第13話 人間と棺の部屋
アンディに連れられて、あらためて荊の城の城内へとやってきた。今はいくつかの廊下と階段を進み、大きな扉の前まで来ている。
荊の城の城内には何度も入ったコトがあったが、城は大きく広い。立ち入ったことのない場所などいくらでもある。
下手に探検などしようものなら、迷って二度と出てこれなくなりそうな程だ。
ここに来るまでに扉がいくつもあり、細かな装飾や絵画を始めとする素人目にも価値のある美術品が数多く飾られていた。
「さあ、ここだよ」
アンディがそう言いながら扉を押すと、扉は淡く軋んだ音を響かせながら開かれていった。
扉の奥は広間になっていた。
まず目についたのは人の背丈を遙かに超える巨大な宝石だ。
透明で、それでいて時折月の光のように青く光る大きな宝石。
ソレが部屋の中央に置かれている。
そして部屋中に広がる、巨大な荊の根。
それも普通の植物の根じゃない。
真っ黒な荊の根だ。根には無数の棘がついており、広間のアチラコチラに食い込んでいる。
さらに中央の宝石を取り巻くように6つの棺が部屋に並べられており、そのすべての棺と、中央の宝石に黒い荊が巻き付いていた。
「アンドリューか」
部屋の中の光景に意識を取られていると、声がして、ハッと横に振り向く。
そこにいたのは、ジョセフ老人とともにオレをこの世界に呼んだ妖魔の騎士、ノアだった。
「ああ、ノアもいたの?たまにはカルミラ様にお目通りしておこうかと思ってね」
ノアの登場に臆することなく、アンディは軽く話し始める。
ノアもコチラの様子を気にするそぶりも見せない。
でもなんだろう、ノアはいつも通り眼帯で目を隠しているハズなのに、しっかり見られている感覚がある。
「ほらあそこにいるのが、我らが妖魔の主、カルミラ様だよ」
ノアのことは気にも留めず、アンディは促すようにそう言いった。
そんな彼の目線を追うと、部屋に入ったときに真っ先に目に入った巨大な宝石の中に人影を見つけた。
その部屋の中央にある巨大で透明な宝石は、ここまで大きいともはや石ではなく岩だ。
その宝石の中に、ひとりの女性が眠るように佇んでいた。
それはとても美しい人だった。
恐ろしいほどに綺麗だった。その他の言葉は浮かばなかった。透明で、それでいて自ら光を放つような宝石の中にしっかりとその女性の姿を、存在を捉えることができる。
金色の長い髪。真っ赤な唇。優しく触れても跡が残ってしまいそうな白く美しい肌。
赤く繊細に作られているドレスを身に纏い、優しく目を瞑っている。
きっとその瞳はもっと綺麗だろう。その声は心を震わせるほど美しいだろう。そう想像することは簡単だった。
しばらく見惚れていると、アンディが言葉をかけてくる。
「この御方がカルミラ様だよ。我らが妖魔の王。今は見ての通り、呪いによって眠ってしまっているけどね」
アンディの声がとても寂しい声色へと変わっていく。
「そしてカルミラ様の回りにある六つの棺。あの中には6人の寵姫様たちが眠ってるんだ。寵姫様たちはカルミラ様の呪いの進行を止めるために、呪いの一部を引き受けてる」
アンディはそう言いながら、カルミラとその周囲に並ぶ棺に対して、膝をつき、恭しく頭を下げた。
「この方達の呪いを解くことが妖魔たちの悲願。それは間違いないのさ。カルミラ様のことも、寵姫様のこともみんな大好きだからね」
最初、妖魔の王なんていうくらいだから、ゴリゴリに強そうな悪魔みたいな男の人を想像していた。
こんなに綺麗な女性だったなんて。
ふと気づくと、妖王カルミラが中にいる宝石や6つの棺の前に、花や食べ物、装飾品など、ほかにも様々なものが供えられていることに気がついた。
たしかにここに眠っているカルミラと6人はとても愛されているのだろう。
――……あれ?6人分の棺?確かどこかで聞いたとき、寵姫の人数は……
「アンディさん、たしか寵姫様って7人いたんじゃないんでしたっけ?」
この言葉にアンディがピクリと反応した。
「よく知ってるね。実はそこがポイントなんだよね……」
言いにくそうにするアンディに、マズいことを聞いたか?と逡巡したとき、回答を引き取ったのは、先にこの部屋に来ていた妖魔の騎士ノアであった。
「妖王カルミラ様を呪ったのは、7番目の寵姫様なのだ」




