう言いながら、とても悲しそうな眼で、今にも泣き出しそうにルナが言う。


「だーいじょうぶ。任せておきなって。これでも随分戦えるようになったんだよ? この前のネズミみたいにちょちょいのちょいだよ」


 暗い顔をするルナのために、精一杯明るく答えてみる。


「カルミラ様のために、みんなのために、本当にありがとう。最後まで一緒に居れなくて本当にごめんね」

「任せとけって。じゃあ行ってくる」

 

 不安だけじゃない。

 きっと話すことのできない様々な思いを抱えているであろうルナに、できるだけ自然に見えるよう笑って見せた。


 よし、やることは決まっている。準備もしてきた。

 

 木でできた大きな扉を押すと、きしんだ音を響かせながら、ゆっくりと開いていく。

 

 中に足を踏み入れ、一歩ずつ進んでいく。

 途中でルナに声をかけられるかと、いつでも振り向くつもりでいたが、呼び止められることはなかった。


 塔の中は広く、吹き抜けになっていて、壁沿いにらせん状の階段が続いていた。

 しばらく昇った階段の最後には、大きな扉があった。

 ずっと開く者が現れなかったのだろう。

 青白く光る苔が、まるで門を守るように根を張っていた。

 

 苔を引き裂きくように扉を開くと、そこは大きな広間だった。

 天井と壁の半分以上は崩れていて、夜の国の大きな月が無遠慮に部屋中を照らしている。



 その月明かりが満たす部屋の中央に、彼女はいた。


 

 足まで伸びる綺麗な黒い髪を風に揺らし、緊張を誤魔化すように身の丈ほどある大太刀を小さく撫でている。


 意識してこちらを見ないようにしていた彼女は、意を決したように小さく息を吸い込み、こちらを睨んだ。



「こんばんは。私は第七寵姫・月姫サクヤ。 妖王カルミラを蝕む呪いは私のもの。 残念だけどあなたとはここでお別れね。 人間さん」



 ルナによく似たその人は、魅惚れてしまうような動きで刀を抜きながら、ゆっくりと歩き出した。



 彼女の声は微かに震えていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


第七寵姫 月姫サクヤ


彼には、本当に申し訳ないことをしたと思う。

わたしの目の前で震えながら剣を握る彼。

もしかしたら途中から気づいていたのかもしれない。


彼には何度も嘘をついてしまった。

話さなきゃいけないことも、話せていない。

自分が辛さから逃げるために利用してしまった。

守れない約束をして、きっと彼を傷つけてしまった。

私を殺して欲しいなんて言えなかった。


森で出会えたときは、とても頼りなかったけど、会えてうれしかった。


私の話を聞いてくれて。

カルミラ様のことを考えてくれて。

他の妖魔たちにも、ひとりひとり向き合ってくれて。

一緒に謝ってくれるって約束してくれて。


知ってるんだよ?

あなたがカルミラ様の呪いを解いてくれるって決めたのは、私や他の妖魔たちのためだって。

仲良くなったみんなが悲しんでいるなら、苦しんでいるなら役に立ちたいって考えてくれたんでしょ。


本当に、ありがとう。


ずっと謝らなきゃいけなかった。


本当のことを話せなくて、ごめんなさい。

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