79:海上輸送
海運開始。
朝。
港に霧が出ていた。
白い。
静か。
その中で。
巨大な船影だけが動いている。
クルザード都市。
西方大港湾。
完成したばかりの海運区画。
石畳。
大型倉庫。
氷魔導冷蔵庫。
荷揚げ用ゴーレム。
船渠。
乾ドック。
全部が巨大だった。
海風に混じる。
焼きたてパンの匂い。
魚の燻製。
味噌汁。
肉を焼く音。
朝なのに。
港が生きている。
労働者達が笑う。
商人達が走る。
冒険者達が荷運びをしている。
「おい! そっちは冷蔵区画だ!」
「燻製は第五倉庫へ!」
「海藻塩、積み忘れるな!」
人が増えた。
それも。
止まらない。
クルザードは港を見上げていた。
大型輸送船。
三隻。
全長四十メートル級。
帆だけじゃない。
船尾に魔導推進器。
風がなくても進む。
ガルドが鼻を鳴らす。
「馬鹿みてぇな船だ」
「速度優先」
クルザードは即答した。
海運。
つまり。
物流革命。
陸路は限界がある。
大量輸送。
長距離。
安定供給。
全部。
海の方が強い。
だから作った。
海上輸送網。
ヴァレリアが帳簿を見ながら笑う。
「終わったわね」
「何がだ?」
「他国商会」
本気だった。
輸送量が違う。
保存技術が違う。
速度が違う。
損耗率が違う。
勝負にならない。
しかも。
クルザード都市の商品は強い。
味噌。
醤油。
燻製。
干物。
保存肉。
魔導冷蔵食材。
酒。
全部売れる。
しかも美味い。
さらに。
安い。
住民達が豊かな理由。
効率。
合理。
そこに尽きる。
クルザードが港湾地図を見ていた。
「東側航路を伸ばす」
マチルダが驚く。
「もう?」
「遅いくらいだ」
彼の頭の中では。
もう次が始まっていた。
物流とは。
先に押さえた側が勝つ。
つまり。
港。
航路。
倉庫。
供給。
全部。
先手。
そこへ。
ティグリスが魚串を食いながら来た。
「また人増えてるぞ」
クルザードが視線を向ける。
移民。
大量。
港入口。
行列。
獣人。
人間。
エルフ。
ドワーフ。
家族連れ。
職人。
商人。
理由は単純。
「ここなら生きられる」
それだけ。
冬でも餓死しない。
治療がある。
仕事がある。
教育がある。
税が軽い。
風呂がある。
飯がうまい。
治安が良い。
だから人が来る。
クルザードはその流れを止めない。
選別だけする。
犯罪者。
寄生。
破壊者。
それだけ排除。
あとは受け入れる。
結果。
人口が爆発した。
港町はもう都市だった。
そこへ。
汽笛のような音。
魔導推進器起動。
大型輸送船。
初航海。
住民達が集まる。
「出るぞ!」
「初便だ!」
「見ろ!」
子供達が走る。
港全体が祭りみたいだった。
船名。
“白鯨”。
大型輸送艦。
主積荷。
保存食。
農産物。
燻製。
薬品。
鍛冶製品。
さらに。
移民希望者。
技術者。
教師。
つまり。
文化ごと運ぶ。
それがクルザード流。
単なる商売じゃない。
経済圏を作る。
国家を広げる。
船上。
エリザベスが武装確認。
「護衛配置完了」
海賊対策。
もう済んでいる。
前回の戦いで理解した。
海を取るには。
海軍が必要。
だから。
作った。
輸送艦隊。
護衛艦。
魔導弩砲。
冷却弾。
蒸気弾。
氷結拘束弾。
全部積んでいる。
ガルドが笑う。
「商船ってレベルじゃねぇな」
「沈められたら物流止まる」
クルザードの答えは簡単だった。
物流は生命線。
だから守る。
徹底的に。
その時。
見張りが叫ぶ。
「海上反応!」
空気が変わる。
全員が海を見る。
遠方。
複数船影。
速い。
接近。
ヴァレリアが眉をひそめた。
「また海賊?」
クルザードは目を閉じる。
鑑定。
海流。
船速。
風。
積載。
全部読む。
もう。
最初の頃とは違う。
情報が多すぎて苦しんでいた男は。
今や。
情報で戦場を支配していた。
「違う」
「武装商船」
つまり。
他国商会。
邪魔しに来た。
当然だった。
海運を取られる。
物流を取られる。
市場を取られる。
黙って見てるわけがない。
マチルダが静かに言う。
「どうする?」
「簡単だ」
クルザードは海を見る。
「勝つ」
船団接近。
大型。
武装。
かなり強い。
でも。
クルザード側は動じない。
理由。
もう準備済み。
輸送艦隊後方。
海面。
突然。
巨大な影。
浮上。
住民達がざわめく。
「な、なんだ!?」
巨大海亀。
テイム済み。
海洋魔獣。
輸送護衛獣。
クルザードがいつの間にか確保していた。
ティグリスが笑う。
「お前ほんと何でも捕まえるな」
「使えるからな」
合理。
それだけ。
武装商船団。
威嚇砲撃。
火球。
でも。
「ウォーターカーテン」
巨大水膜。
火球消滅。
その瞬間。
「スチームバレット」
蒸気圧縮。
超高速射出。
敵船帆柱直撃。
爆裂。
帆が吹き飛ぶ。
「なっ!?」
「速すぎる!」
さらに。
アラン。
金属操作。
敵船の舵を強制偏向。
船同士衝突。
混乱。
そこへ。
海亀突撃。
波が跳ねる。
敵船転覆。
完全制圧。
戦闘時間。
三分。
短い。
あまりにも。
武装商船団は撤退した。
港に歓声。
「また勝った!」
「強ぇ!」
「なんなんだこの都市!」
違う。
積み上げ。
教育。
合理。
食。
物流。
全部繋がっている。
その夜。
港食堂街。
大宴会。
海鮮鍋。
蟹味噌。
焼き貝。
魚醤。
湯気。
酒。
笑い声。
獣人達が肉を焼く。
エルフが果実酒を注ぐ。
ドワーフが酔って歌っている。
移民の子供達が笑っていた。
怖がっていた顔が。
もう消えている。
クルザードはその光景を見る。
守りたいもの。
増えていた。
でも。
それを守る方法も。
もう持っている。
ヴァレリアが隣に座る。
「海運、成功ね」
「まだ始まりだ」
「怖いわね」
「何がだ?」
「あなたの頭の中」
クルザードは少しだけ笑った。
彼の視線は海の向こう。
もっと遠く。
まだ繋がっていない国。
まだ知らない市場。
まだ届いていない食。
つまり。
まだ広がる。
物流は止まらない。
食も止まらない。
そして。
人が集まる限り。
この国家は。
さらに大きくなる。




