第20話 人間と二つ目の呪いの触媒
太陽の昇らない永久の夜空。
輝く星は瞬き続ける。
月の光は絶え間なく注ぎ、深い眠りを包み込む。
死の荊に捕らわれ、覚めることのない夢を見続ける妖魔の王。
その呪いの棘は、彼女の喉元に深く食い込んでいる。
そんな夜の国、西の森の奥深く。
暗い樹海がさらに深く、渦を巻くように絡み合う。
枝枝をかき分けさらに進むと、地面にぽっかりと空いた大きな穴を見つけることができた。
ここが2番目の呪いの依り代がある場所だ。
「ここから先は私もついていって上げられないんだ」
申し訳なさそうに言うのは、月の妖精ルナである。
前回、呪いの地へついてきてくれたのはジョセフ老人であったが、今回はルナについてきてもらった。
というよりジョセフ老人は心配している様子であったが、なによりルナがついてきたがった。
「大船に乗ったつもりで待っててよ」
浮かない表情を変えられずにいるルナに、不安を隠し精一杯に作った笑顔を向けてみる。
「うん……無茶しないでね」
不安げなルナを入り口へ残し、樹海に開いた大きな穴へと降りていく。
中は洞窟のようになっており、斜め下へと急な傾斜をつけながら道が伸びていく。
洞窟の奥に進むにつれて、見える景色が変わっていった。
ゴツゴツした岩と土。それにいつしか植物の根が混ざっていく。
進むごとに増えていく植物の根が、次第に太く、多くなる。
いつしか植物の根の中を歩いていることに気づいたとき、開けた場所に出た。
まるで胃袋の中にいるかのような感覚。
体育館ほどの広さの空間に所々、天井から木の根が降りてきている。
なぜか明るいこの空間の中央には、丸い宝石のような玉が木の根に守られるように存在した。
その宝玉の中に浮かんだ瞳と目が合ったとき、第二の呪いの依り代との戦いが始まった。
予想通り、人ほどの太さのある植物の根が全方位から攻撃を仕掛けてくる。
ある根は鞭のようにしなり、ある根は槍のように背後から突いてくる。
ある根は縄のようにこちらを捉えようとし、また別の根は複数の根を束ねて押し殺そうとしてきた。
だけど見える。
ルナやジョセフ老人との特訓の成果が出ている。
自分でも自分が信じられないほどに動けている。
背後からの攻撃も、感じられる。
避けれない攻撃はない。
邪魔な根は剣で打ち落とすことができている。
しかし――……
攻撃手段がない。
おそらく、この空間の中央に座している瞳の浮いた宝玉が核なのだろう。
剣で攻撃しようと近付けば、物量で押し切られる。
火の魔法も考えたが、この空間には燃えるものが多すぎる。
根を燃やせば、この空間に張り巡らされた根に炎が燃え広がり、自分を巻き込んで簡単に心中できてしまいそうだ。
前回の石鎧の騎士と同じく、持久戦はこちらに分があるとは思えない。
――……相手を見て、自分が選択できる勝ち筋をイメージする。
中央の核であろう瞳の浮いた宝玉から少し距離を取る。
植物の根からの攻撃が、一瞬落ち着いたタイミングを見計らい、呼吸を落ち着かせる。
ジョセフ老人から習っていた新しい魔法に集中する。
「魔法を放つんじゃなく、身体に巡らせるイメージ…」
呟きながら集中し、運動能力を向上させる魔法を練り上げる。
「【身体強化魔法】」
全身に力が満ちていく感覚が溢れる。
今なら風より速く動け、どんなに重いものでも持ち上げられそうだ。
だが瞳の浮いた宝玉もコチラの変化に気づいたようだ。
植物の根による攻撃を再開する。
馬鹿正直に、真っ直ぐには核へ向かわない。
多少速く動けたとしても、それでは結果は変わらないだろう。
激しくなった猛攻を避け、打ち落としつつ部屋をぐるりと一周回るように動く。
足に込めた魔力を各所に残すように。
部屋を回りきった後、さらに要所要所に魔力のポイントを打ち込んでいく。
端から見たら下手なダンスを踊っているように見えただろう。
でもそれでいい。
これこそ月の妖精ルナにならった必殺技の準備なのである。
身体強化の魔法を使い、さらに魔力を垂れ流すように動いているため、限界が近いことを感じる。
瞳の浮いた宝玉からの攻撃も激しさを増していく。
全方向からの猛攻を受けきることが難しくなり、体中に傷が増えていく、それでも最後のポイントに魔力を打ち込んだ。
「金色神楽――【冷たい夜の想い】」
植物の根が張り巡らされていた空間が、一気に凍り付く。
空気の中に水分がなくなる感覚。
吐く息に白が混ざり、肌がピリついていく。
「ちょっとやりすぎたかな…」
足下から霜を踏む感覚が伝わってくる。
凍り付き、霜だらけになって景色に白い色が増えた。
もう攻撃のために素早く動く根もない。
守るものの無くなった核、瞳が中に浮いている宝玉の前に立った。
「これで二つ目だ」
残った身体強化の魔法を使い切るように、全力で剣を振り下ろし、核を真っ二つにたたき割った。




