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この月が綺麗だって君に伝えたかったんだ  作者: 蛙酒夏海
第一章 夜の国編

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間話 第四寵姫 叫姫マヤ

 ヒトが暮らす大地よりも広く、深く、壮大な海の中を、自由に生きる水妖。

 美しく、自由と音楽を愛した彼らは、欲深いヒトと関わることを避け、深い海の底で暮らしていた。


 あるとき、水妖の王の元に海風のように自由な娘が生まれる。

 波の精霊の名をつけられた王女は、父に、家族に、民に愛された。


 奔放な彼女にとって、いつも通りの悪戯のつもりだった。

 いつも通りほんの少し波を動かし、船乗りをからかってやっただけ。

 いつもと違ったのは、その悪戯に本気で笑ってくれた男がいたこと。


 彼女はその笑顔に夢中になった。

 気持ちの名前はまだ知らない。

 またその笑顔を見たくて、悪戯を続けた。

 男はいつも笑って手を振ってくれた。


 その日、多くを奪った波は自分の悪戯ではなかった。

 でも人間達はそう思わない。

 男の笑顔を見ることはできなくなった。


 あの笑顔をもう一度見たくて、彼女は待った。

 時間が経てば理解ってくれると、気持ちもきっと落ち着くと。


 妖魔と人間に流れる時間は違った。

 次に男を見たのは、男が棺に入れられ、丘の上の墓へと運ばれていくときだった。

 

 最後に一目見ることも、思いを伝えることも叶わなかった。

 

 海の見える崖の上に立てられた墓、彼女はそこで思いを叫ぶように歌い続けた。

 涙が涸れて、声が枯れた。

 それでも歌うことをやめなかった。

 この気持ちの名前も、まだ分からなかった。


 魔性の歌を歌い続ける妖魔。

 それを恐れた人々が、彼女の胸に槍を刺したとき、歌は止んだ。



 目が覚めて、金色の瞳が彼女を優しく抱きかかえたとき、すべてを許された気がした。


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