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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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96:兵站差

 軍格差。


 雪が降っていた。


 白い息。


 凍った街道。


 北方国境線。


 かつては毎年のように兵士が死んだ土地だ。


 飢え。


 凍傷。


 病。


 補給切れ。


 戦う前に軍が壊れる。


 それが冬だった。


 だが。


 今年。


 クルザード都市国家の軍は違った。


 街道を巨大な鉄輪が進む。


 物流ゴーレム。


 荷台。


 密閉式。


 保温術式。


 中には湯気の立つ鍋。


 保存食。


 薬。


 交換用武具。


 全部積まれている。


 兵士達が笑っていた。


「温けぇ……」


「まだ飯が熱いぞ」


「意味分からん……」


 肉味噌鍋。


 湯気。


 味噌の香り。


 焼きたてパン。


 燻製肉。


 冬の戦場とは思えない。


 兵站。


 補給。


 それが軍を変えていた。


 前線拠点。


 石壁。


 防壁。


 魔導暖炉。


 風除け。


 清潔な寝床。


 そこに他国の将校達が来ていた。


 視察。


 表向きは同盟確認。


 本音は偵察。


 しかし。


 全員が絶句していた。


「……なんだこれは」


 老将が呟く。


「前線基地だぞ……?」


 普通の軍なら。


 泥。


 腐臭。


 血。


 寒さ。


 飢え。


 それが当たり前。


 だがここは違う。


 スープの匂いがする。


 パンが焼かれている。


 子供まで働いている。


 洗濯場。


 浴場。


 医療所。


 補給庫。


 全部整っている。


 しかも。


 機能している。


 マチルダが資料を広げる。


「補給循環率九三%」


「損耗率は従来国家比三割以下」


「冬季病死率は十分の一以下」


 老将が眉をひそめる。


「馬鹿な……」


「そんな数字、存在するわけが……」


 クルザードは静かに答えた。


「飯を食わせてるだけだ」


 それだけだった。


 でも。


 それが一番難しい。


 兵士は。


 剣だけでは戦えない。


 腹。


 睡眠。


 衛生。


 安心。


 全部必要。


 なのに。


 他国は軽視していた。


 なぜなら。


 貴族は前線で寝ないからだ。


 クルザードは違う。


 全部見ていた。


 全部数値化していた。


 だから改善できた。


 演習場。


 兵士達が動いている。


 連携。


 速い。


 無駄がない。


 さらに。


 疲れていない。


 そこが異常だった。


 他国の兵士は冬で消耗する。


 寒さで鈍る。


 腹が減る。


 病気になる。


 でもクルザード軍は違う。


 食っている。


 寝ている。


 治療される。


 だから動ける。


 ステファンが拳を打ち込む。


 木人形が砕けた。


 兵士達が歓声を上げる。


「すげぇ……」


「元傭兵なのに教官になってる……」


 そこだった。


 この国では。


 才能が死なない。


 だから人材が集まる。


 兵士も強くなる。


 ガルドが武具倉庫を開ける。


 整列。


 剣。


 槍。


 盾。


 全部手入れ済み。


「錆びてねぇ……」


 視察貴族が青ざめた。


 普通。


 軍の武器は劣化する。


 補給が追いつかない。


 整備できない。


 でもここは違う。


 職人街。


 物流。


 管理。


 全部繋がっている。


 だから壊れない。


「化け物か……」


 誰かが呟いた。


 クルザードは否定しない。


 代わりに言う。


「兵站を軽視する国は滅びる」


 静かな声だった。


「戦争は前線で勝つんじゃない」


「後方で決まる」


 その瞬間。


 老将が理解した。


 この男は。


 軍を“戦場”で見ていない。


 国家で見ている。


 農地。


 物流。


 教育。


 鍛冶。


 医療。


 全部が軍事。


 だから強い。


 別室。


 食堂。


 他国将校達が昼食を食べていた。


 シチュー。


 焼きパン。


 燻製肉。


 野菜。


 酒。


 温かい。


 うますぎる。


「……前線飯じゃない」


「王都の上級料理店レベルだぞ」


 しかも。


 兵卒まで同じものを食っている。


 そこが恐ろしい。


 他国ではあり得ない。


 兵は使い捨て。


 死ぬ前提。


 だがクルザード軍は違う。


 兵を消耗品扱いしていない。


 だから練度が落ちない。


 ティグリスが笑った。


「逃げないからな」


「ここの兵」


「家族いるし」


「給料あるし」


「飯うまいし」


 単純だった。


 でも。


 それが強い。


 逃亡率。


 反乱率。


 病死率。


 全部低い。


 その数字が。


 国家格差だった。


 夜。


 雪。


 外壁上。


 エリザベスが見下ろしていた。


 遠く。


 他国軍の野営地。


 暗い。


 火が少ない。


 兵が震えている。


 補給不足。


 食料不足。


 酒で誤魔化している。


 そして。


 明日には何人か死ぬ。


「同じ冬なのにな」


 エリザベスが呟く。


 隣にクルザード。


「環境じゃない」


「構造だ」


 簡潔だった。


「寒いから死ぬんじゃない」


「準備してないから死ぬ」


 エリザベスが苦笑する。


「嫌になるくらい正論だ」


 クルザードは遠くを見る。


 他国。


 崩れ始めている。


 理由は単純。


 兵站を軽視した。


 兵を軽視した。


 人を軽視した。


 結果。


 全部崩れた。


 朝。


 他国将校団。


 帰還前。


 顔色が悪い。


 なぜなら理解した。


 勝てない。


 この国家に。


 戦力差じゃない。


 構造差。


 それが絶望的。


 一人の若い将校が絞り出す。


「なぜ……」


「なぜここまでできる……」


 クルザードは答える。


「繋げたからだ」


「全部」


 農業。


 物流。


 教育。


 鍛冶。


 医療。


 治安。


 兵站。


 全部別じゃない。


 国家として繋がる。


 だから強い。


 若い将校は言葉を失った。


 彼の国では。


 農民は搾取対象。


 兵士は消耗品。


 商人は利用するもの。


 職人は安く使うもの。


 だから全部弱い。


 クルザード国家は逆。


 全部を生かす。


 だから全部強い。


 帰還隊列。


 雪道。


 将校達は黙っていた。


 そして全員思っていた。


「この国と敵対したくない」


 それが答えだった。


 中央管理棟。


 ヴァレリアが報告書を見る。


「周辺国家」


「兵士流出加速」


「鍛冶師流出加速」


「農民流出加速」


 笑う。


「止まらないわね」


 マチルダが頷く。


「比較されたから」


「もう戻れない」


 そこだった。


 一度見てしまった。


 温かい飯。


 治療。


 風呂。


 給与。


 教育。


 安全。


 知ってしまえば。


 もう地獄には戻れない。


 夕方。


 街。


 子供達が走る。


 兵士が笑う。


 パンの香り。


 鍛冶の火花。


 商人の声。


 この国は。


 もうただの街じゃない。


 文明だった。


 そして。


 その文明の中心にあるのは。


 魔王のような力ではない。


 たった一つ。


「人を死なせない」


 その執念だった。


 クルザードは静かに鍋をかき混ぜる。


 肉。


 野菜。


 味噌。


 湯気。


 兵士達が列を作る。


 笑顔。


 安心。


 その光景を見ながら。


 彼は小さく呟いた。


「戦争は、腹で決まる」


 誰にも聞こえなかった。


 だが。


 その言葉こそ。


 この国家最強の軍略だった。







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