第11話 人間と妖魔の主
『妖王カルミラってどんな人?』
庭師センジの場合
「カルミラ様について教えて欲しい?」
突然の問いに、センジは少しだけ考える様子を見せると、自分がいつも手入れをしている庭園を振り返った。
「この庭園をどう思う?」
センジに問われ、あらためて庭園を眺めてみる。
様々な花や樹木が丁寧に手入れされ、月の明かりに照らされ、輝いている。でもきっとそれだけじゃない。
「とても綺麗だと思います。でもそれ以上にセンジさんに愛されているのが伝わってきます」
その答えに満足したのか、センジは表情を変えることなく言った。
「カルミラ様も同じだ。とても美しくチカラのあるお方だ。この国に住む者は皆、なにかしらカルミラ様に助けられている。だがそれとは関係なく愛されいる人、だな」
じゃあなんで?と聞いて良いものかわからず、黙っていると、それを察したのかセンジは言葉を続ける。
「今のお前の迷いのすべてに答えてやることは難しい。答えればお前の迷いを大きくするだけだからだ。 しかし……」
すこし間を置いたあと、センジはさらに続けた。
「あの方は深い愛をもって呪いを受けたんだ」
それはつまり、呪ってきた相手も愛していたということ?
余計にワケが分からなくなってきた。
女中ユニの場合
「カルミラ様について…ですか?」
いつものように怪訝な顔を向けてきたユニだったが、それでもこちらの様子に何か察したのか、ふと考え始める。
「とても素晴らしい方です。この国の妖魔で…いえ、今この国にいない妖魔も含めて、そのほとんどがカルミラ様を慕っているはずです」
やはり同じような答えが返ってくる。でもそれは求めている答えじゃない。
もう単刀直入に聞いてしまおうかと考えていると、ユニは続けた。
「私は以前、アナタ様に呪いを解くことに賛成でないとお話しました。ですが勘違いしないでください。カルミラ様を助けることは私の悲願です」
睨むように強く。泣いているように見えてしまうほど悲し気に、ユニの語気は不安定だった。
「でもどうかお願いです。呪いを解かないでください」
まっすぐこちらを見つめるユニの目に、なにも言い返せなくなってしまった。
宮廷音楽家ニコロの場合
「カルミラ様の素晴らしいところを教えろだって?」
ニコロはそう聞き返すと、フンッと鼻を鳴らし、前髪を一撫でした。
「まずは音楽を含め芸術の素晴らしさのなんたるかをご存じなところだな。それでいてアーティストへの敬意も持ち合わせている。さらに素晴らしいのはご自身がひとつの芸術作品として完成していることであって…」
楽しそうに話し出したニコロは得意気にカルミラについて語っていく。
10分程、カルミラについて思う存分話したニコロはふと一呼吸置き、月を眺めた。
「詰まるところ、カルミラ様の素晴らしさは愛なんだ。あの方はすべてを愛し、すべてから愛される。だからそばに仕えるだけで幸せになれるのさ」
「じゃあなんで…」とあまりに長い自慢話に、思わずツッコミを入れてしまうと、ニコロはキザったらしい視線をコチラへ戻した。
「愛はいつだって不完全なのさ。不完全だからお互いを求め、愛し合う。そして傷つけてしまうのだろ?」
よく分からない言葉で煙に巻かれてしまった。
宮廷魔術師ジョセフの場合
「……ひとつ使いを頼まれてくれんかの」
最後にジョセフ老人に、妖王カルミラについて尋ねてみることにした。
ただ中々、話しを切り出すことができず、霊薬の実験を繰り返しているジョセフ老人を見つめていると、お使いを頼まれてしまったのだ。
こちらの気持ちを知ってか知らずか、ジョセフ老人は多くを語らずに、メモを渡してきた。
これを城にいるアンディという妖魔へ渡して、そこに書かれている道具を預かってきて欲しい。と一言だけ残し、自分の研究に戻っていってしまった。
荊の城へ向かう途中、森が視界に入って離れなかった。
泣かせてしまった月の妖精ルナのいる森が、月明かりでいつもよりも輝いて見えた。




