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飯が美味すぎて、気づけば世界を支配していた。 ~無限魔力の料理人、物流と教育で最強国家を作る~  作者: 慈架太子


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80:クラーケン

海戦神回


夜の海は黒かった。


 月明かりすら飲み込む深い闇。


 クルザード艦隊は、その暗黒の海を進んでいた。


 大型輸送艦“白鯨”。


 護衛艦三隻。


 海亀型魔獣二体。


 積荷は大量。


 穀物。


 味噌。


 干物。


 燻製肉。


 薬品。


 鉄材。


 つまり。


 国家そのもの。


 海運が止まれば。


 都市が止まる。


 だから護衛は厳重だった。


 甲板。


 クルザードは海を見ている。


 風。


 潮。


 振動。


 全部を感じ取っていた。


 ティグリスが隣で鼻を鳴らす。


「静かすぎる」


「ああ」


 静かだった。


 波が変だ。


 鳥もいない。


 魚も跳ねない。


 海が死んでいる。


 エリザベスが剣の柄を握る。


「来るか」


「来る」


 短い返答。


 その瞬間だった。


 海面が隆起した。


 轟音。


 巨大な水柱。


 輸送艦が激しく揺れる。


「なっ!?」


「総員戦闘準備!!」


 見張りが叫ぶ。


 海面。


 黒い。


 巨大。


 ぬめる触腕。


 一本だけで船より太い。


 そして。


 目。


 海底みたいな色をした巨大な眼球。


 クラーケン。


 海域最悪級。


 災害指定海魔。


 港一つ潰せる化物。


 船員達の顔が青ざめる。


「おい……嘘だろ……」


「なんでこんな沿岸に……!」


 触腕が振り下ろされる。


 轟音。


 護衛艦一隻が半壊。


 木片が飛び散る。


 悲鳴。


 海へ落ちる船員。


 クラーケンが海を揺らした。


 ティグリスが牙を剥く。


「デカすぎる!」


 クルザードは即座に動いた。


「落ち着け」


 声が通る。


 一瞬で。


 全員の視線が彼に集まった。


 恐怖が止まる。


「パニックになるな」


「海に落ちた奴を優先回収」


「ベッティーナ、防御」


「ドロテア、視界阻害」


「アラン、触腕拘束準備」


「ティグリス、左舷迎撃」


「エリザベス、斬撃援護」


 命令が飛ぶ。


 迷いがない。


 それだけで。


 崩壊しかけた空気が立て直される。


 ベッティーナが盾を構える。


「アースウォール!」


 巨大土壁。


 海上に形成。


 触腕直撃。


 土壁粉砕。


 でも。


 時間は稼いだ。


 その間に。


 ドロテア。


「ミスト!」


 蒸気霧。


 視界遮断。


 クラーケンの巨大眼が揺れる。


 そこへ。


 エリザベス。


「斬ッ!!」


 飛ぶ斬撃。


 触腕切断。


 黒い血。


 海が染まる。


 でも。


 止まらない。


 再生。


 触腕が増える。


「再生型か!」


 マチルダが叫ぶ。


 クルザードは海を見る。


 鑑定。


 魔力流。


 再生核。


 位置。


 全部読む。


 頭の中へ情報が流れ込む。


 普通なら脳が焼ける量。


 でも。


 今のクルザードは違う。


 制御できる。


 理解できる。


「核は海中」


「本体深度四十」


「触腕は囮だ」


 ティグリスが笑う。


「面白くなってきた!」


 彼女が飛んだ。


 獣人脚力。


 船柵を蹴る。


 触腕へ突撃。


 爪。


 切断。


 血飛沫。


 さらに。


 クラーケンが海を暴れさせる。


 巨大渦。


 輸送艦が吸われる。


「まずい!」


 ヴァレリアの顔が青くなる。


 積荷。


 沈めば終わる。


 国家物流が止まる。


 クルザードは片手を海へ向けた。


「ウォーターバインド」


 海そのものが止まる。


 巨大水流拘束。


 渦が歪む。


 船の流れが変わる。


 船員達が絶句した。


「海を……止めた……?」


 まだ足りない。


 クラーケン本体は健在。


 その時。


 海面下。


 巨大影。


 来る。


「右舷衝撃!」


 轟音。


 船体が浮いた。


 木材悲鳴。


 白鯨が軋む。


 船員が吹き飛ぶ。


 クラーケン本体。


 巨大すぎた。


 島みたいだった。


 黒い肉塊。


 無数の目。


 海そのものみたいな質量。


 恐怖。


 本能が逃げろと言う。


 でも。


