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この月が綺麗だって君に伝えたかったんだ  作者: 蛙酒夏海
第一章 夜の国編

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第19話 人間と人魚姫 後編

岩の巨人は怒りを感じていた。

夜の国の森の奥深く、月明かりが心地よく照らす場所で、楽しんでいた静かな眠りを邪魔されたのだ。


邪魔をしたのは幼い人魚とその従魔の犬。


あろうことか眠っていた岩の巨人の上で、従魔の犬に粗相をさせたのだ。


怒りのあまり、この国の絶対的強者である妖魔であったとしても許すことができず、我を失い手を振り上げてしまった。


そうして逃げ惑う人魚姫は、岩の巨人の攻撃に気を失ってしまう。

首尾良く人魚姫を捕まえた岩の巨人であったが、白い犬の獣魔がつれてきた妖魔の騎士団に見つかり、現在に至る――……





 妖魔の狩人のロンたちが、岩の巨人の肩に乗っている人魚姫のローラに攻撃が当たらぬよう注意を引くような攻撃を続けている。


 自分から見れば必殺に近い攻撃に見えるが、威力を殺した絶妙なものなのだろう。


 岩の巨人の意識は、完全にロンたちに向いている。


 それなら自分がやるべきは、岩の巨人に気づかれぬよう人魚姫メルジーナを助けることだ。


 巨人の背後、少し離れた場所に着地する。

 同時に妖魔の二人と目が合った。


「ギース!!」

「分かってる!」


 妖魔の狩人ロンが、ギースと呼んだ相方である別の妖魔へと合図を出した。

 おそらくこの一瞬でコチラの意図を汲み取ってくれたのだろう。

 岩の巨人の気を引いてくれることに期待し、自分の役割に集中しよう。


 ロンが4本の矢を番え、足に集中させた魔力を爆発させるように空高く飛び上がる。

 

 ロンの動きに気を取られた岩の巨人が上を向いた隙に、もう一人の妖魔の狩人が先程と同じように離れた場所から剣を振るった。

 ただ今度は風が巻き起こるのではなく、剣線の延長から巨人の足下までが凍り付いていった。


 そして凍り付いた足を縫うように、ロンが空中から放った矢が突き刺さっていく。


 それでも岩の巨人の動きが止まったのは、ほんの僅かな時間だけ。

 まるでダメージなど感じていないかのように、地面に凍り付いた足を動かそうとしている。


 チャンスは今しかない。


 そう思い、気を取られている岩の巨人の背中を駆け上った。


 巨人の肩口で眠るように気を失っている人魚姫ローラを見つけると、抱きかかえ、素早く距離を取った。


 岩の巨人から飛び降りた時に、体勢を少し崩したが、白い犬のポポが着地点に待ち構えてくれており、支えてくれる。


 ホッとしたのも束の間、仇を取られたことに気がついた岩の巨人が、氷で封じられていたはずの足を無理矢理こちらに向け、仁王立ちしていた。


 人魚を抱いていなかったとしても勝ち目などない。

 すぐに逃げなky――……


「龍の矢――……逆爪」

「狼王流――……柳」


 岩の巨人から逃げようと考えた、まさにそのときだった。

 妖魔の狩人2人の必殺の一撃が、まばゆい光とともに放たれ、岩の巨人だった石の破片が吹き飛んでいった。


「これは確かに、人質を捕られていたら放てないかぁ……」


 あまりの威力に呆然としていると、二人が近付いてきた。


「君か!助かったよメルジーナ様が捕まっているのを見つけたはいいけど、ゴーレムが暴れて中々助けられなくてね」

「いえ、たまたま近くにいたので」


 謙遜してみせると、ロンは隣にいたもう一人の狩人妖魔に目配せをした。


「ほら彼が前に話したジョセフ様のところの人間さ」

「ああ…コイツが例の…」


 上から下まで舐めるように睨んできたのは、ロンと一緒にいた、剣を振るっていたもう一人の狩人妖魔だ。

 後ろに束ねた長髪が似合う、目つきの悪いイケメン。

 妖魔はなんでこんなに美形が多いんだ。

 嫉妬するのに忙しくて困る。


 しかも先程の攻防を見るに、実力は折り紙付きである。


「こっちはギース。僕と同じ騎士団の所属でよく一緒に森で魔物の間引きをしているんだ」

「はじめまして」

「………ああ、岩の巨人アイツは堅くてな。 一撃で仕留めるのが定石なんだが……とにかく助かった」


 妖魔からの冷たい対応には慣れている。

 でもこのギースという妖魔はとてもクールな様子だが、冷たいわけではないようだ。

 目つきの悪さで損をするタイプだな。きっと。


「それより…」


 ロンが地面に横たわる人魚を、哀れむような目で見る。

 白い大きな犬のポポが、困った顔で人魚の顔を舐めながら、必死で起こそうとしている。


「うぬぅ……もう食べられないのじゃぁ」


 人魚姫(コイツ)はもう駄目かもしれない。

 幸せそうに気を失っている人魚姫に、その場いる3人から冷たい目線が注がれた。


「め、メルジーナさま…」


 居たたまれなくなったロンが、優しく人魚姫メルジーナを起こす。


「はっ!…ここはどこじゃ!」


 涎の跡がついた顔を歪ませながらメルジーナが起き上がった。


「おお! お前はいつぞやの人間! ちょうど良いところに! お主に会いに来たのじゃ」


 笑顔のメルジーナが、肩にかけていたポーチから何やらゴソゴソと取り出している。


「今日はこの間の礼がしたくての! これを持ってきたのじゃ!」

「これは……?」

「これは女神貝のネックレスだね」


 メルジーナから手渡された、小さな二枚貝のついたネックレスを不思議そうに見つめていると、ロンが解説をしてくれる。


「女神貝?」

「これはどんなものでも、ひとつだけ、そして一度だけ、そのままの状態でこの貝の中に保存しておけるという道具さ」


 つまり時間を無視できる収納アイテムだ。

 ファンタジーでよく聞くお決まりのアイテムだな。

 ただし使える回数が一度で、収納できるものも一つだけ。

 使い勝手が良いとは言い切れない。

 使いどころが難しいな。


 でもこの世界にきて始めて女の子から貰ったお礼の品。

 嬉しい限りだ。


「ありがとうメルジーナ。 大切にするよ」

「うぬ!」


 満面の笑みを返してくれるメルジーナ。

 恐らくこの後に、母親人魚のローレルからハゲ散らかすほどの説教をくらうのだろう。

 だが楽しそうな彼女に、今は余計なことを言わず、そっとしておくことにしよう。


次回はまた短めの間話を予定しています。

17時に更新予定です。

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