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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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88/104

88:比較

 格差露呈。


 春。


 街道は人で埋まり始めていた。


 南から商隊。


 北から避難民。


 東から流れ者。


 西から兵士。


 全部。


 クルザードの街へ向かう。


 理由は単純。


「生きられるから」


 それだけだった。


 朝。


 市場はいつものように湯気に包まれている。


 肉を焼く音。


 パン窯の熱。


 味噌スープの香り。


 魚を揚げる油音。


 人が笑う。


 値段を交渉する。


 子供が走る。


 誰かが転び。


 誰かが笑う。


 普通の光景。


 でも。


 他国から来た者には異常だった。


「……なんで肉が毎日あるんだ」


 痩せた男が呟く。


 元王国兵。


 鎧は傷だらけ。


 顔色悪い。


 家族連れ。


 娘は細い。


 妻は疲れ切っている。


 それでも。


 目の前。


 肉串。


 湯気。


 香り。


 現実感がない。


 屋台の獣人が笑った。


「食うか?」


「金は後でいい」


 男は固まった。


「……え?」


「腹減ってんだろ」


 娘が肉を見ていた。


 視線。


 離れない。


 獣人は串を渡した。


「熱いから気をつけろ」


 少女がかじる。


 肉汁。


 目が見開く。


 涙。


 母親も泣いた。


 男は俯く。


「……俺の国じゃ」


「冬に子供が死ぬ」


 獣人は肩をすくめる。


「ここじゃ減った」


「クルザードが変えた」


 市場の中央。


 物流板。


 本日の価格。


 小麦。


 肉。


 塩。


 薬草。


 全部管理されている。


 暴騰しない。


 つまり。


 飢えない。


 それだけで。


 国は安定する。


 ヴァレリアが数字を確認していた。


「北区の燻製在庫増やして」


「魚便が早すぎる」


「塩倉庫追加」


 商人達が即動く。


 速い。


 無駄がない。


 それを見た他国商人が呆然とした。


「……王都より動きが速い」


 さらに。


 道路。


 整備済み。


 馬車が沈まない。


 物流ゴーレムが荷を運ぶ。


 夜でも街灯。


 盗賊は即拘束。


 つまり。


 物流が止まらない。


 商人が逃げない。


 だから物が集まる。


 結果。


 価格安定。


 全部繋がっている。


 昼。


 医療院。


 行列。


 でも。


 絶望感がない。


 治るから。


 デニーゼが診察している。


「次」


「咳いつから?」


「三日前です……」


 薬。


 清潔な水。


 栄養。


 回復魔法。


 患者は治っていく。


 その横。


 他国から来た老婆が震えていた。


「……無料なのかい」


「安いだけ」


 デニーゼは答える。


「働けるなら働いて返して」


 老婆は泣いた。


 王国では。


 金が無ければ死ぬ。


 ここでは。


 生きられる。


 差。


 あまりにも。


 露骨だった。


 学校。


 子供達が計算している。


 獣人。


 人間。


 エルフ。


 全部混ざっている。


「二十七×四は?」


「百八!」


「正解!」


 他国貴族の従者が呟く。


「平民が計算してる……」


 恐怖だった。


 教育された平民。


 それは。


 既存国家から見れば脅威。


 でも。


 クルザード側は違う。


 教育された方が効率いい。


 それだけ。


 マチルダが黒板を書く。


「衛生」


「手を洗う理由」


「病気は広がる」


 子供達が真剣に聞く。


 つまり。


 次世代。


 既に強い。


 夕方。


 街外れ。


 新規流入者の居住区。


 建設中。


 土魔法。


 石魔法。


 建屋が組み上がる。


 速い。


 兵士達が動いている。


 元他国兵。


 今は建築班。


「柱固定!」


「水路ずらすな!」


 声が飛ぶ。