 クルザードは冷静だった。


「勝てる」


 断言。


 その声だけで。


 全員が動けた。


 理由は単純。


 今まで。


 この男は間違えなかった。


 アランが両手を突き出す。


「メタルチェイン!」


 輸送艦から射出。


 巨大鎖。


 触腕拘束。


 そこへ。


 ステファン。


「おおおおお!!」


 拳闘士。


 身体強化。


 海面を蹴る。


 常識外。


 クラーケン顔面へ拳叩き込む。


 衝撃。


 水が爆発した。


「効いてるぞ!」


 クルザードが剣を抜いた。


 静かだった。


 陽気な男。


 いつも飯を作る男。


 でも。


 戦場では違う。


 空気が変わる。


 彼は海面へ歩いた。


 水属性制御。


 海が足場になる。


 ティグリスが笑う。


「来たな」


「終わらせる」


 クルザードは海を見る。


 魔力循環。


 吸収。


 圧縮。


 蒸気。


 熱。


 水。


 全部混ぜる。


 危険。


 普通なら暴発。


 でも。


 今の彼は制御できる。


 手の中。


 白い球体。


 超圧縮蒸気。


 空間が歪む。


 周囲温度上昇。


 海水沸騰。


 船員達が息を呑む。


「なんだ……あれ……」


 クルザードが低く言った。


「スチームバレット・ブレイク」


 撃った。


 白閃。


 音が遅れて来る。


 超圧縮蒸気砲。


 クラーケン直撃。


 爆発。


 海が割れた。


 巨大肉塊が吹き飛ぶ。


 触腕千切れる。


 黒血。


 蒸気。


 轟音。


 でも。


 まだ生きている。


 化物。


 再生。


 目玉が動く。


 クルザードは即座に判断した。


「核露出」


「今だ!」


 全員が動く。


 エリザベス。


 斬撃。


 ティグリス。


 爪撃。


 ドロテア。


 火炎圧縮。


 アラン。


 金属杭射出。


 集中。


 一点。


 核。


 そして。


 最後。


 クルザード。


「シャドウバインド」


 海面に巨大影。


 闇拘束。


 クラーケン本体停止。


 動けない。


「終わりだ」


 クルザードが剣を振る。


 水刃。


 超高圧。


 核両断。


 一瞬。


 静寂。


 次の瞬間。


 海魔が崩れた。


 巨大な身体が海へ沈む。


 波。


 揺れ。


 そして。


 静かになる。


 誰も喋れなかった。


 本当に。


 倒した。


 災害級を。


 沈黙。


 そのあと。


 歓声。


「勝ったああああ!!」


「クラーケンを倒したぞ!!」


「白鯨が生きてる!!」


 船員達が泣いていた。


 抱き合う。


 笑う。


 ティグリスが海水を払いながら笑う。


「最高だな!」


 エリザベスも珍しく口元を緩めた。


「神話級討伐か」


 ヴァレリアが呆然としている。


「海運……もっと広がるわね……」


 当然だった。


 クラーケン海域。


 つまり。


 誰も通れなかった海。


 そこを突破した。


 価値が違う。


 航路独占。


 物流独占。


 食料独占。


 全部繋がる。


 その夜。


 港。


 帰還。


 都市全体が揺れた。


「帰ってきた!!」


「白鯨だ!!」


「クラーケン討伐だって!?」


 祭りになった。


 港食堂街。


 過去最大の宴。


 巨大イカ解体。


 クラーケン肉。


 超高級食材。


 湯気。


 香り。


 焼き音。


 醤油。


 味噌。


 酒。


 人々の笑顔。


 子供達が走る。


 冒険者達が騒ぐ。


 商人達が興奮する。


「海が開いた!」


「交易路だ!」


「もっと人が来るぞ!」


 クルザードはその光景を見る。


 国家が広がる。


 戦って。


 守って。


 食を届ける。


 その全部が繋がっていた。


 マチルダが静かに言う。


「あなた、本当に世界を変える気なのね」


 クルザードは少し考えた。


 そして。


「快適な場所を増やしたいだけだ」


 本音だった。


 飢えない。


 死なない。


 働ける。


 笑える。


 風呂がある。


 飯がうまい。


 それだけ。


 でも。


 その“それだけ”が。


 世界で一番難しい。


 だから。


 彼は止まらない。


 物流も。


 国家も。


 食も。


 海も。


 全部。


 繋げていく。







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