78:海賊
海上戦。
クルザード都市。
西方港湾区画。
朝。
海風が強い。
塩の匂い。
魚市場。
干物。
燻製。
巨大な氷魔法保存庫。
港は活気に満ちていた。
獣人の漁師。
ドワーフの船大工。
エルフの薬師。
人間の商人。
全部混ざっている。
笑い声。
怒鳴り声。
競り。
荷運び。
港が動いていた。
その中心。
巨大な輸送船。
クルザード都市の物流網。
今や陸だけじゃない。
海も支配し始めていた。
ヴァレリアが港の帳簿を見ながら笑う。
「利益率、おかしいわね」
クルザードは魚の燻製を見ていた。
「輸送時間が減った」
「腐敗率も激減」
「冷蔵魔導庫が効いてる」
それだけじゃない。
道路。
港。
輸送ゴーレム。
保存食。
全部繋がっている。
結果。
物流速度が異常になっていた。
他国の商人達が慌てる理由。
それだった。
そこへ。
港の見張りが走ってくる。
「船影!」
全員が振り向く。
「数は!?」
「八!」
空気が変わった。
商船じゃない。
速い。
黒帆。
細長い船体。
武装。
ティグリスが目を細める。
「海賊か」
港がざわつく。
住民達が慌て始める。
でも。
クルザードは動じなかった。
「封鎖」
短い命令。
即座に動く。
魔導通信。
鐘。
輸送ゴーレム。
兵站。
全部連動。
もう。
この都市は反応速度が違う。
エリザベスが騎士隊を集める。
「民間人を下げろ!」
ベッティーナが防壁展開。
土魔法。
港入口へ石壁。
ガルドが笑う。
「戦争みてぇだな」
「実際そうだ」
クルザードは海を見る。
海賊船。
速い。
慣れている。
完全に略奪専門。
先頭船。
甲板。
大男が笑っていた。
「ははッ! 景気の良い港じゃねぇか!」
海賊団。
鉄牙海賊団。
周辺海域で暴れていた連中。
でも。
今まで国家も止められなかった。
理由は単純。
速い。
消える。
追えない。
だから放置されていた。
しかし。
クルザード都市は違う。
クルザードが静かに言う。
「沈める」
その瞬間。
海賊船側。
魔導砲発射。
火球。
港へ。
でも。
「アイスウォール」
氷壁。
巨大。
海上へ展開。
火球直撃。
蒸気爆発。
白煙。
住民達が息を呑む。
ドロテアが笑う。
「海なら水に困らないわね」
その通り。
水属性。
海上戦で最強。
クルザードは海を見ていた。
流れ。
波。
風向き。
全部見える。
鑑定。
意味を持ち始めた力。
今や戦術レベル。
「風向き、北西」
「速度差、こちらが上」
ヴァレリアが驚く。
「分かるの?」
「船の揺れ」
もう感覚が異常だった。
クルザードは右手を上げる。
「輸送ゴーレム起動」
港の奥。
巨大な鋼鉄音。
住民達がざわめいた。
「おい……」
「あれ何だ……?」
現れた。
四足。
大型。
鋼鉄装甲。
魔導炉。
物流用大型牽引ゴーレム。
本来は荷物運搬用。
でも。
クルザードは改造していた。
理由。
「物流は止められない」
だから。
護衛が必要。
ゴーレム背部。
魔導弩砲展開。
ガルドが笑う。
「頭おかしいな」
「合理だ」
海賊船が接近。
矢。
火炎瓶。
飛んでくる。
でも。
クルザード側は冷静。
「撃て」
魔導弩砲。
発射。
重い。
速い。
鋼鉄杭。
海賊船へ直撃。
船体貫通。
悲鳴。
さらに。
「スチームバレット」
クルザード。
海上へ魔法展開。
蒸気圧縮。
炸裂。
海面爆発。
水柱。
視界破壊。
船が揺れる。
「なっ!?」
海賊達が慌てる。
その瞬間。
ティグリスが跳んだ。
信じられない脚力。
海賊船へ着地。
爪。
一撃。
海賊が吹き飛ぶ。
「遅ぇ」
海賊達が囲む。
でも。
ティグリスは笑っていた。
強い。
本当に強い。
しかも。
背後。
ステファン着地。
「暴れるぞ!」
拳。
甲板粉砕。
海賊達が転ぶ。
そこへ。
マルセル。
飛翔斬撃。
帆を切断。
船速低下。
完全連携。
海賊達の顔色が変わる。
「なんだこいつら!?」
「化け物か!?」
違う。
合理。
準備。
教育。
連携。
全部積み上げた結果。
クルザード都市はもう。
普通の地方都市じゃない。
海賊船二隻沈没。
三隻大破。
残りは逃走開始。
でも。
逃がさない。
「風壁」
クルザードが海風を圧縮。
逃走方向へ暴風。
帆船が傾く。
速度低下。
さらに。
アラン。
金属魔法。
海賊船の錨鎖を操作。
絡める。
船同士が衝突。
轟音。
完全混乱。
エリザベスが剣を抜いた。
「制圧開始!」
騎士団突入。
海賊達は崩れた。
強い。
圧倒的。
しかも。
港側被害。
ほぼゼロ。
住民達が歓声を上げる。
「勝った!」
「海賊が負けた!」
「早すぎるだろ!」
港全体が揺れる。
海賊団長が血を吐きながらクルザードを見る。
「……なんなんだお前ら」
クルザードは静かだった。
「飯屋だ」
本気で言っていた。
最初は。
本当にそうだった。
料理。
保存食。
物流。
そこから始まった。
でも。
全部繋がる。
物流を守るには。
治安が必要。
道路が必要。
港が必要。
戦力が必要。
国家になる。
必然だった。
海賊達は捕縛された。
その日の夜。
港町。
大宴会。
魚鍋。
焼き魚。
海鮮炊き込み飯。
酒。
湯気。
笑い声。
子供達が走る。
漁師達が笑う。
ティグリスが魚を豪快に食う。
「海の飯うめぇな」
ドロテアが呆れる。
「あんた食ってばっかね」
「戦った後だぞ」
ガルドは酒樽を抱えていた。
もう完全に酔っている。
クルザードは港を見る。
静かな海。
でも。
分かっていた。
これで終わりじゃない。
海路。
つまり。
交易。
金。
物流。
国家の血管。
そこを押さえ始めた。
なら。
もっと敵が来る。
国家。
商会。
海賊。
全部動く。
でも。
クルザードは止まらない。
物流を支配する者は。
国家を支配する。
そして。
食料を止めない者が。
最後に勝つ。
港の灯りが海を照らす。
その光景を見ながら。
ヴァレリアが静かに笑った。
「……本当に覇権国家になりそうね」
クルザードは答えない。
ただ。
海の向こうを見ていた。
その先にも。
まだ市場がある。
まだ人がいる。
つまり。
まだ広がる。




