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呪いの姫君が振り向かない  作者: 蛙酒夏海
第一章 夜の国編

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第25話 人間と火鼠

3つ目の呪い媒介。

火鼠の祠。

それは荊の城の北にある。

吊り橋を渡り、崖を越えた先にあるそれは、岩肌をくり抜き作られている。

入り口にはいくつもの朽ちた柱がならんでおり、過去には別のなにかが建っていただろうことがわかる。





 火鼠の祠の近くまでくると魔獣の姿は見なくなった。

 

 そして魔獣の姿が少なくなるにつれて、月の妖精ルナの表情も暗くなっていく。


「ここが3つ目の呪いの触媒がある祠だよ………」

「よーし!じゃあガツンと一発で倒してきてやるよ!」


 明るくなるように、わざと大げさに振る舞ってみせる。

 だけどルナの表情が晴れることはなかった。


「あのね、私、本当は…」


 ルナはなにかを言いかけて、そのまま押し黙ってしまう。

 

 気まずい空気。

 どうしたの? と深追いして聞くことが、正解なのかもわからない。

 ルナがギュッと握りしめている服の裾に視線を置くしかない。


 きっと五分も経っていないだろう。

 そんな永遠に感じる沈黙を破る。


「行ってくるよ。帰ってきたら、またサンドウィッチを食べよ」


 努めて明るく、笑顔で言葉を作る。

 短く「うん…」とだけ返してくれたルナを背に、祠へと向かうことにした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 祠の中には生臭い匂いが充満していた。

 歩くたび、土ではない粘度の高いナニカが靴底についてくる感覚。

 枝のような白い棒がいたるところに投げ捨てられている。

 

 魔獣たちの死骸だ。


 食い散らかされ、そこら中に放置された骨や肉。

 それに集る虫。

 腐った部分からこみ上がる匂い。


 この様子だけで、ここにいるモノが碌でもないと理解できる。 


 さらに奥へ進むと、ソレを視界に捉えた。


 熊。

 いや、頭と耳の形でいうと大きな鼠だ。

 それもそうとうデカい。

 2mはゆうに超えるだろう巨大な身体に、背中は赤々と燃えている。

 携える爪はまるで巨大なナイフのように鋭く、大きな前歯は別の魔物の頭蓋骨をかみ砕き、中から脳髄を啜っているところだった。

 

 あれが三番目の呪いの触媒、火鼠だろう。

 前情報はルナに聞いている。

 背中の炎の中に、核のようなものが煌めいているのが見える。


 剣を抜き、ゆっくりと構える。


 そしてワザと大きな音がなるように、足を地面に擦りつけた。


 火鼠は驚くでもなく、その大きな耳をパタつかせ、ゆっくりとこちらに顔を向けた。


 火鼠の真っ黒に染まる目がコチラを捉えた時、まるで次の獲物を見つけたかのように叫び声を上げ、嬉しそうに駆けだした。



「なんでだろう。今回は楽勝な気がするんだよな…」



 油断をするつもりはない。

 

 ルナとの特訓の成果が出て、魔物に慣れてきたのか。

 センジとの剣の修行で、剣の扱いに慣れたのか。

 ジョセフ老人に教わってきた魔法に自信がついたのか。

 ハーラルとの殴り合いで度胸がついたのか。

 ジャネットや多くの妖魔が稽古をつけてくれたおかげか。


 その全部か。


 ジョセフ老人に教わった魔力操作を意識し、ルナに教わった通り身体と剣に魔力を纏わせる。

 センジに教わった通りの構えをとり、ハーラルとの殴り合いのときのように、臆さず、相手をまっすぐ見据える。

 向かってくる火鼠がジャネットや他の妖魔たちよりも強いとは感じない。


 火鼠が、背中に纏う炎の火力を上げ、その爪と大きな前歯が熱で揺れて見えるほどの温度となる。

 まるでアクセルを踏み込んだ自動車のような速度から、さらに後ろ足を蹴り出し、こちらへ飛びかかった。


 まるでスローモーションに見える一連の流れの中で、まず火鼠の首元に一太刀を入れる。

 纏わせた魔力のおかげか、剣は固い毛皮をものともせずにスッと入る。

 剣に遅れて流れる血を置き去りにし、二太刀目は縦に構えた。

 火鼠の大きな顎の下から腹にかけて、縦に真っ直ぐ振り下ろす。

 感触から、刃が内臓へ深く届いたことを確信できる。

 二撃目の振り下ろしと同時に前へ踏み出し、倒れてくる火鼠の巨体を躱す。

 油断せずに距離を取り、遠距離からの土魔法を準備した。


 しかし、しばらくもがいていた火鼠はやがて動かなくなり、二度と立ち上がることは無かった。


「これであとひとつ」


 消えていく火鼠の背中の炎。

 その炎に隠れていた核を、剣で貫いた。


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