 統率。


 高い。


 理由。


 飯。


 給料。


 安全。


 全部ある。


 だから逃げない。


 そこへ。


 王国騎士団の一団が到着した。


 視察。


 名目上は。


 実態は確認。


 本当に噂通りか。


 隊長格の騎士が街を見る。


 沈黙。


「……なんだここは」


 兵士の目が死んでいない。


 民が怯えていない。


 道が綺麗。


 臭くない。


 子供が太っている。


 あり得ない。


 副官が呟く。


「王都より豊かです」


「馬鹿言うな」


「……ですが」


 言い返せない。


 現実。


 見えている。


 さらに。


 兵士達。


 街を見て動揺していた。


「……あれ元第二防衛隊だ」


「本当だ」


「なんでここに」


 元同僚。


 今。


 笑って働いている。


 顔色が良い。


 筋肉が戻っている。


 しかも。


 家族連れ。


 隊長は理解する。


 流出。


 止まらない。


 何故なら。


 比較してしまう。


 兵士寮。


 腐ったパン。


 遅配。


 暴力。


 対して。


 ここ。


 温かい飯。


 風呂。


 治療。


 給料。


 教育。


 比較した瞬間。


 終わる。


 夜。


 酒場。


 元兵士達が飲んでいた。


 酒。


 焼き魚。


 味噌鍋。


 笑い声。


 王国騎士達は別席で見ていた。


「お前ら戻らないのか」


 一人が聞いた。


 元兵士は笑う。


「戻る理由あるか?」


「……」


「娘が笑うんだぞ」


「戻れるかよ」


 誰も反論できない。


 さらに。


 劇場。


 夜なのに人がいる。


 娯楽がある。


 つまり。


 余裕がある。


 貧困国家には存在しない光景。


 騎士達は完全に理解した。


 この国。


 豊か。


 しかも。


 強い。


 理由は単純。


 人を消耗品として見ていない。


 その時。


 外。


 騒ぎ。


 盗賊。


 三人。


 逃走。


 一瞬。


 影が動いた。


「シャドウバインド」


 地面から影。


 拘束。


 転倒。


 終わり。


 住民は驚かない。


 日常。


 騎士達だけが固まった。


「……今のなんだ」


「防犯術式です」


 警備兵が普通に答える。


「街全域に張ってます」


 隊長は頭を抱えた。


 比較。


 全部負けている。


 治安。


 物流。


 食。


 医療。


 教育。


 給料。


 兵士待遇。


 娯楽。


 衛生。


 道路。


 水路。


 何も勝てない。


 王都。


 同時刻。


 貧民街。


 子供が凍えていた。


 パンは高騰。


 薬不足。


 盗賊増加。


 兵士逃亡。


 税増加。


 貴族は宴会。


 そして。


 人々は噂する。


「南へ行け」


「あそこなら生きられる」


「クルザードの街へ」


 流れ。


 止まらない。


 王国はまだ理解していない。


 戦争で負ける前に。


 国家は内部から崩れる。


 人が離れる。


 技術が離れる。


 兵士が離れる。


 商人が離れる。


 つまり。


 国の中身が抜ける。


 クルザードは戦争していない。


 侵略もしていない。


 でも。


 結果として。


 周囲を削っていた。


 深夜。


 クルザードは街を見ていた。


 街灯。


 笑い声。


 流れる水。


 湯気。


 生きている街。


 ティグリスが隣に立つ。


「増えたな」


「ああ」


「怖くないのか?」


 クルザードは少し考えた。


「問題は増える」


「でも人も増える」


「なら回る」


 単純。


 合理。


 ティグリスは笑った。


「お前らしい」


 遠く。


 また馬車が来る。


 避難民。


 商人。


 職人。


 兵士。


 全部。


 ここへ来る。


 比較してしまったから。


 もう戻れない。


 快適さを知った人間は。


 不自由へ戻れない。


 それが。


 最も静かで。


 最も恐ろしい。


 国家侵略だった。







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